転生聖女、テストを受ける
「最後に、ここが練兵所だ。基本的にデイストーチの生徒達がここで訓練を行う。実技テストもここで始める。10分の休憩の後、一人づつ実技の先生と打ち合うからな。じゃあ、解散!」
先生がそう言うと皆バラけて休んでいる。
校内を案内されている間にクラスメイト達は何個かのグループに固まっていた。…私以外。
私から話しかけると、相手も恐縮してしまって話すことは出来ないだろう。
でも、私は前世からのプロぼっちだ。
練兵所の周りに設置されている椅子に座り、ボーッと考え込んでいた。
(やっぱり私は変わってないな…。)
どれだけ神にチートを貰って、公爵令嬢で相手をしてくれる人が多くても、私自身の記憶は消えてくれない。
学校で男の子に手を上げられた痛み。
遠巻きに陰口を囁かれる悲しみ。
唯一の栄養源である給食を捨てられた絶望感。
夏休みで給食が食べられず、飢え死にするのではないかという恐怖。
熱で入院になり、お金に困っていた母を見た時は「死に損ない」という言葉が浮かんで、頭の中にこびりついた。
学校は、私のトラウマスイッチの地雷群だ。
何かの拍子に誰かの気分を損ねたら、またあの地獄がくるかもしれない。公爵家にいる限りご飯に困る事も借金をする程に困窮する事もないだろうが。
唇を噛み締めて、自分の弱さを心の底に沈める。
「…ねぇ、大丈夫?」
「…ぇ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
目の前にはモフモフの尻尾にピンと立った耳の少年。
「体調、悪いなら保健室に…」
「だ、大丈夫です、少し考え事をしていただけですから。」
「…でも顔色悪いよ?」
「えぇ、本当に大丈夫です。……ありがとう。」
お陰で、沈んでいた気分が引き上げられた。
あのままだと毒沼に入るところだった。
「ううん、どういたしまして。」
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「…次、コータス。」
「はい。よろしくお願いします。」
コータスは獣人の筋力や俊敏性を生かして、訓練用の槍を振るう。突いてからの払いへの動きもスムーズだ。
「ん、終わりだ。」
「ありがとうございました。」
剣を首に当てられ、コータスのテストは終わった。
「お疲れ様。」
タオルを渡しながらそう言うと、コータスは嬉しそうに尻尾を振りながら笑った。
「ハルノス嬢、ありがとう。」
…可愛い。紳士系+ワンコ系男子。
行動一つ一つに優しさが滲み出ているのに、ワンコの様に純粋だ。
「次、ハルノス嬢。」
「はい。よろしくお願いします。」
訓練用薙刀を構え、間合いを詰めてから横薙ぎの一撃をアッサリ受け止められ、それから薙刀を回転させて足払い。
倒れた教師の首元に薙刀の刃を突きつけた。
「お見事です、ハルノス嬢。」
「ありがとうございました。」
「ハルノス嬢!とても…綺麗だった。」
「ありがとう。」
キラキラした目で私を見るコータス。
あれか、獣人だから強いヤツはスキみたいな感じ?
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「ふぅ…。」
『随分疲れておるのう…。』
「えぇ、色々あって…早く寝たいわ。」
あの後、コータスは何かと話しかけてきた。
体調が悪そうに見えた私の事を心配してくれていたのかもしれない。やっぱり優しいな。
マジックテントの要領で広げた馬車。
外からは普通の馬車なのに、中は平民の部屋より広い。
出入口も広く取ってある為、ソラも一緒に入ることが出来る。ソラ専用スペースや、馬車を引く際に翼が邪魔にならない専用の器具。
ここで寝ようとも運び手は沢山いるが、それはハルノスのゴブリンの魔石---小指の爪の半分程のサイズ---より小さいプライドが許さなかった。
王都の屋敷にたどり着いて、全員魔法陣に乗り、転移する。
そのまま部屋で部屋着に着替えてベッドへ引き込まれるようにして眠るのであった。




