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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter14 ダウン
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#97 Rumi★Deeeeep♥LOVE♥

 私はチャットを遡り、一希君の投稿からPitterアカウント〈Rumi★Deeeeep♥LOVE♥〉へのリンクをタップした。プロフィールに住所記載はないが、投稿を見ると西京府在住者ではない。どうやら、今回のデモのために地方からわざわざ来たようだった。


 蒼君も気づいているかもしれないと思い、Dチャットへの連投が途切れたところで電話をかけた。すると、ワンコールで彼の声が聞こえる。


『理久さん、おはようございます、今日は来ないでくださいね』


 開口一番がそれで、思わずプッと吹き出した。「見ましたか?」のひと言もないということは、私がDチャットにログインしていたことに気づいていたのだろう。声に思っていたより張りがあって安心した。


「おはよ。蒼君、無理してない?」


『週末は寝れたので元気です。それより、電話してきたのってルミのことですか? ライブで見かけたハヤトファンの』


「やっぱり気づいてたんだ。でも、あのルミって女の子、ライブの時はハヤト文体のAI翻案に心酔してる感じだったのに、どうして反AIになったんだろうね」


『たぶん、神聖な『ハヤト君』を汚されたと思ったんじゃないですか?』


 いつもは「平井先生」と呼ぶところを、彼はあえて皮肉っぽく「ハヤト君」と口にした。


「汚されたって、DRIにってこと?」


『DRIというか、AIに。彼女の投稿を追ってみると、〈漆黒の夜【公式】〉がハヤト文体を模倣して予言を投稿したことにかなり腹を立てていたようなんです。僕がテレビで『ハヤト文体はAIで簡単に作れる』って言ったことにも文句言ってました。「私はAIに騙された」「ハヤト君はAIに利用された」から始まって、「Deeeeepファンも」「みんなも」そうだったんだって』


「思い込みが激しいというか、ずいぶん極端な変わりようね」


『感情が裏返っただけで、ハヤト文体への執着は変わらないと思います。

 ルミの変わり身は極端ですが、興味深いのは、彼女が動かした層がけっこう幅広いことです。もともとAIに批判的だった人だけではなく、普段ネットで声をあげない普通の人たちが、Pitter上では彼女に賛意を示してる。

 これまで静かに予言騒動の成り行きを見守りながらフラストレーションを抱えていた人が、思ってたよりたくさんいたんだと思います。予言ばかりのワイドショーへの愚痴も見かけるようになりましたし。

 ルミの「もうAIに振り回されない」という言葉が、そういった人たちの気持ちを掴んだんじゃないでしょうか』


 蒼君の話はそれなりに筋が通っているし、納得できるものだった。しかし――、


「だからって、そのフラストレーションをDRIにぶつけるのは筋違いじゃない?」


『僕もそう思います。きっと、どこにぶつけていいかわからないから、うちだったんでしょう』


「〈漆黒の夜【公式】〉にぶつければいいんじゃない? 世間を振り回してる、まさに諸悪の根源のAIアカウントなんだから」


『投稿を見る限り、今日デモに参加する人たちは、〈漆黒の夜【公式】〉のやってることが犯罪行為だと認識してます。ただ、〈漆黒の夜【公式】〉の投稿に反応してるデモ参加者はあまりいません。もともと、AIアカウントを宣言してる相手に食ってかかるのって、ネットでは冷笑されますから。

 それに、予言とは無関係に反AIを訴えてるデモ参加者のほうが多いんです。ルミはそういう人たちに担ぎ上げられたという側面もあると思います』


 ふと、Japan突劇隊!の動画にルミが映った時の視聴者の反応を思い出した。『ヤバいやつ来た』『お花畑女子降臨!』といった冷やかしコメントばかりで、見ているこっちが居た堪れない気分になった。あれがまた繰り返されるかと思うと、ルミへの同情心すら湧いてくる。


「ルミを説得して中止させるのは無理かな? ハヤト君が執筆にAI使ってることは、彼女も知ってると思うけど」


『難しいと思いますよ』


 突き放すつもりで言っているのではないとわかっていても、蒼君の冷めた声が胸に刺さる。私が黙ったせいか、彼は慌てて続けた。


『AI利用の線引きは難しいです。たしか、平井先生はアイデア出しには使っていても、文章自体は自分で書いてるんですよね。ルミにとっては、それはOKってことなんだと思います。理由をこじつけるなら、「ハヤト君はAIに振り回されてるんじゃなくて、AIを利用してるだけ」ってところでしょうか。

 まあ、ルミの場合は平井先生のやることならなんでもOKな気がします。人間って、好きな相手に対しては盲目的になるものだから』


 蒼君の口から出た「好きな相手」という言葉にドキリとした。以前、「続き、全部片付いたら話します」と彼が言っていた話の続きはまだ聞けそうにないけれど、ちょっとした言葉で意識してしまうのはそのせいだ。


『理久さん?』


「あっ、ごめん。ちょっと考え事してた。デマの情報って、もしかして一希君が先に見つけたの?」


『そうです。――あっ、そう言えば、新田さん本当にDチャットで退職願送ったらしいです』


「えっ?」


『受理されたわけじゃないです。でも、ちょっとどうなるかわかりません』


「どうして? 今回も協力してくれてるのに」


『佐伯部長が鴻巣理事長から何か言われたみたいです。まあ、この状況でこれまで何も言ってこなかったことの方が不思議ですけど、やっぱり鴻巣理事長はAIキャラじゃなかったってことですね』


 年に一度も顔を見ることのない鴻巣理事長。理事長はパーソナライズ翻案に反対していたと佐伯部長が言っていた。もしかしたら、一希君のことだけじゃなく、それについても何か言われているかもしれない。


「役員室にある写真くらいでしか見たことないのに、何年もほったらかしで佐伯部長に任せっきりにしておいて、今さら口出ししてくるなんて」


『理事長なんてそんなものじゃないですか? 僕らは会わなくても、佐伯部長は月イチで報告してたみたいですし――』


 蒼君が唐突に話すのをやめ、同時にDチャットでメッセージが届いた。


『理久さんにも来ました? 噂をすればって感じですね。今日明日中に各部署でパーソナライズ翻案の継続について意見交換し、水曜に検討会だそうです。すいません、そろそろ電話切りますね』


「あっ、忙しいのにごめん」


『いえ。デモの10時狙って仕掛けてくる不届き者がいるかもしれないので――というか、すでにそういう気配があるんです。9階は午前中くらいはそっちにかかりきりになると思います』


「そっか、がんばってね」


『がんばります。声聞けてよかったです』


 電話は余韻もなく切れたが、意図的なのか無自覚なのか、蒼君のささいな言葉で振り回される。


 ふと、電話の向こうにいたのが蒼君のAIだったらという想像が頭を過った。もちろん本物の蒼君だとわかっているけど、ルミが感じたのは、もしかしたらそんな感覚だったのかもしれない。


 その後、リモートということもあって、私はいつもより早くD-Baseにログインした。午前9時半にはケーブルテレビ『さいねっと』によるデモの中継放送が始まり、そして、Pitter確認用に開いていたタブレットに〈漆黒の夜【公式】〉の新たな予言が投稿されたのも、ちょうど9時半だった。

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