第145章 〜秋の気配、変わらぬ日々〜
秋が近づいていた。空は高く澄み渡り、リンゴの木には赤い実が鈴なりに実っていた。中庭には落ち葉が舞い、子供たちはそれを集めては山を作り、飛び込んで遊んでいた。
「父さん、見て!」
ヒカリが木剣を片手に、落ち葉の山を鮮やかに両断してみせた。八つになった彼女の剣捌きは、もはや遊びではなく、確かな技術だった。隣ではカイが静かに拍手を送り、テオが「次は僕!」と小さな木剣を振り回していた。アリアは翼をばたつかせて落ち葉の上をふわりと滑空し、ソルとフェリルは二人で一つの大きな葉っぱを宝物のように抱えていた。リラは泉のそばで水に映る雲を眺め、リオンは母ミリの膝の上で帳簿の端を握って離さなかった。ルミナは相変わらずふわりと浮遊しながら、青い光で落ち葉の山を照らしていた。
「秋だな」と俺はリンゴの木の下に座りながら言った。
「秋だな」と隣のレナが返した。彼女は手に持ったリンゴをかじりながら、子供たちを見守っていた。「今年はリンゴが豊作だ。セラが喜んでる」
「市場でも売れる。ミリも喜ぶ」
「ゴルンは果実酒を仕込むと言ってた」
「みんな忙しいな」
「平和な証拠だ」
彼女の尻尾が静かに揺れた。その顔には、深い満足が刻まれていた。
午前中、俺はアルテアと共に温室で薬草の世話をしていた。秋は収穫の季節であり、冬に備えて乾燥ハーブを仕込む時期でもあった。テオは母親の隣で小さな乳鉢と乳棒を手に、カモミールの花を丁寧にすりつぶしていた。
「テオ、それは煎じ薬にするのか」と俺は尋ねた。
「うん。冬の風邪用。母さんのレシピ」
「もう一人前の治癒師だな」
「まだまだです」とアルテアが微笑みながら口を挟んだ。「でも、筋はいい。私が子供の頃より、ずっと熱心」
「母親がいい先生だからな」
「あなたも、いい父親です」
彼女はテオの頭をそっと撫で、それから俺の手に触れた。その手は土の匂いがして、ほんの少しだけ冷たかったが、その奥には確かな温もりが流れていた。
午後、村の広場では秋の収穫祭の準備が始まっていた。今年の収穫祭は例年より少し早く、自由都市からの使節も招くことになっていた。ミリとバルドが中心となって準備を進め、セラが特別に焼くパンの種類を増やし、ゴルンが果実酒の仕込みに余念がなかった。
「今年の収穫祭は、村始まって以来の規模になる」とミリが帳簿を手に言った。「自由都市から正式な使節が来る。それに、山岳氏族からも新しい使者が参加する」
「サラか。若いのに大したものだ」
「ええ。彼女は新しい世代の代表です。山岳氏族も変わりつつある」
「変わることができたのは、お前たちのおかげでもある」
「私だけじゃない。皆がここで生きて、働いて、子供を育ててきたから」
夕方、俺はリサンドラと共に村の外れの丘に立っていた。秋の夕日が村の屋根を黄金に染め、遠くの森は赤と黄色に色づき始めていた。ソルは彼女の腕の中で眠り、その銀色の髪が夕日に輝いていた。
「季節は巡るな」とリサンドラが言った。
「ああ」
「十年前は、ここには何もなかった。今は村があり、学校があり、交易館があり、子供たちがいる」
「感慨深いか」
「少しだけ。でも、まだ終わりじゃない。これからも、この場所を守り続ける」
彼女はソルの頭をそっと撫で、それから俺の手を握った。その手は相変わらず冷たかったが、その奥には確かな温もりが流れていた。
夜、屋上に立つと、秋の月が明るく輝いていた。遠くの森からは、虫の声がかすかに聞こえ、村の灯りが一つ、また一つと点っていた。その数はもはや数え切れないほどだった。
「またここにいた」と声がした。シルフィーだった。彼女は翼をたたんで隣に降り立った。
「お前もか」
「うん。アリアがやっと寝た。最近、なかなか寝つかなくて。空を飛びたいって、毎晩のように翼をばたつかせるの」
「母親に似たんだな」
「そうかも。でも、嬉しい。あの子が空を好きでよかった」
彼女は翼をそっと俺の肩に掛け、村の灯りを見下ろした。
「この村、ずいぶん大きくなったね」
「ああ。十年前は何もなかった」
「でも今は、こんなに。全部、あなたが始めたことだ」
「俺だけじゃない。皆がいたからだ」
「うん。でも、その皆を集めたのはあなた」彼女は翼でそっと俺を包み込み、それから微笑んだ。「私もその一人。集められて、ここに留まった。それが今では、私の人生そのものになった」
秋の風が塔の周りを吹き抜け、リンゴの木の葉がかすかに揺れた。明日はまた新しい日。収穫祭の準備が進み、新しい出会いが訪れ、それでも変わらないものがここにある。静かな秋の夜に、そのすべてが優しく息づいていた。




