第134章 〜水の子、再び〜
春がまた塔を包み、リンゴの木が白い花をつける頃、マリスが俺の手を取って泉のそばに座った。カイは五つになり、今では一人で泉の水面を眺めては、そこに映る雲の形を読み取れるようになっていた。
「シン、私、決めたの」と彼女は静かに言った。白い目が春の陽射しを受けて輝き、水の髪はゆっくりと銀色から青へと色を変えていた。
「何を」
「もう一人、子供が欲しい。カイも少し大きくなった。今なら、次の子を迎える準備ができてる」
「お前がそう言うのを待ってた」
「水は急がない。でも、あなたとの約束は果たしたい。ずっと前から、そう思ってた」
俺は彼女の手を握り返した。彼女の指は冷たく、しかしその奥には確かな温もりが流れていた。
「いつでも」
彼女は微笑み、泉の水面に手を浸した。水がかすかに輝き、その光が彼女の指を伝って腕へと広がっていった。
「水の精はね、子を望むとき、泉に誓うの。この水が枯れない限り、私はこの子を守る。この塔が立つ限り、私はここに留まる」
「誓いか」
「ええ。水の誓いは、破れない」
その夜、俺はマリスの部屋を訪ねた。彼女は窓辺に座り、春の月を見上げていた。水の髪は青く輝き、その白い目には月の光が映り込んでいた。
「今夜は、カイをセラに預けてきた」と彼女は言った。
「寂しがらなかったか」
「大丈夫。テオと一緒に寝ると言って喜んでた。あの子はもう、弟か妹が欲しいの。ずっと前から、私にそう言ってた」
「父親には内緒か」
「内緒。でも今夜、その願いが叶うかもしれない」
彼女は立ち上がり、俺の手を取って寝台へ導いた。窓の外では春の風がリンゴの花を揺らし、光り草の防護帯が静かに瞬いていた。
「私はもう、一人じゃない。あなたがいて、カイがいて、皆がいる。だから、次の子を迎えられる。怖くない」
彼女は微笑み、俺の手を自分の頬に当てた。その冷たさは、以前よりもずっと柔らかく感じられた。
数週間後、マリスの妊娠が確認された。アルテアが診断杖を手に、確かな声で「間違いありません」と言ったとき、彼女は静かに涙をこぼした。水の精の涙は泉に落ちて、小さな波紋を広げた。
夏が過ぎ、秋が深まる頃、マリスの腹は大きく膨らみ、彼女は泉のそばで過ごす時間がさらに長くなった。カイは母親の腹にそっと手を当てては、中で動く弟か妹の気配を確かめていた。
「動いてる」とカイは真顔で言った。
「そう。お前が中にいたときも、よく動いてた」
「僕も?」
「ええ。水の子はみんな、よく動くの。外に出たくて、仕方がないのよ」
やがて冬が訪れ、雪が降り積もった静かな夜、マリスの陣痛が始まった。彼女はカイのときと同じように、叫ばず、取り乱さず、ただ泉のそばで水の精の古い子守歌を口ずさみながら、波が満ちるように静かに産み落とした。アルテアが取り上げたのは、水の精の血を色濃く継いだ小さな女の子だった。肌は青みがかった白さで、産声は泉のせせらぎのように澄んでいた。
「リラ」とマリスはその子に囁いた。水の言葉で「流れ」を意味する名前だった。
春がまた巡り、塔は十人目の子供を迎えた。マリスは泉のそばでリラを抱きながら、カイがその小さな手を握るのを静かに見守っていた。
「これで、十人目だ」とレナが中庭で俺に言った。
「いや、十一人目だ。ルミナを忘れるな」
「そうだったな」
彼女の尻尾が静かに揺れ、その口元には確かな誇りが浮かんでいた。かつて廃墟だったこの塔は、今や十一人の子供たちの声が響く場所となり、その声は壁のマナの流れと共に、今日も静かに脈打ち続けていた。




