31 僕たちの女神
卒業式から3日後、エイムズ公爵邸にて、わたくしとゼンディール様との婚約が成り、1年後を目処に婚姻する運びとなりました。同じ頃、王都にあるダリライト様のスペンドル辺境伯邸でも、ダリライト様とパティ王女殿下の婚約が成っていると思われます。この婚約をもって、パティ様はスペンドル辺境伯邸で、花嫁修業をなさることになります。
その日の夜、わたくしはゼンディール様にサロンへと誘われました。思い出のケーキを食べながらお話をして笑い合います。
「ゼンディール様、わたくし、こういう時間に幸せを感じますわ。ゼンディール様のおかげです。ありがとうございます」
わたくしはキチンと頭を下げました。言った後には、恥ずかしくて少し俯いてしまいましたが。わたくしは、ずっとお礼をいいたかったのです。
「コレット、僕の方こそ、僕(の空回り)に付き合ってくれてありがとう。
あ、あのね……」
ゼンディール様はモジモジとしていらっしゃいます。
「いかがなさいましたの?」
わたくしは、下を向くゼンディール様のお顔を覗き込みます。ゼンディール様は上目遣いでわたくしを見ますの。これは何度やっても『ズッキュンポイント』ですわ。『はるかの知識』がそう申しておりました。
「婚約したから、ね、ふ、ふたつお願いがあるんだ」
「うふふ、ゼンディール様のお願いならいくつでも聞きますわよ」
ゼンディール様が無理なお願いはなさらないお優しい方だとはわかっているのですが、本当になんでも聞いてあげたくなってしまうのです。
「じゃあ、今日から僕を『ゼル』って呼んでくれるかい?僕は君を『コルル』って呼びたいな」
まあ!なんて可愛らしいお願いなんでございましょうかっ!そんなのすぐに『OK』ですわ!『OK』とは了承という意味だそうですわ。
「嬉しい!わたくしの愛称も考えてくださったのですね!ありがとうございます!」
「コ、コルル………」
「はい!ゼル様!」
ゼル様は、顔を赤らめていらっしゃいます。抱きつきたいのをグッと堪えましたわ。【まだ】わたくしからなんて、はしたないですもの。
「あと、その、もう一つはね………」
戸惑うゼル様。小さく息を吐き、決心したように、わたくしの肩に手を置きました。わたくしは『ドキッ』としましたが、少しだけ戸惑いを見せ、その後、ゼル様の方を見て、目を閉じました。
ゼル様の唇は、少し震えておりました。きっとわたくしの可愛いい旦那様になってくれることでしょう。
結婚してから、わたくしから抱きつきたいと思っておりますの。ふふふ
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卒業して3ヶ月。
僕は予定通り司書として、お義父さんの仕事を手伝っている。いつか、館長を引継ぐための勉強は、責任もあるし、きりがないが、やりがいはある。
時々、兄上の手伝いをさせられるが、そちらは責任もないので、気楽なものだ。特に文句も言わずにやっている。コンラッドが第一王子の側近にならなかったので、忙しいようだ。
コンラッドは、パティリアーナ嬢に言われたことを鑑みて、第一王子の側近ではなく、まずは高官になった。一部だけでなく全体を一通り理解するようにと、一年毎に部署を変えていくそうだ。移動するたびに勉強しなければならないのだから、それもなかなか大変なことだ。「いつか兄上の筆頭側近になる」コンラッドは、僕の兄アレクシスを追い抜く気持ちで頑張っている。
セオドアはすでに見習い騎士と言われる3年以内の騎士の中でリーダーをしている。父親が騎士団長だからといってできることではない。将来は父親を超えそうだと、有望視されているようだ。
「今年の冬には、騎士団でも雪玉戦争を取り入れるんだ」と張り切っていた。雪玉戦争は、僕たちが2年生の生徒会のとき、主にシンシア嬢のアイディアで発展した競技だ。大人の雪遊びだが、戦略も体力も必要で、きっと、騎士団でも流行るだろう。
ウォルバックは、高官として、ウォルの父親である宰相が総括する総務部で働いている。1月目で頭角を表し、すでに部下を持つ身になったとか。「出されていた書類のミスをいくつか指摘しただけだ。私自身は何もしていない」と謙遜していたが、じっくり見せてくれるわけのない書類のミスを見つけるなんて、簡単なわけはない。「指摘した書類の先輩方に睨まれたが、倍の仕事を回してやったら、黙ったよ。やっと、書類もまともになってきたな」こいつが宰相になったら怖いと、すでに噂になっている。
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2月。セオドアの計画した騎士団雪玉戦争大会は大成功をおさめ、これからは毎年の恒例となりそうだ。これをきっかけにカップルもできたそうだ。セオドアは常々、騎士たちの未婚を気にしていたから、とても喜ばしい。
その月末、コンラッドとマーシャの結婚式が行われた。王子として結婚したから、盛大に執り行われた。
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そして、3月の今日、ブランドン第一王子殿下の王太子就任、コンラッドの公爵位、僕の侯爵位の任命式が行われる。伯爵位以上の者と、高官の中でも役職者だけが集まっている、式典というより報告会のようなものだ。
ブランドン王子殿下の王太子就任祝とご成婚祝は、来月春麗かな時期に改めて、それこそ盛大に行われる予定で政務は動いている。ブランドン王太子のお相手は、年は僕たちより2つ上で、幼い頃マーシャとともに王妃勉強をしていたチェリー・グローバー侯爵令嬢だ。
そういうわけで、僕とクララの結婚式は延び延びになっているが、今日の任命に合わせて、教会に婚姻届けだけは提出し、今日からは一緒に生活できる。僕の侯爵位に合わせて、国王陛下より王都のお屋敷も下賜されたので、クララと使用人たちは、今頃引っ越しを頑張ってくれているだろう。お義父さんももちろん一緒に引っ越しだ。
国王陛下からは、結婚のお祝いに領地もいただいた。お義父さんは広くなった領地に『戻りたい戻りたい』と、ことあるごとにおっしゃるので、引き止めるのが大変だ。僕にはまだ国立図書館の館長は無理です。
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任命式が終わり、新しい屋敷にお義父さんと戻ると、コレットが来ていた。僕に話があるらしく、僕とコレットは、草木もまだまばらな中庭を歩いた。
「明日、ケーバルュ厶王国に帰るの。次に来るのはわたくしたちの結婚式だから、半年後ね」
コレットたちは、僕たちの結婚式の一月ほど前に結婚式だ。
「君たちの活躍は耳にしているよ」
コレットは、婚約者としてゼンディールさんとパーティーに、パティさんたちと一緒に参加している。美しいカップル二組は、現在社交界を席巻しているらしい。
僕とクララは、社交界には、まだ一度しか行っていない。結婚式を挙げたあとに、正式に社交界に参加することにしたのだ。
「パティ様が、王女殿下だからでしょう」
コレットは謙遜しているが、美人化粧のコレットは美しい。ゼルディールさんと並ぶと絵画のようだ。パティさんたちも。
美しい四人とお話をしたいと皆思っているが、ゼンディールさんとダリライト殿の甘い瞳が、誰も手が出せないと思わせているそうだ。
「あれから、夢は見る?」
きっとこれが聞きたかったのだろう。心配気に僕を見ていた。
「いや、見てないよ」
僕は笑顔で返した。あの年末以来全く見ていないのだ。
「無責任な話に聞こえるかもしれないけど、こういう小説って、学園を舞台にすることが多いから、バージルさんが出る話は少ないと思うのよ」
つまり、僕の悪夢はほぼなさそうだと言いたいのだろう。コレットなりの優しさだ。
「だけど、小説って、大人が主役のものもあるだろう?コレットの、いや、『はるか』の好みじゃなかっただけじゃないの?」
「バカね。小説っていうのは、波乱万丈を好むのよ。あなたのこれからにどんな波乱万丈があるのよ」
コレットは、フンと僕を小馬鹿にしたような顔をした。
「わからないだろう?」
僕は少し眉根を寄せた。
「わかるわよ。どんなことでも受け止めてくれる女神様がいるのよ。問題になんてならないわ」
コレットは自信たっぷりに笑ってみせた。
僕たちが屋敷に目を向けると、サロンでメイドたちに指示を出しているクララの姿が見えた。すでに侯爵夫人として、頑張ろうとしてくれている。
「『はるか』は違う小説みたいだったって喜んでいるわ」
「コレットにはまだまだ波乱万丈がありそうだけど、ね」
「わたくしじゃなくて、ゼル様でしょう。箱入り娘をものにするのは、本人を落としてからが大変なんだから。ふふふ」
「結婚式の日取りが決まっているのに、まだゴネているってすごいね」
僕は苦笑いだ。コレットも笑っているが、呆れ笑いか?
クララが僕たちの視線に気がついて、可愛らしく手を振ってきた。
「わたくし、聖母様のウェディングドレス姿が見たいの。妊娠だけは気をつけてよね」
クララに向けて手を振っているので、コレットの笑顔は素晴らしいものだが、言っていることは鬼畜だった。
「聖母?」
「女神様ってことよ」
「ふーん。とにかく、約束しかねるね。
でも、僕も女神のウェディングドレスは楽しみだ」
サロンの吐き出し窓には、明るい春先の日差しが注いでいた。僕たちの女神は、慈愛溢れる微笑みをたたえ、その光にキラキラと輝いていた。
〜王女と転落するようですが全力で拒否したいと思いますわ fin 〜
〜僕の夢は現のようだが全力で拒否したいと思う・隣国王女編 fin 〜
最終回となりました。ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
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明日は短編予定。
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