後編
悲劇。
いつもと何も変わらない日々、独りで朝起き、会話もせず朝食を食べ家をでて行く、つまらない授業をうけて、価値のない友人の与太話を聞き流す。
そして、彼女がいる美術室へと足を向ける。いつも私より早くに着いて無駄な動作なくキャンパスにレモンを描いているはずなのだが、今日はいなかった。
珍しいこともあるもんだ、とのんきな思いを抱いて彼女を待つことにした。
しかし、いくら待っても彼女は姿を現さなかった。不思議に思った私は、彼女と同じクラスの美術部員に彼女のことを聞いてみたが、誰も彼女の姿を今日クラスで見た者はいないという。
風邪か何かだろう、あくまで私は楽観的だった。明日か、明後日かになればまた会えると考えていた。
だが、明日になっても、明後日になって、明々後日になっても彼女はその姿を現すことはなかった。携帯にメールしても、電話しても一切の応答がなかった。
どうしょうもない、暗い何かが私の胸を揺さぶる。そして嫌な想像をかき立てさせる。
一週間たち、いてもいられなくなった私はそのわけを彼女の担任に聞いてみる事にした。しかし、その担任は私が彼女の名前をいうやいなや表情を歪ませ、質問すらしていないのになにも知らないと言って去って行った。
もはや、私には焦りしかなった。学校が終わるや否や、私は鞄を乱暴に持って教室を飛び出る。駆ける足が向く先は、いつも私と彼女が歩いたあの道、そしてその終着点の彼女の家。
動悸が収まらない。真冬だっていうのに汗が止まらない。焦りが私の胸を握りつぶさんとする。
現実はただそこにあった。彼女の家があった場所には、すす汚れた焼け跡と立ち入りを禁ずる看板がしてあるだけだった。
私には、わけが分からなかった。どうして、彼女の家があった場所がそんな風になっているのか。
ただ現実だけが、そこにあった。私の、聖域は廃墟と化したのだ。
その場、膝が崩れ去った。次に悲しみが形となって流れ出した。突然突きつけられた現実に胸が悲鳴をあげてもだえ苦しむ。
「○△さんは、不幸な事故に遭われましてその短い•••」
「皆さん、しばしの黙祷を•••」
「このような•••」
数日のあと、緊急の全校集会が開かれて言葉足らずの校長先生から彼女の死を告げられた。
一家心中したらしい、とか放火された、などと様々で身勝手な憶測がまことしやかに流れたがそんなことは、どうでもよかった。
私に、ただ一つ確かなことはもう彼女のレモンを見ることはないということだった。
ただひとつの、絶対の、私を守ってくれる聖域が突如にして消え去った、私にはその現実しかなかった。
この、喪失感を人は絶望と呼ぶのではないだろうか?
終幕に続きます。




