終幕
終わり!!!
気がついたら、一週間がたった。なにも、覚えていない。喪失感から来る無気力に私は完全に打ちひしがれていた。
彼女がいない世界に、一体どんな価値を見いだせばいいのだろうか?
そんな中、美術部の顧問から呼び出しがかかった。美術室に来い、という。今更、一体なんだというのだろうか。
陰鬱のなかで、私は渋々美術室へと歩みだした。
美術室に入ると顧問の先生がいつも彼女が座っていた椅子の隣に立っていた。
初老の顧問は私を見るや否や、細い目をさらに細めてこっちに来い、と手招きする。
私はその招きに応じて顧問の元まで向かう。椅子の前には白い布が被せられたキャンパス。
「君に届け物だ」
顧問はその白い布を取り払う。現れたのは、一枚の絵。その絵を見て、私は、言葉を失う。
「実は、○△君が学校にこなくなる前日に私の元へ来てね。」
「『もし、私になにかあったら、少したって彼に渡して下さい』と言われてな、こうして君に渡すために呼んだ」
絵には、綺麗なレモンと一一一一
「•••では、僕は失礼するよ」と、言って顧問は去る。
一人の無愛想な少女と
微笑んでいる、少年が描かれていた。
私は、その絵の前で長い間立ち尽くした。あふれんばかりの思いが同時沸き立つ。
彼女は、自分の死を予期していたのだろうか?これほどの絵を描くのに二、三日では足りない最低でも一、二週間は必要だろう。
だったら、どうして私に一言告げてくれなかったのだ。こんな絵だけ残されて、彼女が消えて、私になにができるというのだろう。
一体、なにを納得したらいいというのだろうか。
冬の日は短い。既に外は暗く、美術室も既に暗くなっていた。
どれほど、長い時間彼女の絵の前に立ちすくんでいたのだろうか、下校を告げる校内アナウンスでようやく我に帰る。
とりあえず、私はこの絵を持って帰るため手に取る。そこで、絵の隅に張ってある一枚のメモ用紙に目を止める。なにやら、書いてある。
私は、そのメモ用紙を剥がす。筆跡は間違いなく彼女のものだ。
『未完成につき、また会う日までに完成させておいてください ○△より 』
会う、と言ったって彼女は、君はもういないじゃないか。そして、君は私にこの絵の続きを描けという。
しかし、この絵に続きがあるのだろうか?それも、含めて私に描けということか。
私は、優しくその未完成の絵を抱き抱える。冷たいはずのその絵は、ひどく温かく感じられた。まるで、彼女のあの白い手のように。
君が、私にこの絵の続きを描けというのなら、描こう。君の言う、『また会う日』に向けて。
後ろでだれかが、去る足音が聞こえた。
愛読有り難うございます。実は二人の物語にはまだ続きがありますが、それはまたいつかの機会にでも•••