第5話 醜悪と絶望
「どうやったら、このループを止められるのかを。。。」
冷静にそして、ハッとするほどの凝視をアストへ向けるタナカ。
アストの息づかいが耳元まで聞こえるくらいの静寂。
ポタッと落ちる汗から意識が戻ってくる。
「タナカさん待ってください、ループってそんな」
「ヌースさん、状況を考えてわかるはずですよ、現実的ではないかもしれないですが、さっきから同じ道が続くだけ変化が無いんですよ。」
鼓動が先ほどより更に上がった気がする、
進む時計が現実を感じさせる中、この答えがあるのかわからない状況に自分は何をすればいいのか思考を巡らせていく。
ここに来るまでに何があったか、何を見たのか、何を聴いたのか、
分かれ道をすぎてから談笑中、なんの変哲もないこの道を歩く中、
いや、これだけだと見つかるものも見つからない、もっと上に持って行ったほうがいいか
樹木の根のように張り巡らせた思考を空へ旅立たせる。
あぁ、こんな簡単な事に気づかなかったなんて、
でも、これはあまりに、どうするべきなのか。
「タナカさん、アスト、メニューを開いて下さい。」
「え、あ、はい」
「お前俺は呼び捨てかよ、おい、ってこれってなんだよ」
そこに表示されていたのは、
ミッションを開始します。
1. スキル強化石の入手 0/10
2. キャラクター強化石の入手 0/20
3. 3階層のボス討伐 0/1
!New ループから抜け出せ
脱出条件、生きるものを一つ消せ
「生きるものを消せって、おい殺しあえって事か」
現実逃避していたが、その事実に対してドンッと突きつけられる。
生きるものってなんだよ、どうすればいいのか。
遠足にきた感覚と似た浮き足だった気分に頭から水をかけられたように冷める。
目が合う、アストだ。
酷い目をしている、正直今にも襲ってきそうなほどに鋭く誰も信用しないと決めた目だ。
「あ、あの」
少し震えた声がして、声の主を見る。
ビクッとして、少し気まずそうな顔をする田中さん。
どうやら、自分も殺気だっていたみたいだ。
「これは、どうすればいいのか考えました。」
「ですが、解決策が全然出てきません。正直殺し合うのはいいアイデアでは無いと」
「でもこのままだと時間だけが過ぎていってしまいますし、何か案はありませんか、おふたりは」
「あぁ、知らねーっての、生きるものを消せって言ってるんだろ、だったら殺り合うしかねーだろ」
「待ってください、それだと何かおかしい気がするんですよ」
「おかしいのはオメーの頭だよ、ここから抜け出せねー方が問題だろ、なんならお前が死んでくれるのか?」
「あ、え、いやです。。」
明らかに殺気だっているアストと抑える田中さんは、見ていて心が痛くなる。
引っかかっているのは確かに自分もそうだ。
生きるものを一つ消せというのが明らかに言葉としておかしい。
1人殺せとかならわかる、しかしこれだと曖昧な表現すぎる。
生きるもの、消せ、、。
「待ってください、アストさん少し離れてください、やめて」
先ほどから堂々巡りな口論を続けていたがついに痺れを切らしたのかアストが田中さんに近づいている、
息が荒いし、目が血走っているのがここからでもわかる。
ジリジリと近づいて、そして「あっ」と声が漏れる。
どうやら行き止まりのようだと、壁が残酷にも背から伝えてくる。
意識が離れた瞬間、その間をアストは逃さなかった。
獲物が目の前にいるのだ、動物の狩りの瞬間は動画でしか見たことが無い。
生死をかけた際に見せるあの目がたまに忘れられなくなって、それを知ってかおすすめに出てくるのを無意識に押してしまうのが多々あった。
アストから田中さんに視線を移す。あぁもうだめかと目を閉じそうになる。
「待ってくれ!!!」
ピタッと止まるふたり、「がぁあ、なんだ」
頭をかきむしるアストを見ずに田中さんに声をかける。
「た、田中さん、熱くないんですか?」
「へっ、あz熱い?」
「だって、後ろ炎が頭に」
「ふえ、ぁわ、え、あつ、あつ、アツクナイ?」
襲われそうになる田中さんを見た時に、すぐ気づかなかったのはどうしても殺されてしまう状況に目がいっていたからだと。
明らかにおかしいのは、本当に寸前に気づいた、田中さんの頭上に松明から火が燃えており、まるでアニメの覚醒シーンで髪色が変わっているように馴染んでいた。
しかし、熱くないのはおかしいとギリギリ気づいた。
フー、喉はないが喉がカラカラだよ。
「もしかしたら、その松明の火は、火ではないのかもしれない」
「答えはそれを消せって意味じゃないかな」
「それって、え、そんなことがあるんですか?」
「おい、マジかよ」
松明に手をかける、おずおずとそれを持ってくる田中さんに近づく。
「熱くねーな、確かに」
「なんだこれ、」
ひょいっと持って、そのままその松明の棒を観察するアスト。
ずっぼっど、どう表現したらいいかわからないが、肺に水が入って咳き込むのと似ている。
シンプルに異物が体内に入ってきた感じ。
こ、こいつ松明そのまま自分に向かって突っ込んできやがった。
「お、あ、わり~な」
にひひと笑むその顔はなんと憎たらしいことか、
「いや、スライムってなんでも溶かすイメージあったからよ、いけっかなーと」
いけるわけないだろ、こちとらまだ人間だった頃の感覚ビンビンなんですわ!と声に出せない声を無言で伝えつつ、吐き出された松明に目を向ける。
ちょっと何か付着している木の棒の先に、しなっとなっている蝶々のような虫がくっついている、
ぐぇ、あれ自分の中に入った感じですか、おい
自分の解決した事案などほっぽり出して目の前のグロテスクなサイズ感の蝶々もどきに思考が走る。
「え、これって」
田中さんが指し示す方向に目を向ける。
チカチカとする視界の中お祭りの提灯を彷彿とさせる炎の暖かさと揺らぎは、
一点に集まりそして形作る。
あぁ、ゲームの矢印ってこんな形で出来ていたのかと少し呆れてしまう。
ディズ⚪︎ーの某魚映画で出てくるシーンのように、今度は蝶々が道を示してくれるらしい。
この先にいないはずの息子が出て来るのだろうか、、いや戻ってこよう。
「どうやら、こっちに行けってことなんでしょうね」
先ほどからたじたじな田中さんは平静を取り戻したようでこれからの動きを提示してくれる。大変助かる。
心の急上昇急降下急転回を食らい少し重い腰を上げる3にんは、とりあえず光矢印を追いかける形で歩を進める。
何分歩いただろうか、真っ直ぐしかなかった先ほどとは違い、暗い炭鉱の中を右左と進んでいく、正直途中から道を覚えるのはやめた。うん、無理だよ。
ピタッと急に止まり、よそ見をしていたアストは田中さんにぶつかり恨み言を呟いている。
少しひらけた場所にでた、色が多くひしめく半球場の空間に目が眩む。
そしてどうやら目的地に辿り着いたようだと皆の顔つきを見て確信がポツポツと歩いてきてくれる。
「うぉーーー、これじゃねーかなんとか強化石ってやつは」
「そのようですね、とりあえずここで回収を急ぎましょう、時間も残り2時間を切っていますし、ヌースさんもそれでいいですかね?」
「はい、そうしましょうか、やっとこ進んだ気がしますね」
緊張感がないバタバタとした走りのアストを見ながら、微笑みを少し見上げながら返す。
そこからは、早いもので持ってきた器具を総動員して掘り返す。
スキル強化石は緑色の結晶体でよく想像するクリスタルのような形をしており、
キャラクター強化石はそれこそこれはクリスタル?と思うような見た目である。
持ってきたカバンに入れていく中で、ゲームのように簡単ではなく砕いてしまったりするとカウントにならない。
面倒な仕様だなと思いつつ無言で掘り進める、痛くは無いがたまに砕けた強化石をこちらに無造作に投げてくるアストに殺意を芽生えつつ無言でやった。
基本的にアストがうるさいからだ、どこから出てくるのか、まるで公園にきた小学生のように無限の体力を出す彼に呆れた視線を向けていると田中さんと目が合う。
「ははは、元気ですね彼は本当に、」
「全くですね、どこからあの元気が出てくるのか教えて欲しいですよ」
「とりあえず、ヌースさんの言っていただいた通り基準より多めに集めましたが、カバンにこれ以上は入らなそうですし、ここら辺で終了にしますか」
「そうですね」
そう、これはゲーム時代の経験からで、規定量より集めてくれるキャラがいたのだ、最初の頃は規定量しか集めなかったが少し多めに集めてくれたキャラに報酬から多めに融通した際好感度が上がった記憶があり、そこから相乗的に集める量が増えていった。
その記憶を元に今回ももしかしたらと上を見上げながらこのゲームのマスターを想う。
「でも、1つだけ確認しないといけない事があるんです、ヌースさん」
心臓が跳ねる音が聞こえる。
「はい、自分もわかっていたんですがでもこれはどうするべきなのか、完了していない・・・」
「お前らは誰だ」
唐突に低い男の声。
影の奥から見える鋭く光る目に、緑の絵の具を溶かした水に茶色を使った筆を入れた色の腕がスッと見えてくる。
ゆっくりと光に入ってくるその姿は、彼らとはまた違った小鬼。
表情があまりにも野生味を出しており、そして今にも襲いかかってくる気がしてならない。
脇がないが脇にじっとりと汗をかくような感覚を覚える。
「おい、聞こえないのか、それとも同族ではないのか?」
「おい、そうか」
三度紡がれる質問に対し、こちらは固まるばかりで誰も声を出すことが出来ない。
そして、動き出してしまった。
ふたりよりも大きくそして醜悪に感じる小鬼が、
手に持つ鈍色の手斧を振りかざし、気づいた時には遅かった。
斜め左にいたアストめがけてその醜悪は残酷を振りかざす、少しだけ光る手斧の刃先に死を連想させる。
ズzサ
「gああああぁ、bおぇ、あああ」
叫び声が鼓膜を包む中、左肩には大きく一線の銅赤な一文字が塗られてしまう。
「頭を狙ったつもりだったが、少し避けられたのか」
「待ってください。何か勘違いをしています。」
「私たちはあなたの敵ではありません。」
矢継ぎ早に田中さんが醜悪に話しかける。
「しかし、そのカバンの中身はここの強化石だろ?」
「すなわち、貴様らはただのこそ泥にしか見えないのだが」
カバンの口から見える煌々とした緑と青の照りに言い訳を作る事が難しい。
「いえ、こちらは、そうです、あなたたちのお手伝いをするつもりだったんです。」
「お手伝い?」
「そうです、これを手に仲間に入れてもらえると噂で聞いたので」
「ほぅ、そうか、それはご苦労なことだ」
「おいおい、兄貴それを信じるつもりじゃねーよな」
声の質が変わり、また息遣いが大きく多くなる。
先ほどの道からさらに多くの小鬼が、10、20、30かそれ以上ぞろぞろと歩いてくる。
「こいつらからは、あの忌々しい狼の匂いがする」
「兄貴も気づいているんだろ、あの狼の仲間かなんかだよこいつらは」
「あぁ、それはわかっている、だから先にこの転がっているチビに攻撃を与えた。」
「てっきり狼がくると思ったが見当違いだったみたいだが」
あぁ、そうかこれはそうゆう意味だったのか。
1. スキル強化石の入手 25/10
2. キャラクター強化石の入手 30/20
3. 3階層のボス討伐 0/1
4. ループから抜け出せ→危機的状況から生き延びろ
達成条件:炭鉱ゴブリンから生き延びる or 特殊クリア(条件を満たしていないため特殊クリア条件は非表示)
そう、言いかけていたのはこの危機的状況について、
目の前の絶望に対し、あぁと呟くことしかできなかった。
フォロー、いいね、コメントいただけると個人的に大変嬉しくて飛び上がるので、
ぜひお願いします。。。




