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2043 ーリテラ・ノヴァの予言ー  作者: 砂東 塩
Chapter11 サイバー犯罪
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#74 意見交換会

 佐伯部長の執務室を訪ねると、糸井部長だけでなく合田部長もすでにそこにいた。私に遅れること数分、最後に顔を見せたのは蒼君と一希君。


「合田部長、堂坂府警に連絡入れますよね? 直接? それともSLN経由です?」


 蒼君は入ってくるなり喋り出した。どうやら、先にDチャットで合田部長とやりとりしていたようだ。


「ふたりとも、ひとまずこっちに」


 佐伯部長が、蒼君たちを奥のオンラインミーティング用のテーブルに呼ぶ。6人集まると少々狭苦しい感じはあるけれど、蒼君は構わず「それで?」と質問の答えを合田部長に求めた。3人の部長は顔を見合わせて苦笑している。


「惣領、堂坂府警に直接言いたいことでもありそうだな?」


「堂坂府警も〈漆黒の夜【公式】〉には目をつけていたと思います。〈漆黒の夜【公式】〉が使用しているAIの生成パターンや、投稿のインフラについて、警察側で何か技術的な知見が得られているなら、うちの分析結果と照合させて欲しいです。

 今回の予言はリテラ・ノヴァが名指しされてるわけじゃないですけど、例のハッカーがうちを狙う可能性は排除しないほうがいいですから――」


 まくしたてるような蒼君の言葉を、「つまり」と合田部長が遮った。


「警察の方が分析精度は高いから、ハッカーが使用したとされる具体的なマルウェアの特性や、侵入経路の痕跡について詳細がわかればこっちも対策しようがあるってとこか。警察ではとっくに比較分析してるのかもしれんが、もっともらしい理由をつけてせっつかない限り何も教えてくれないからな」


「はい。そのためには、例の翻案予言botのアカウント乗っ取り犯と、〈漆黒の夜【公式】〉の運用者が同一人物であるという仮説も警察に伝える必要がありますけど――」


「仮説に過ぎないから、情報を得るには上手く伝えないとっていうことね」


 放っておいたら蒼君が止まらないと思ったのか、今度は佐伯部長が割って入った。けれど、蒼君はお構いなしに「そういうことです」とさらに続ける。


「〈漆黒の夜【公式】〉は、予言文で意図的にハヤト文体を模倣していると思われます。すでに『#ハヤト文体』のタグをつけてリポストされていますし、リテラ・ノヴァを想起する人は多くいるはずです。DRIを巻き込む意図がないとは言えません。

 もし、仮説どおり例のハッカーと〈漆黒の夜【公式】〉が同一人物なら、敵は結城先生から盗んだ情報を持ってるんです」


 一希君が申し訳なさそうに肩を縮めた。合田部長が腕組みをして、フウとため息を吐く。


「惣領、落ち着け。ハヤト文体に似せたのは、Deeeeepファンの拡散力を利用しようとしただけとも考えられる」


「その可能性もあります。だとしても、DRIを標的にする可能性がなくなるわけじゃないですよね?

 僕はリテラ・ノヴァを守るために言ってるんです。ハヤト文体をこんなふうに利用するのも許せません。

 それに、DRIのことだけではないんです。〈漆黒の夜【公式】〉の今回の予言は、特定の企業へのサイバー攻撃の予告とも受け取れるものです。予言にあった『欺瞞のエンジン』は、字面通り解釈するならインサイト・エンジンでしょう。

 インサイト・エンジンは広告代理店やECサイト向けのAI広告企業です。もし仮説通り〈漆黒の夜【公式】〉が例のハッカーだとすれば、ランサムウェアではなく、情報の改竄によって市場を混乱させるような、派手な攻撃を仕掛けてくる可能性があります。まさに、ライブ事件のような。

 警察がこのあたりをどう考えているのか、そもそも、〈漆黒の夜【公式】〉の予言をどの程度警戒し、実際の犯行に繋がると考えているかどうか確認しておきたいです」


 いつになく強い口調で主張する蒼君に、私は口も挟むこともできないまま成り行きを見守っていた。佐伯部長は思案するようにしばらく黙り込んでいたが、合田部長に視線を向ける。


「DRIの立場もありますが、保身に走って社会の安全を脅かすようなことはできません。技術的なことは私にはわからないから、合田部長と惣領君で今の話をまとめて堂坂警察に捜査状況を聞いてみてださい。ただし、慎重に」


「わかりました」と、合田部長は重々しい表情でうなずいた。


「警察から回答があれば佐伯部長にすぐお伝えします」


「それもだけど、惣領君は先走らないように気をつけて。警察の捜査の邪魔になってはいけないから」

 

「そうだぞ」


 佐伯部長の言葉にかぶせて合田部長も念押しする。しかし、蒼君はそれほど意に介していない様子。


「痕跡が残るようなことはしていないので、あまり心配しないでください。ひとまず、翻案予言botと〈漆黒の夜【公式】〉が同一人物かどうかについて、もう少し調べてみます。あと、これまで予言関連の動向は一般的なSNSを中心に追っていたんですが、ダークウェブの動向もチェックしてみようかと思ってます。

 あの予言が犯行予告だとして、どんなサイバー攻撃を仕掛るつもりなのか。うちがターゲットになる可能性を視野に入れると、得られる情報は少しでも多いほうがいいので」


 ダークウェブと聞いて私は不安を覚えた。佐伯部長は口元に手をあてて考える仕草を見せたが、すぐに「そうね」とうなずく。


「ただし、線引きはしっかりするように。警察に任せるべきところは任せて」


「わかりました」


 蒼君は、これで全て言いたいことは言い終えたというように前のめりだった上半身を起こした。すると、執務室に充満していた緊迫した空気がようやく緩む。これで、今後の方針はほぼ決まったようなものだった。


 私も緊張を解いたが、もどかしくもあった。サイバー犯罪にまで発展した状況で、キュレーターの私が役立てることなどない――そう思っているのが顔に出ていたのかもしれない。


「本宮さんは?」


 突然の佐伯部長の声に、「えっ?」と顔をあげた。


「本宮さんはどう思う? 今回の件について、なんでもいいから思うところがあったら言ってみて」


「あ……、えっと、私はサイバー犯罪のことはよくわかりません。でも、反AIの動きがまた加速するんじゃないかという気がして心配です。AI予言で騒ぐ人が増えれば増えるほど、反AIも激化すると思うので。

 それに、平井先生のことも気になります。ハヤト文体が予言に使われて、きっとまた気にしてるんじゃないかって」


 口にすると、心配がさらに大きくなった。


 デマ投稿で私とハヤト君の偽スキャンダル写真が拡散してから、ハヤト君と個人的なメッセージのやりとりがパタリとなくなった。きっと、事務所側から控えるように言われているのだろう。私も同じだ。


 これまでも基本的には砂川さんを介して連絡をとっていたけれど、たまに、思い立ったように文学の話をハヤト君がしてくることがあった。ちょっとした悩み相談なんかも。


 砂川さんが傍にいるし、斉田さんやDeeeeepメンバーもいるのだから大丈夫だとは思うけれど、『大丈夫ですか?』と、こちらから一言のメッセージも送れないのがもどかしい。


「平井先生のことは、SLNに状況報告するついでに聞いてみておくから。ハヤト文体や、リテラ・ノヴァ、AI翻案なんかに関するPitterの反応をキュレ部の方でチェックしておいて」


 佐伯部長から指示があり、意見交換は終了した。


 その後、キュレ部ではAIチームの協力を得て〈漆黒の夜【公式】〉の投稿に対する反応や、関連タグの動向をモニタリングした。それだけでなく、リテラ・ノヴァ関連コミュニティの監視や、AI翻案に関するオンラインフォーラムでの議論もチェックした。これは、反AI翻案の動向を探るためだった。


 予想していた通り、AI予言とAI翻案を混同して反AIを主張する投稿も増加。1970年代レトロ調アニメに始まった近年の反AI派の活動は、ここに来て一層加速したようだ。


 サイトの問い合わせフォームとPitter公式アカウントには、〈漆黒の夜【公式】〉が【欺瞞のエンジン】の予言を投稿して以来、「この予言文はリテラ・ノヴァのAI翻案か」という問い合わせが何件も寄せられている。



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