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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter13 渦中
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#95 星光の闇

『【AI解析:星光の闇】某芸能事務所は、ある「未公開の情報」を巡り、水面下で情報提供者との「秘密の取引」を進めていた。自社のイメージを守るべく、その情報が公になることを避けようと画策したが、AIが極秘通信ログを解析し、その隠された動きを明確に捉えた。輝くエンタメ界の裏で真実が歪められる動かぬ証拠。AIは公正な審判を求める。』


「これは、SLNで確定だな?」


 合田部長が蒼君に問いかけたが、彼は誤魔化すように小さく肩をすくめる。


「部長、新たな予言が出たからといって、DRIがターゲットから外れたわけじゃありません。僕らは僕らのすべきことに集中しましょう」


「あちこち引っ張り回されてるのはおまえだろう。何をやらされてるのか知らんが、ひとまず寝ろ。目が充血してるぞ」


「そうします」


 蒼君は眠そうに目をしばたかせ、あくびを噛み殺す。夜勤明けの昨日、一希君の家に行ってDRIに戻り、そのあと佐伯部長と堂坂に向かい、自宅に戻ることなくここにいるのだ。おそらくまともに寝ていない。


「あとは、新田だな。じきに佐伯部長も出てくるだろうから、それまで待つか?」


 合田部長が聞くと、一希君は「そうします」とうなずいた。


「退職願、書き直して持ってきても惣領に破られそうなので直接言わないと」


「口頭で言っても何も残りませんよ。紙の書類も破るか燃やすかすれば終わりです。いっそ、辞表書いてDチャットで送ったらどうです?」


 疲れの滲んだ表情のせいか、蒼君の言葉はかなり皮肉めいて聞こえる。


「惣領はそれでも消しそうだから怖いんだよ」


「倫理的に問題があるので、そんなことはしません」


「紙も同じだろ」


 蒼君は合田部長の手の中の、破れた退職願を一瞥し、そのまま目を閉じる。数秒の沈黙が続き、本田君が「寝てんじゃないのか?」と顔をのぞき込んだときパチッと目を開けた。


「破ったのが問題なら倫理法務部に訴えてください。僕は寝ます。行きましょう、理久さん」


「えっ?」


 蒼君は私の手を握り、エレベーターへと歩き出す。あまりに唐突で、連れ去られる私を全員が呆気にとられた表情で見送っていた。


「睡眠不足ハイで素が出てるな、あれは」と合田部長。


「ああいう惣領も面白いな」と本田君。


 一希君は苦笑しつつ「よろしく頼むわ」と手を振った。


 エレベーターを待つあいだ、私は横目で蒼君の様子をうかがった。けれど、背後の会話を聞いているのかさえよくわからない。


「蒼君、大丈夫?」


「僕のことより、理久さんが心配です」


「私? どうして?」


「もしDeeeeepに何かあったら、理久さんが自分を責めそうだから」


「蒼君は、Deeeeepに何かあるかもしれないって考えてるの? SLNで、具体的に何があったのかは知らないんだよね?」


「あ、エレベーター来ました」


 はぐらかそうとしているようだった。もしくは、他の人に会話を聞かれたくないのかもしれない。エレベーターでふたりきりになると、彼は壁に体をもたせかけて私を見た。赤い目が痛々しい。


「たぶん、Deeeeep内の雰囲気が良くないんだと思います。原因は一連の予言騒動でしょうけど、これが今回の予言と関連してるかはわかりません」


「どういうこと?」


「解散の話がグループ内で持ち上がってるかもしれないけど、〈漆黒の夜【公式】〉が暴露しようとしているのはまったく別の内容の可能性もあるってことです。だから、平井先生が理久さんに電話したのは予言とは無関係に、ただ弱音を吐ける相手がほしかったんじゃないかって」


「でも、Deeeeepメンバーが解散したいって言っても、砂川さんが解散を受け入れるとは思えない」


「だから砂川さんに相談できなかったんじゃないですか? もしかしたら解散じゃなくて、平井先生が脱退を考えてるのかもしれません。新田さんみたいに、自分が身を引けばいいって」


 蒼君はちょっと怒っているようにも見えた。


 私は昨夜のハヤト君との会話を思い出す。そして、「脱退」の可能性を否定できなくなった。


 ハヤト文体や、作家・平井颯人と結城匠真の確執を、この騒動の発端だと考えて自分を責めているかもしれない。Deeeeepや周りの人に迷惑をかけるなら、自分が抜ければいい――そう考えるのは、彼の性格なら有り得そうなことだった。


「理久さん」


 顔をのぞき込まれ、我に返った。


「あ、ごめん。ハヤト君のことがちょっと気になって」


「……平井先生にも、結城先生の元妻みたいに誰か支えてくれる人がいれば安心ですか?」


「え……」


 質問の意図がつかめず戸惑った。チンと音がして扉が開き、8階に到着するやいなや蒼君のスマホが鳴りはじめる。通話相手は佐伯部長でも伊藤刑事でもなく、聞こえてくる専門用語からエンジニアのようだった。


 私はその場で蒼君と別れ、キュレ部の中からチラチラと様子をうかがっていた。すると、蒼君は相談室に向かうことなくエレベーターに乗り込む。階数表示は9Fで止まり、いつまで経っても彼が仮眠をとりに来ることはなかった。


 AI開発・アルゴリズム研究部は、週末の11日と12日も増員して対応にあたるという話を聞いたのは糸井部長からだ。蒼君は、自分のブースの床で寝袋で寝ているらしかった。


 私も何かできないだろうかと部長に申し出てみたが、予言信者によるデモが週末にもビル前であるという情報が入り、AIチーム以外は極力出社しないようにと通達があった。


 スターライト・ネクストに関する〈漆黒の夜【公式】〉の投稿は、昨夜の【予言】と今日の【AI解析】の2本。Pitterでは続報や暴露を待つ変な期待感が広がりつつあった。しかし、〈漆黒の夜【公式】〉は週末にかけて「AI予言の妥当性」を説く投稿ばかりをつづけた。それは一部で『AI説法投稿』と呼ばれ始めた。


 一方、インサイト・エンジンの広告は週末も『配信停止中』のままだった。ウェブサイトへのアクセスは可能になったものの、システムの復旧の見通しについては情報が出てこない。


 予言【欺瞞のエンジン】も【星光の闇】も具体的な動きが見えないまま、ワイドショーとネットだけは週末もこの予言の話題で盛り上がっていた。



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