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追放先は辺境の廃塔でした   作者: 星海凡夫


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第110章 〜治癒師の子〜



アルテアの陣痛が始まったのは、春の雨が降り始めた夜だった。


レナのときも、マリスのときもそうだったが、今回もまた彼女は事前に何も言わなかった。夕食の席で少しだけ黙り込んだあと、静かに立ち上がり、俺の耳元で「来て」とだけ囁いた。その声にただならぬものを感じて、俺は箸を置いた。


部屋に入ると、彼女はすでに寝台に横たわり、診断杖を手に自分の状態を確認していた。その顔には奇妙な落ち着きがあった。恐怖ではなく、集中だった。


「来たのね」と彼女は言った。


「早いのか」


「予定より少し。でも問題ない。この子はせっかちみたい」


「何か準備することは」


「お湯と、清潔な布。それから、手を握ってくれるだけでいい」


「わかった」


湯を沸かしに台所へ走り、セラに助けを求めた。彼女はすぐに立ち上がり、ヴェラスを呼び、ゴルンに知らせを飛ばした。数分のうちに塔全体が動き始めた。レナは眠っている子供たちを起こさないように気をつけながら、アルテアに代わって診療所の当直に入った。マリスはカイをセラに預け、水の精の古い鎮静の歌を口ずさみながら部屋の隅に控えた。


そしてアルテアは、淡々と、しかし確かな声で陣痛の間隔を自分で計り始めた。


「どのくらいだ」と俺は彼女の手を握りながら尋ねた。


「まだあと数時間。初産だから長くなる」


「痛むか」


「そりゃあね。でも、レナよりは静かに済ませたい」


「レナは静かだったと思うか」


「あの子は我慢強いから。でも私は治癒師だから、痛みの正体を知ってる。怖くはない。ただ、つらいだけ」


俺は彼女の額の汗をそっと拭った。その横で、ヴァエリスが青い核の光を部屋に満たし、マリスが波のような子守歌を口ずさみ続けていた。リサンドラは廊下で無言の見張りに立ち、シルフィーは窓辺で翼を広げて控えていた。


数時間後、早朝の静けさの中で産声が上がった。それは小さく、しかし驚くほどはっきりとした声で、塔の壁を震わせた。アルテアは自分の手でその子を受け取り、診断杖の淡い光の下で、泣きながら笑った。


「男の子だ」と彼女は言った。「元気な男の子」


俺は彼女の肩越しに、その小さな顔をのぞき込んだ。髪はまだほとんどなかったが、耳はわずかに尖っていた。半分エルフの血を受け継いでいる証だった。肌はほんのりと桃色で、指は小さく丸まり、声は力強く部屋に響いていた。


「名前は決めてあるのか」と俺は尋ねた。


「ある。テオ。古い言葉で『癒し』を意味するの。この子が将来、誰かを癒す人になるかどうかはわからない。でも、少なくとも、私を癒してくれた。ずっと待っていた心を、今日、全部」


彼女の緑の目から涙がこぼれ、俺は彼女の肩を抱き寄せた。


夜が明けると、塔の全員がテオを一目見ようと集まった。レナは腕を組み、無言でアルテアの肩を叩いた。「よくやった」と、その仕草は語っていた。リサンドラは遠くからうなずき、シルフィーは翼を震わせ、ヴァエリスは祝福の青い光をそっと降り注がせた。カエレンは涙をぬぐい、ゴルンはさっそく「鍛冶場で最初の玩具を作る」と言い出した。セラはすでに小さな靴下を編み始め、ヴェラスは揺りかごの最終調整に入った。双子のセリとリーラは「私たちも抱っこする!」と競い合い、エリオンは守護者たちに「新しい命がまた一つ」と静かに報告していた。


午後、ヒカリとカイがテオの揺りかごを覗きに来た。ヒカリは小さな弟をじっと見つめ、それから俺の袖を引っ張った。


「この子、大きくなる?」


「大きくなるさ」


「じゃあ、大きくなったら、私が剣を教える」


「まだ生まれたばかりだぞ」


「準備は早いほうがいい。リサンドラが言ってた」


隣でカイは何も言わず、ただそっとテオの小さな手に自分の指を触れさせていた。その仕草はあまりに慎重で、まるで壊れ物に触るかのようだった。テオは何も言わず、何も見えていないはずなのに、その小さな指がかすかに動いて、カイの指を握り返した。


「動いた」とカイが真顔で言った。


「挨拶だな」と俺は言った。


「そうか」カイはうなずき、それから満足そうに手を引っ込めた。


「これで三人目だ」とマリスが言った。「三つの小さな命が、この塔で生まれた」


「あと何人増えるんだろうな」と俺はつぶやいた。


「少なくとも、あと数人は」と彼女は微笑み、その白い目を俺に向けた。「みんな、順番を待っている」


夕方、俺はアルテアの部屋を訪ねた。彼女は寝台に座り、テオに授乳をしながら静かに歌を口ずさんでいた。窓の外では、春の雨が上がり、リンゴの木が夕日に照らされて黄金に輝いていた。


「疲れたか」と俺は隣に座った。


「もちろん。でも、いい疲れ。これが幸せなのね」


「ああ」


「シン、約束して。この子が大きくなったら、自分の道を選ばせてあげて。治癒師でも、戦士でも、記録者でも、何でも。ただ、自由に」


「約束する。俺たちはずっと、そうしてきた」


彼女は微笑み、テオの額にそっと口づけた。塔は静かに呼吸し、壁のマナの流れが規則正しく脈打っていた。新しい命がまた一つ、この場所に根を下ろした。


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