第1話 炎命士
この度は拙作「血盟の炎命士」をお読みに来て下さり、誠にありがとうございます。
当作品は、独自設定が多く含まれており、
作品内での説明文章等は作者自身が好みではない為、
前書きや後書きにて、説明させて頂く予定です。
ご了承下さいませ。
十二月中旬、今年も後半月に差し掛かり、クリスマスシーズンとなった東京都内は何処もかしこも光り輝くイルミネーション、サンタクロースの格好をした若者、雪だるま、クリスマスツリーで溢れていた。
電光掲示板が煌々と光り、道行く人々に今日の天気を告げていた。
「今年は記録的寒波らしーよ!」
「マジ?寒すぎっしょ!」
普通の会話、普通の日常。
学生二人が学校帰りで楽しげに歩いていた。
大声で半ば叫びながらの会話は周りの音を弾き、彼らの危険を知らせる音も耳には届かない。
「……ガルルルルルル……」
「……それでさ!教頭のズラがそこでスポってーーッ!?」
「え、マジ?そんなことあんのかよ!おもしれー! ……え?」
一人の少年は、突如として視界が落下したことに理解が追いつかず、愕然とした。
その隣で会話を聞いていた少年は、友人の首から上が消え失せている光景を目にし、目を見開く。
丸くなった瞳が地面にコロコロと転がり、ナニカの大きな足に踏み潰されてトマトみたいにグシャリと潰れた。
「……セイ、遅い! 早くして!」
「ちょっ、すみ姉! 早すぎるよ、待って!」
茶髪と褐色の肌が、特徴的な女の子は凄まじい速度で、ビルとビルの間を飛び越えている。
負けじと後ろから重厚な鎧で身を包んだ少年が彼女の後を追う。彼は重い身体を必死に動かすが、褐色肌の少女へ一向に追いつかない。
「Aランの妖発生だよ! 既に犠牲者が出てるって話だし、俺ちゃんは先行くからね!」
「……待ってよ、すみ姉ええええ!」
褐色肌の少女はさらにギアを上げる。
後ろから少年の声が聞こえるが、無視して妖の発生地点へと向かった。
「純恋様、聖火様、お待ちしておりました。私共の結界型炎命術で妖を結界内に留まらせている状況、犠牲者は二人の少年です。」
黒服、黒サングラス姿の七三分けをした男性が汗で濡れた顔をハンカチで拭いながら、二人へ声を掛ける。
「了解したぜ! それで種別は? 」
褐色肌の少女、純恋はやる気満々で準備運動をし始めた。
「動物型、Aランクの狛犬です。獰猛かつ冷静に此方の様子を伺っているようですから、かなりの手練れかと。 」
「了解です。結界、後どれくらい持ちますか? 」
重量感のある鉄の鎧を身に付けた少年、聖火も純恋と同じく準備運動を始める。
「私共が燃やす命の炎は一体型、十五人で少量の炎を出し合い、形成しているので結界の強度と維持に関しましては問題ありません! 」
「それは頼もしいですね。誰かさんの結界とは大違いです。 」
聖火はこの場にいない誰かの皮肉を言った。
準備運動も整ったようで、黒服の方々が生成してくれている赤い炎がドーム型に燃え滾る結界の中へ進む。
「それじゃ、行ってきます! 」
「……御二方、ご武運を。 」
黒服が礼をし、顔を上げた頃には二人の姿はもう見えなかった。
何の変哲もない住宅街の奥地、近くの住人達には避難勧告が出され、街には人っ子一人いない状況なだけに怪しげな静けさが漂う。
「面倒な相手だな。 」
「またそんなこと言って、行くよ。セイ!」
純恋は振り返りもせず、歩きながら言った。
「……ッ?」
背後からぼとりと重たいナニカが落ちる音がして、純恋がすぐさま振り向く。
何かを包んだ真っ赤な布がほろりと開き、そこには一本の腕だけがあった。
思わず目を見開き、神経を研ぎ澄ますも、時既に遅し。凄まじい速度で回転しながら迫ってくる妖の鉤爪に左腕を切り裂かれた。
「……ッ!?……ッ……うぐッ……!!」
純恋は持ち前の反射神経で何とか身体を捩り、致命傷を避けていた。但し、相手方は攻撃を止める様子はない。純恋の腕を切り裂いた後、壁を蹴って加速。回転しながら鉤爪をギラリと光らせる。
「……な、舐めんじゃッ……ねェッ!!」
自分の掌で胸部を一杯に掴み、目を閉じた。
すぐそこまで鉤爪が迫ってきている。
姿形もロクに見えていない相手、Aランクの妖だと侮っていた自分、犠牲者の腕を使って此方側を出し抜く術、それら全てに腹が立つ。
純恋の掌に橙色の綺麗な炎が宿り、拳を握りしめた瞬間、炎が一点に圧縮された。
鉤爪が届くか届かないかの境目で彼女は一歩を強く踏みしめ、捻るように拳を回転させ、迫り来る妖の顔面へ拳を叩き込む。
「がァァァァァ!!」
それは見事、会心の一撃へ繋がり、住宅街の塀へ吹っ飛ばす。屋根に積もった雪が追い打ちをかけるように落下し、狛犬を覆った。
「すみ姉!肩、大丈夫!?」
「……何とかね。にしても、油断したよ。いくら知能が高いとはいえ、こっちの感情を揺さぶってくるとは……厄介だ。」
純恋は両手に宿った炎を切り裂かれた肩に当て、火傷による止血を行なった。かなり強引な治癒方法であるが、応急処置としては妥当。
苦虫を噛み潰したような渋い顔をして、指の骨をポキポキと鳴らし、塀にめり込んだまま暫く動かない相手方の様子へ視線を向ける。
「……ガルルルッッ!!」
狛犬は立ち込める煙幕を切り裂くように宙へ飛び上がり、破壊され尽くした住宅の瓦礫を踏み場にこちらの様子を伺いながら威嚇の態勢を取る。
大きく鋭い瞳はぎょろぎょろと動き、純恋を標的に見据える。
「威嚇しながら次に動く予定の位置まで把握か、本当に動物型は厄介だよ。」
「……油断して一撃貰った俺ちゃんが言うのは何だけど、決して勝てない相手じゃない! 行くよ、セイッッ!!」
「ああ!!」
聖火と純恋は、ほぼ同時に地面を蹴って走り出した。純恋は宙へ飛び、炎を込めた拳を狛犬へ振り下ろす。ーーが、これは弾かれた。
背後へ受け身を取ろうとするも、狛犬は飛び上がり身体を回転させながら純恋に鋭い蹴りを放つ。
確実に取られた一撃、動物型だと油断していたさっきの一撃とは何かが違う。
狛犬は、とてつもない違和感を感じた。
"もう一人の人間は何処にいるのか"
という違和感、それが分かったのが遅かろうが早かろうが、もう追いつけない。
飛び上がったのは空中、地に足を付けていればまだ何か出来たのかもしれない。
蹴りを放った相手に手応えはなく、純恋は手の炎を集中させてガードに成功していた。
地面が足の形で陥没するくらいの強い踏み込みによる跳躍、聖火は背中に刺さった剣を引き抜き、狛犬の顔面へ強い一撃を振り下ろす。
「ガァァァァァアアアアアア!!」
耳を劈くような断末魔が周囲へ響く。
狛犬は顔面を軸に真っ二つへ切り裂かれ、その断面から流れる黒い粒子となって消滅した。
「たった一撃でAランクを……! あれが……紅蓮が誇る《血盟の炎命士》!」
結界を維持していた黒服の一人が初めて見たのか、感激に満ちた様子で口を開く。
「すみ姉!大丈夫?」
「すぐに受け身取ったし、ガードしたからもう大丈夫! 俺ちゃんはぬるま湯じゃないしィ!」
スルスルと空気に混じるように溶けていく結界が無くなると、黒服の男達は一同にお辞儀を行なった。
「純恋様、聖火様、お疲れ様でした。亡くなった方々のご遺族様方が来られています。お願いします。 」
さっきまでふざけていた様子の彼等もこの時ばかりは真剣な表情でコクリと頷いた。
「セイ、俺ちゃんが行くよ。 」
「すみ姉、俺なら大丈……ぶ……分かったよ。 」
黒服の男達の背後で泣き崩れているご家族を前に純恋は深呼吸をして感情を整え、口を開く。
「……炎道純恋と言います。今回の妖の出現で大切なお子様方を護れず、申し訳ございませんでした。取り返せたのはおひとり様の腕の一本、のみです」
純恋はご家族の方に固まった血だらけの腕を渡す。
腕の持ち主の遺族が必死に抱き抱え、大声で涙を流した。
「……け、啓介ッッ!!」
「お前ら炎命士は事前に防ぐ力もないのかッ! この役立たずッ!」
「妖を倒してくれたって遅いんだよ! 俺の息子はもう帰ってくることも出来ないんだッ!」
「うぅ……うぐっ……わぁぁあああ!!」
ご遺族の方々は純恋に怒りを押し付け、顔を真っ赤にして怒鳴る。そして気が済むまで、これでもかというくらい純恋を責め続けた。
「……申し訳ございません」
純恋はたった一言、ひたすらに謝り続けた。
救えたかもしれない命が簡単に失われていく辛さ、ご遺族様方の気持ちは痛いほど分かる。
「お前らに今後期待することなんてない!」
そう言って、ご遺族の方々は去っていった。
「……すみ姉、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。俺ちゃんの心の痛みなんか、ご遺族の方々の気持ちに比べれば大したことない。それでも……」
純恋は暗い表情で下唇を強く噛み締め、爪が掌に貫通するくらい、強く拳を握った。
「うん、分かってる。でも、これは誰も悪くないよ。全部悪いのは獄炎郷だ」
この場所からでも薄らと見える都心聳え立つ黒い箱。
聖火はそれをただ、静かに見上げた。
◾️炎命士
命に宿る炎を燃やし、妖を討ち滅ぼす者達。
様々な名家や、流派が存在し、
組織的な階級制度も存在している。
◾️炎命術
胸部(心臓)付近に宿る生命の炎を燃やし、指や筆などに宿すことで妖を屠る力を使うことが出来る。
使用回数に明確な数字は無いが、命を燃やしている為、
使い過ぎれば死に至る。
◾️獄炎卿
関東地方を大きく取り囲む四角く黒い箱型の結界に
封印された妖を生み出す諸悪の根源である地域。
強い結界と水場に囲まれており、入ることは出来ない。
獄炎卿が存在していることで、日本の妖発生率が格段に上がっていると言われている。
◾️動物型
知能指数が高い妖、姿形が動物の姿に酷似していることから命名された。状況によって、臨機応変に判断、行動が出来る。群れる種類も居り、相対する時は油断大敵。
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お忙しい中、読みに来てくださってありがとうございました。




