転生聖女、初めての家族団らん
眠りについてどれほどたったのだろう。意識がぼんやりと浮上してきた。抱っこされているのか、暖かい。
(…声?)
2人…いや、3人の話し声が聞こえる。
「ケレベスもお兄さんだな。妹に優しくするんだぞ。」
「うん!れでぃーに優しくするのは当たり前でしょ?」
「そうねぇ、ケレベスも男の子だものね。」
会話の声から察するに、私の家族らしい。
目を開くと耳が長く、水色の髪に青い瞳の美人が私を抱っこしていた。
(お母さん?)
前世での母は、1人で私を養うために働きっぱなしだった。働きすぎて最後は疲労で倒れ、そのまま亡くなった。享年37歳。私が12歳の時だった。
(新しいお母さんはそんな苦労をしませんように。もう二度とあんな思いはしたくない。)
少し視線を横に向けると、紫紺の髪にアメジストの瞳をした優しそうな男性。父親だろうか。前世での父は、殆ど覚えていない。ただクズだったのはわかる。浮気して外に子供を作り、母が亡くなった後も私は父に頼るという事は出来なかった。母が亡くなり高卒まで施設で暮らした。
(新しいお父さんは優しそうで良かった。)
父に抱っこされているのは3歳くらいの男の子。髪は萌黄色でアメジストの瞳。顔は父に似ているものの、耳は母に似て細長い。
前世では1人っ子だった。兄と仲良く出来たらいいな…。
3人とも私を見る目は優しい。
(もう家で1人で寂しい思いをしなくてもいいの?)
自然と涙が流れる。…泣き声と共に。
それを合図に傍に控えていたのであろうメイドさんが視界に入る。ミルクを母に飲ませて貰いなんとか落ち着くと、また眠気が現れる。
…その心は暖かい物で満たされ、新しい家族を守っていきたいという気持ちでいっぱいになっていた。
決意を新たに、時間は流れていく。