第4章 ~塩と種と嘘~
リンゴが額に当たって目が覚めた。
強い衝撃じゃない。
でも、目を開けるには十分屈辱的だった。
数秒のあいだ、暗い木の天井を見つめながら、なぜ自分が床で寝ているのか、膝の上に杖を渡し、広間の壁にもたれた負傷した狼少女がいるのか、思い出そうとした。
それから思い出した。
俺は死んだ。
転生した。
生きた塔の暫定管理者になった。
負傷した訪問者を受け入れた。
怪物が石を引っ掻くあいだに壁の穴を補修した。
そして今、塩を買いに街へ行かなければならない。
「二周目の人生か」と俺は呟いた。「シンプルに始まったな」
レナは俺より先に起きていた。
彼女はもう一つリンゴを手に持ち、分類しがたい表情で俺を観察していた。信頼には見えない。軽蔑でもない。「この人間まだ生きてる、興味深い」に近い。
「追われる身のわりに寝すぎ」と彼女。
「昨日まで追われてなかった」
「今は追われてる」
「おはよう、そっちもな」
ゆっくりと起き上がる。首が抗議した。寝室のベッドは空だった。何かが入ってきたときのためにレナを壁のそばに置き、俺は広間で寝たほうがいいと思ったからだ。実際のところ、それはただ単に、俺が歪んだ姿勢で寝て、目覚めがさらに悪くなっただけだった。
朝の光が中庭から差し込んでいた。リンゴの樹が塔の中央で揺れている。まるで論理に何の義務もないみたいに、たっぷりと実をつけて。
記録が現れた。嫌な上司のように時間厳守で。
管理者の状態:疲労/軽度空腹/筋肉痛
一時訪問者レナ:安定/移動能力低下
推奨目標:ヴァルゲルの街
優先品目:塩/穀物/種子/薬/調理器具
「塔ですら、俺の最優先がまともに食うことだってわかってる」
レナはリンゴをかじった。
「他の人の前でそれと喋ったら、取り憑かれてると思われる」
「俺が管理者だって言ったら?」
「もっとマシじゃない」
「よし。なら今日の俺は、森で迷っただけの普通の人間。連れは負傷した狼少女。持ち物は不審なほど美味いリンゴ」
「リンゴの部分は無しで」
彼女は貯蔵庫を指さした。
「たくさん持ってくな」
「なんでだ? 金に換える必要がある」
「だからこそよ。うますぎる果物は目立つ。うますぎる水は目立つ。塔から来たものは全部目立つ」
俺の足元に転がっていたリンゴを見た。
皮は赤く、滑らかで、美しすぎる。初日に十一も食った俺ですら、これが普通の果物に見えないことは認められた。
「なら何を売るんだ? 俺の尊厳は昨日もう使った」
レナは数秒、考えた。
「少しだけ持って。野生の樹を廃墟の近くで見つけたと言って。場所は言わないで。同じ場所で全部売らないで」
「お前、上手いな」
「生き延びるのが?」
「ロジスティクス込みで嘘をつくのが」
彼女は目を逸らした。
「氏族のそばで生きてると覚える」
俺は訊かなかった。
まだ。
彼女の周りには多すぎる疑問があった。追跡者とは誰か、なぜ追われているのか、なぜ死の塔に逃げ込んだのか、なぜダンジョンの契約にそこまで詳しいのか。だが、俺にも自分自身について、神について、塔について、リンゴ以外をどう料理するかについて、多すぎる疑問があった。
優先順位。
第一に:死なない。
第二に:塩。
停止中の厨房へ向かう。
昨日は完全に死んでいるように見えた扉が、今は少し開いていた。内部は相変わらず空っぽだが、暖炉の暗さはやや和らいでいた。ひび割れた調理台、空の戸棚、鍋があるべき空間があった。
記録が現れた。
施設:厨房
状態:部分応答
利用可能機能:限定的な乾燥保存/簡易加熱は利用不可
基本使用の要件:鍋/ナイフ/塩/登録済みの穀物または野菜/安定した火源
「お前、どんな上司より多くを要求するな」
表示板が瞬いた。
コメントは無視されました
レナが戸口に現れ、壁にもたれた。
「塔のくせに喋りすぎ」
「それ、まずいのか?」
「この塔は、逆が証明されるまですべてまずい」
「お前に庇護を与えた」
「罠だって獲物を中に入れる」
この少女には、あらゆる安堵感を台無しにする特別な才能があった。
貯蔵庫で簡素な袋を取る。古びていたが、無事だった。数個のリンゴと、即席の水筒に入れた水、乾いた薪を少し詰める。杖に運搬形態を頼むと、鉤と支えのついた棒のようなものになり、袋を肩に担ぐのに役立った。
優雅じゃない。
だが、昨日のシャベルのあとでは、期待値は下がっていた。
レナは支えなしで立ち上がろうとし、危うく倒れかけた。
床にぶつかる前に彼女の腕を掴む。
「それで半日は歩けない」
「歩く」
「嘘だ」
「ゆっくり歩く」
「誇りつきの嘘でも嘘だ」
彼女は顔をしかめた。
「もっといい選択肢があるの?」
杖を見る。
「たぶん」
「やめて」
「俺が何を提案するか知らん」
「あなたの顔がもう説明した」
結局、より良い選択肢は二人にとって屈辱的だった。
杖は、俺が頼んだような荷車にはならなかった。まともな担架にもならなかった。それは簡素な支持構造になり、松葉杖と二本杖のあいだのようなものだった。レナはそれに片側から寄りかかり、俺が反対側から肩を貸した。
彼女はそれを憎んだ。
俺もだ。
だが、機能した。
出発する前、記録が内門の前に現れた。
外部開放を要求
警告:門を開くと、臭気、音、痕跡が保護区域外に漏れる可能性があります
第一階層の防壁が34%低減します
確認しますか?
「34パーセントってずいぶん具体的だな」
「怖いなら開けなきゃいい」とレナ。
「怖い。ただ、塩もない」
彼女は一瞬、じっと俺を見た。
それから短く笑った。
「塩を勇気の理由みたいに言う人間、初めて見た」
「塩は哀しい飯を許容可能な飯に変える。それが文明だ」
門に手をかける。
「開放を確認する」
石が震えた。
次に来た音は、古く、大きかった。何年も眠っていた何かが関節を動かしているような音だ。門はゆっくりと開き、苔と土と乾いた根を押しのけていった。
光が入った。
中庭の細い光じゃない。
世界の光だ。
塔の前に森が広がっていた。
高い木々、太い幹、深い緑の葉。空気は湿った土、樹脂、強すぎる花の匂いがした。遠くで、鳥が鳴いていた――鳥らしくない鳴き方で。虫がブンブンと唸る。小さな何かが根のあいだを走り、ちゃんと見る前に消えた。
振り返る。
そのときようやく塔の大きさを理解した。
内側からでも大きく見えた。
外からだと、桁外れだった。
構造物は、手で作られた山のようにそびえ立っていた。黒ずんだ石、割れた窓、巨大なアーチ、壊れたバルコニー、低い雲のなかに消えていく階層。蔓が壁の一部を覆っていたが、その規模を隠せてはいなかった。あれは普通の塔じゃない。
死んだ垂直都市だ。
あるいは、眠っているか。
唾を飲み込んだ。
「俺、ここで寝たのか?」
レナは上を見上げた。
この場所を知っている彼女でさえ、居心地悪そうだった。
「ここに住んでるって言っちゃダメな理由、わかったでしょ?」
「俺が俺自身に家賃を請求すべき理由はわかった」
記録が門のそばに現れた。
外部出口を開放
管理者が安全区域外にいます
幸運を
その言葉をじっと見つめる。
「幸運を?」
表示板は消えた。
「臆病者め」と呟いた。
レナは歩きはじめていた。
「街はこっち」
俺たちは森を進んだ。
最初は、半日の道のりは簡単だと思っていた。俺は新しい身体で、もっと若く、もっと軽い。水もある、リンゴもある、現地ガイドもいる。
二十分後、新しい身体には踏み分け道の経験が付属していないことを知った。
根っこ、泥、虫、顔に当たる枝、隠れた石。森はまるで人間の足首を憎む誰かが設計したようだった。
レナは、怪我しているのに、俺よりうまく動いた。
「あなた、歩く音がうるさい」
「都会生まれの歩き方だ」
「人間の街?」
「そんなところだ」
「そこには森がないの?」
「上司がいる。もっと悪い」
彼女は横目で俺を見た。
「あなた、自分の世界をダンジョンみたいに話すのね」
少し考えた。
「そうだったのかもな」
彼女は答えなかった。
なぜか、そのせいで道のりはもっと静かになった。
一時間後、狭い小川のそばで止まった。レナは水を確認し、空気の匂いを嗅ぎ、それからようやく石に腰を下ろした。彼女にリンゴを一つ渡し、自分も一つ食べる。食べたかったからじゃない。それしかなかったから。
「ここの金」と俺は言った。「どうなってる?」
「銅貨、銀貨、金貨。ヴァルゲルでは直接交換もいける」
「リンゴと塩の交換?」
「たぶん。でもたくさん持ってるのは見せないで」
「種子は?」
「普通の種子は安い。小麦、カブ、タマネギ、石豆。良い種子は商人か氏族の農民が持ってる」
「石豆?」
「長く煮る。腹が膨れる」
「完璧だ。俺の今の料理は丸かじりリンゴと水の味がする水だ」
レナは水筒を見た。
「塔の水はあなたが思うより価値がある」
「いくらくらい?」
「誰かが余計なことを訊くには十分」
「なら売らない」
「売らない」
彼女は小さな石を拾い、地面に線を引いた。歪な円を描く。
「ヴァルゲルは交易の街。単独の氏族は持ってない。狼、狐、猪、兎、猫、人間、旅の矮人……ルールを守ればみんな入れる」
「文明的だな」
「そう見える」
「その言い方には毒がある」
「経験が込もってる」
彼女は円の端に三つの印を描いた。
「衛兵は嘘の匂いを嗅ぐ。文字通りなのがいる。どこから来たか訊かれたら、西の小さな廃墟で目覚めて、遠くに閉ざされた塔を見つけたって言って。中に入ったとは言わないで。『記録』があるとは言わないで。塔が食べ物を生産するとは言わないで」
「お前について訊かれたら?」
レナは止まった。
石を握る手に力が入る。
「街道で傷ついてるのを見つけたと言って」
「それはほとんど本当だな」
「ほとんど本当のほうが、まるごとの嘘より長持ちする」
いい言葉だった。
そして、彼女が送ってきた人生の種類について、最悪のサインだった。
進みつづける。
正午近く、森は変わりはじめた。木の間隔が広くなる。地面に轍の跡。いくつかの幹には、道を示すのであろう赤い布が結ばれていた。空気も変わった。煙の匂い、革、食べ物。
本物の食べ物だ。
俺の腹は神の啓示を受けたみたいに目を覚ました。
「聞こえた?」とレナが言った。
「俺の腹が?」
「違う」
立ち止まる。
遠くで、声。
たくさん。
金属が打つ音。動物。車輪。流れる水。
草に覆われた小さな高みを登る。
向こう側に、ヴァルゲルが見えた。
巨大な首都じゃない。小さな村でもない。
それは辺境の街で、補強された木の壁と低い石壁に囲まれていた。赤と茶色の屋根が中央広場を囲んで広がっている。煙突から煙が立ち、旗が吊るされ、荷馬車が広い門を通って入り、様々な種族の姿が道を歩いていた。
耳。
尻尾。
小さな角。
牙のある大柄な男たち。
猫のような尾の女たち。
人間もいた――少数だが、荷馬車のあたりに混じっている。
うるさくて、危険で、生きているようだった。
とても生きている。
塔のあとでは、目に痛いくらいに。
「ヴァルゲル」とレナ。
「やっとだ」
「ここからは、喋るな」
「俺の特技は緊張すると喋ることだ」
「じゃあ唖者のフリして」
「残酷だが公正な作戦だ」
街道へと下りていく。
近づくほどに、人々がこちらを見た。
レナをじゃない。
俺を。
奇妙な服の人間で、袋を担ぎ、杖を持ち、負傷した狼少女を連れている。目立つ。当然か。
門のところで、二人の衛兵が入口を塞いでいた。一人は猪の耳と丸太のように太い腕を持つ。もう一人は痩せて背が高く、尖った耳に細い目。たぶん、狐。
狐の衛兵は、俺たちが話すよりも先に空気の匂いを嗅いだ。
彼の視線はレナに留まり。
それから俺に。
それから袋に。
「名前と目的を」
レナが口を開いたが、彼は手を上げた。
「人間が答えろ」
素晴らしい。
外出初日の口頭試問か。
「シン」と俺は言った。「塩と種子と調理器具と薬を買いに来た。彼女は街道で負傷してるのを見つけた」
衛兵は俺を観察した。
「シンだけ?」
「シンだけだ」
「どこから来た?」
レナの言葉が頭の中で浮かんだ。
西の小さな廃墟。遠くの閉ざされた塔。入ってない。何も知らない。
「西の廃墟で目覚めた」と答えた。「この地域には詳しくない」
狐の衛兵は表情を変えなかった。
彼はただ、顔を傾けただけだった。
もう一度、匂いを嗅いだ。
よりゆっくりと。
それから、彼の目が細められた。
「部分的に嘘だ」
心臓が沈んだ。
レナは俺の横で硬直した。
猪の衛兵が戦斧の柄に手をかけた。
狐の衛兵は一歩前に出て、俺をまっすぐに見た。
「お前、死んだ石の匂いがする」
街道が静まり返ったように感じられた。
彼はつづけた。
「人間、お前は正確にどこで夜を過ごした?」
レナがさりげなく俺の腕を押さえた。
強くはない。
警告に十分なだけ。
ここで一歩まちがえれば、すべてが終わる。




