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追放先は辺境の廃塔でした   作者: 星海凡夫


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第132章 〜記録者の子〜


冬が近づく頃、ライラの腹は大きく膨らんでいた。彼女は妊娠してからも図書館での仕事を続け、羊皮紙にペンを走らせ、塔の記録をまとめ続けていたが、さすがに臨月が近づくと、アルテアの指示で机に向かう時間を減らしていた。


「安静にしていろと言われた」と彼女は、ある午後、図書館の長椅子に横たわりながら俺に言った。膝の上には開かれた本が置かれ、傍らには羽根ペンとインク壺が控えていた。


「安静にしているようには見えないが」


「これでも安静にしてるの。普段は机に座って五時間は書いてる。今は長椅子で一時間だけ」


「十分とは言えないな」


「学者にとっては、これが限界です」


彼女は微かに笑い、本のページをそっと撫でた。その手つきには、もうすぐ母親になる者の優しさと、記録者としての静かな決意が混ざっていた。


「シン、私、考えてるの。この子が生まれたら、どんな風に育てようか。ルーン文字を教えるべきか、それとも普通の言葉から始めるべきか」


「まだ生まれてもいないのに、教育の心配か」


「当然です。私は百五十年以上生きてきて、知識の重要性を誰よりも知ってる。でも、知識だけじゃない。この子には、自由に選ばせたい。記録者になるも、戦士になるも、飛ぶ者になるも、ただの村人になるも、何でも」


「お前らしいな」


「そうですか」


「ああ。お前はいつも、選択肢を用意する。それがお前のやり方だ」


彼女は微笑み、腹に手を当てた。その中で、新しい命が静かに動いていた。


冬が深まり、塔の周りに雪が積もり始めたある夜、ライラの陣痛が始まった。


彼女は普段通り、図書館で記録をまとめている最中だったが、突然ペンを置き、深く息を吸い込んだ。隣で本を整理していたカエレンが異変に気づき、すぐに俺とアルテアを呼びに走った。


「来たわ」とライラは診療所の寝台に横たわりながら言った。その声は驚くほど落ち着いていて、むしろ観察者のようだった。「陣痛の間隔は約七分。まだ長い。初産だから、おそらく夜明けまでかかる」


「自分で分析してるのか」と俺は呆れて言った。


「当然です。私は記録者です。自分の出産も記録に残すつもり」


「お前は本当に、どんなときでも学者だな」


「誉め言葉として受け取ります」


アルテアが診断杖を手に駆けつけ、マリスが水の精の古い鎮静の歌を口ずさみ始めた。ヴァエリスは青い光で部屋を満たし、リサンドラは廊下で無言の見張りに立った。シルフィーはアリアを胸に抱えて控え、レナは子供たちを居間に集め、ミリは帳簿を閉じて静かに見守っていた。


数時間後、冬の夜空が白み始める頃、産声が上がった。それは驚くほど力強く、澄んだ声で、図書館の壁をも震わせるかのようだった。アルテアが取り上げたのは、小さな女の子だった。耳はわずかに尖り、髪は濃い蜂蜜色で、腕にはかすかなルーン文字のような母斑が浮かんでいた。


「女の子よ」とアルテアは声を詰まらせながら言った。「元気な女の子」


ライラは震える手でその子を受け取り、涙をこぼしながら微笑んだ。


「フェリル。古いルーン言葉で『記録の光』。この子が将来、何を記すかはわからない。でも、この塔の光を、ずっと記録し続けてほしい」


俺は彼女の肩を抱き寄せ、フェリルの小さな手にそっと指を触れた。赤ん坊は何も見えていないはずなのに、その指がかすかに動いて、俺の指を握り返した。その腕の母斑が、ほんの一瞬だけ青く輝いたように見えた。


夜が明けると、塔の全員がフェリルを一目見ようと集まった。ヒカリは「小さい!」と歓声を上げ、カイは静かにその手を握り、テオは「腕に模様がある」と指摘し、ルミナはふわりと浮遊しながら青い光でそっと包み込み、アリアは翼をばたつかせ、ソルはリサンドラの腕の中からじっと見つめていた。双子のセリとリーラは「私たちも赤ちゃんのとき、あんなだった?」とセラに尋ね、セラは「そうよ、もっと小さかった」と笑った。


「七人目だ」とレナが言った。彼女は壁に寄りかかり、腕を組んで子供たちの群れを見つめていた。


「七人目だな」


「いや、八人目だ。ルミナを忘れるな」


「そうだった」


「最初は私一人だったのに、今では八人の子供たちがいる」


「そうだな」


「悪くない」彼女は微かに笑った。「誰が次の順番だ」


「まだ決めてない者もいる。ミリ、それからマリスももう一人欲しがっている」


「順番なんて、もともとないさ」彼女は静かに言った。「それぞれが、自分のときに、自分のやり方で」


俺は彼女の手を取って、そっと握った。


午後、ライラの部屋を訪ねると、彼女は寝台に座り、フェリルに授乳をしながら、傍らのノートに何かを走り書きしていた。


「まだ記録してるのか」と俺は呆れて言った。


「当然です。出産直後の母体の状態、新生児の初期反応、すべて貴重なデータです」


「お前は本当に、いつでも学者だな」


「ええ。でも――」彼女は顔を上げ、微笑んだ。「今日は学者としてじゃなく、母親としても記録してる。この子が初めて私の指を握った瞬間の温かさ、初めて私の声に反応したときの目の動き。それはデータにはできない。でも、言葉に残したい。いつかこの子が大きくなったとき、読めるように」


俺は彼女の隣に座り、フェリルの小さな顔をのぞき込んだ。腕の母斑が、かすかに青く輝いていた。


「その模様、何かのルーンなのか」


「たぶん。でも、まだ読めない。この子が成長して、自分の意思で選ぶときが来たら、そのときに意味がわかるのかもしれない」


「お前でも読めないのか」


「ええ。だからこそ、楽しみ。私が知らないことを、この子が教えてくれるかもしれない」


彼女はフェリルの額にそっと口づけ、それからノートを閉じた。


夕方、居間で皆が集まった。長いテーブルは子供たちでいっぱいになり、セラが特別に焼いたパンが並べられた。ヒカリとカイがフェリルの周りに座り、テオが「僕も赤ちゃんのとき、あんな模様あった?」とアルテアに尋ね、ルミナがふわりと浮遊しながら青い光でそっと照らし、アリアが翼をばたつかせ、ソルが揺りかごの中からじっと見つめていた。


「八人だ」とゴルンが金槌を肩に担ぎながら言った。「俺が鍛冶場で玩具を作る数も増える」


「まだまだこれからだ」とヴェラスが新しい揺りかごの設計図を広げながら答えた。


夜、俺は中庭のリンゴの木の下で一人、冬の星を見上げていた。冷たい空気が肺に染み渡り、吐く息が白く煙った。塔の窓からは暖かな灯りが漏れ、子供たちの声がかすかに聞こえてきた。


「また一人で考え事か」と声がした。ミリだった。彼女は厚手の外套を羽織り、手に帳簿を持たずに立っていた。


「お前が帳簿を持っていないとは珍しい」


「今夜は特別。数字より、ここにいたくて」


彼女は俺の隣に立ち、星を見上げた。


「八人の子供たち。フェリルが八人目。次は誰でしょうね」


「さあな。順番はない。お前はどうしたい」


「私は――」彼女は少しだけ間を置き、それから微笑んだ。「私はまだ、帳簿の中の数字を増やすのに忙しい。でも、いつか。あなたとの約束を果たしたい。商人としてじゃなく、一人の女として」


「いつでも」


「ありがとう」彼女は俺の手をそっと握り、それから塔の中へ戻っていった。


冬の星が静かに輝き、塔は今日も呼吸を続けていた。新しい命がまた一つ、この場所に灯り、記録者の子がその光を刻み始めていた。明日はまた新しい日。新しい発見、新しい笑顔。でも今夜は、この静かな冬の夜に、皆と共にいる。それで十分だった。

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