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気ままに。  作者: 咲坂 美織
種族戦争編
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怒りと悲しみ

随分と久しぶりの更新です。忘れられてなければいいのですが……

 そんなこんなで何故か私は一件の立派な屋敷の中で正座していた。目の前には布団に横たわる壮年の男性。

「ねえ、トーマ? なんでこの屋敷はこんなに立派なの?」

「そうか? 師匠のところも立派じゃん」

「いや、規模が全然違うから」

「そうかなー?」

 どうやらトーマ君はいいところのお坊ちゃまだったようです。どう見てもうちの3倍はあるぞ。

「布団の中からで申しわけない、客人」

「そうだよ。何やってんだよそのくらいで。さっさと起きろ」

「トーマ!」

 私の一喝でトーマは首を竦めたが、発言を撤回する気はなさそうだ。私はこっそり溜息をついた。

「あの日お前を森に置き去りにしたことは後悔している。今更だが謝罪する」

「んなもんいらねーよ。リアのことがなければ二度と帰ってくるか、こんなところ」

 ……相当ひねくれているな、トーマは。一体どうしたものか。

 私が1人頭を抱えていると、トーマはもう我慢ならないとでもいうように荒々しく立ちあがった。

「俺はもう必要ねぇよな? 俺は1人でその辺見回ってる」

 そういうなりさっさと部屋を出て行った。私は止めようと声をあげかけたが、ソーマさんに手で制された。仕方なく黙って見送る。

「……何故止めたんですか」

「今のトーマは意地になっています。外から見たらただのつまらない反抗に見えるでしょうが、あれを昔からよく知る我々から見れば、その心情が痛いほどよく分かります。今は放っておいてやってください」

「トーマの、心情?」

「はい。もともとあの子はとても優しい子でした。いくら自分が蔑まれようとも絶対に相手を恨もうとはせず、むしろ相手を心配するような子でした。……それをこの馬鹿親が!!」

「仕方がなかろう。この集落の決まりで族長の長男がその跡を継ぐことになっておる。儂だって皆から嫌われる者を次の族長になどできん」

「それはあんたたちの都合だろう! 身内だけでもトーマを愛してやれば、あの子はあんな心の傷を負うことはなかった」

「儂にだって……」

「いい加減にしてください!!」

 私は思わず大声をあげた。こんなの、こんなの黙って聞いてられるか!!

「……トーマはもう子供じゃありません。あいつは聡いから大人の機微というものもだいたい理解しているはずです。本人もいないこの場でそれをいけしゃあしゃあと……」

「カランさん落ち着いて!!」

 フィアに止められて自分がいつの間にか身を乗り出していたことに気がつく。

「いえ、いいのですよ。私たちも少々言い過ぎた。ご忠告、感謝します」

「私こそ熱くなりすぎました。すみません」

 部屋に流れる沈黙。私は耐え切れず、ふと窓の外へと視線をやった。

「……葉の動きが変? まさか!!」

 まさかと思いつつもその先へと目を凝らす。

「……くそ。葉が多すぎる。視界がふさがってよく見えない。……仕方ないか」

 異能力を嫌うというトーマの父親たちの前で力を使うのはあまり得策ではないし、もしかしたら何もないかもしれない。それでも、妙な胸のざわつきが私にその選択肢を選ばせていた。

 そっと目を閉じ、意識を集中させる。少しずつ広がっていく視界の片隅でフィアの姿をとらえる。不安そうな顔をしていたが、私がなにをしているのか理解したようでほっとしたように笑っていた。

 それを確認すると、私はさらに視界を広げた。少しずつ息があがる。

「……見つけた」

 その瞬間、私はそのまま窓から外へと飛び出した。目はつぶったままだ。

「カランさん!? 一体どうしたんですか!!」

 そのすぐ後を追いかけてきたのはソーマさんだった。かなり急に飛び出したのにもう追いついてきたとは。私はその瞬発力の高さに舌を巻いた。

「トーマが危ない」

 私は短くそう告げた。

「え、でもあなたは目をつぶって……まさか」

 私は足を止めずにゆっくりとうなずいた。

「私は千里眼という能力を持っています」

 そう言いつつ、少しだけ目を開ける。ソーマさんは私の眼の色が変わっていることに一瞬だけ驚いたようだが、すぐに納得したような顔になった。

「トーマが危ないというのは?」

「あの子が。リアが戻ってきました。トーマは一人でこの集落を守ろうとしています」

「一人で? そんな無茶な!!」

「だからここの木々がトーマの危険を知らせてくれた。あの子は本当に愛されています」

 不自然な葉のざわめき。あれはやはりトーマの危険を私に知らせるものだった。

「とりあえず先を急ぎましょう。私は、私はトーマもリアも失いたくはない」

「もちろんです」

「フィアもー!!」

 いつの間にか追いついてきたフィアが割り込んでくる。相変わらずこの子は足が速い。

「さて、やりますか!」

 初めての組み合わせだが、何とかなるような気がした。まだ相手のこともよく知らないのに。

 そう思うとなんだかおかしくて、私はこんな状況なのに思わず笑みがこぼれた。

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