28 ダンスパーティー
『わたくしたちの繋がりが国と国との繋がりになりますのよ』『王様でしたら側室を持つこともゆるされますでしょう』『あなたが王になるのですよ』
パティリアーナ嬢の妖しい笑顔が僕の頭にこびりつく。僕がご本人を知っているからなのか、今日の夢のパティリアーナ嬢には、顔があった。
「解決してるんじゃないのかよぉ」
僕は布団を頭から被って、布団の中で腕を枕の上にバタバタさせた。
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今日は年末の学園のダンスパーティーなので少しだけゆっくりな朝だ。だが、久しぶりの夢見の悪さと解決したと思い込んでいた案件の再発に気分はすこぶる悪く、支度もおぼつかなかった。
「バージル兄様!みなさまのお着替えのお手伝いに行くのではありませんの?急ぎなさいませ!」
ティナに気合を入れられ、馬車に押し込められた。学園に着いたら、3人に相談しなくてはならない。
コンラッドも僕たちに話があったらしく、玄関に3人が揃っていたので、4人で生徒会室へ行った。座る間はなく、話が始まる。
「今日、夢を見たよ。パティリアーナ嬢はまだコンラッド狙いかもしれない」
ウォルとセオドアが驚愕の顔で僕を見た。だが、コンラッドはニッコリとした。
「それなら、大丈夫だ。昨日、王宮にパティリアーナ嬢をお呼びしてな、兄上が僕に打ち明けるという形で、パティリアーナ嬢が王女だということを僕が知るところとなった、ということになった??
あれ?わかるか?」
コンラッドは説明しながら苦笑いしている。
「で、私達はどうするんだ?」
ウォルは気にせず話を進めた。
「僕から話すということで、生徒会の面々はそれを今日知るということになったよ」
セオドアは元々嘘が苦手だ。あからさまにホッとしたような顔になった。
「ベラにだけは言いたいんだけど」
「ああ、ベラとティナなら大丈夫だろう。だがそこまでにしておいてくれ」
「「はい」」
ウォルとセオドアがそれぞれに話すことになった。
「あと、留学生をもてなすという意味で、パティリアーナ嬢のエスコートを僕が、コレッティーヌ嬢のエスコートをバージルがすることになっているのは変更なしだ」
元々、もてなしなしの企画として、マーシャとクララはもちろん了承済だ。さらに、僕はゼンディールさんからくれぐれもと言われている。親戚の僕ならギリギリ許せるそうだ。思っていたより、ヤキモチをやくタイプだったようだ。外交官として、コレッティーヌ嬢を置いて外に行けるのか?と心配になった。
「マーシャは夢の話を知らないから許可したんだろう。コンラッド、大丈夫なのか?」
僕は心配でならない。一応、夢のセリフは伝えた。
「うわぁ、微妙なセリフだぁ」
セオドアが困り顔をしていた。だが、コンラッドは平気そうだ。
「きっと、以前とは主旨が違うと思うんだ。昨日も、『コンラッド様はマーシャ様が好きすぎですわね』と笑われた。アハハ」
僕たちはコンラッドのその言葉を信じることにした。
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会場のホールの中には僕たち以外の生徒がいる。会場の出入り口前で待つ僕とコンラッドの前に、セオドアに先導されたコレッティーヌ嬢とパティリアーナ嬢が現れた。二人ともゼンディールさんからのプレゼントだそうで、素晴らしいドレスを纏っていた。
それぞれに手を差し伸べて、エスコートする。
大きく入口が開けられた。
「ケーバルュ厶王国よりご留学されております、パティリアーナ嬢とコレッティーヌ嬢です」
ウォルの司会で僕たちは並んで入場した。みんなには、パティリアーナ嬢は侯爵令嬢だとされている。
「では、本日のファーストダンスは、このお二組にお願いします」
ウォルの合図で音楽が奏でられ、僕たちはホールの真ん中でダンスを始めた。
「コレッティーヌ嬢、お化粧は戻してしまったんだね」
僕はダンスなので、笑顔を絶やさず話しかける。コレッティーヌ嬢もしかり。
コレッティーヌ嬢はいわゆる不細工化粧をまだしていた。
「うふふ、これでも毎日変化してますのよ。今日は特に顔色を素顔に近づけてみましたの」
「ああ、そう言われれば、今日はとても元気そうに見えますね」
と、ここで僕は少しだけよろめいた。目眩がしたのだ。コレッティーヌ嬢は何もなかったようにフォローしてくれた。
「ごめんね、実は昨夜夢を見たんだよ。コンラッドとパティリアーナ嬢の夢なんだ」
僕たちはチラチラとその二人を見ながら踊った。
「特に変化はなさそうですわね」
「ああ、でも、さっきの目眩の瞬間には夢のセリフが出たと思うんだよね」
今までは僕が直接聞かなければ目眩はしないと思っていたが、距離が関係するのかもしれない。だが、僕はその実験をやるつもりは全くない。
「ボブバージル様はこの後、クララ様とダンスですわよね。わたくし、パティ様の確認しておきますわね。わたくしにとっても、パティ様にはコンラッド殿下を諦めてほしいですもの」
「すまないね。頼むよ」
「ふふふ、でも、恐らく大丈夫ですわ。強制力などに負けないくらい愛があるはずです」
コレッティーヌ嬢の笑顔には余裕を感じた。
曲が終わり、僕たちは会場に向かって頭を下げた。会場中から拍手をもらった。コレッティーヌ嬢が僕の手を離して外へと向かった。途中で男子生徒から、声をかけられていたが、断っていた。
僕はクララと場所の約束をするのを忘れていた。探さなくては、と思い、コレッティーヌ嬢から視線を外し、会場を見た。僕は自分が思っているよりモテる。会場中のいたるところから視線を感じた。
しかし、僕の視線はすぐに一人だけに釘付けになった。僕の女神は僕を包み込む笑顔で佇んでいた。これだけの広い会場。多くの生徒たち。それでも、僕の視線を独り占めするのは、僕の女神だけだ。
僕は駆け出したい気持ちを抑えて女神の元まで歩いた。
「貴女と踊る権利は僕だけのものにしたい」
僕は跪き、クララの手をとり、キスをした。会場中から黄色い声が飛んだが、僕には些末なことだった。
「もう、ジルったら、お上手ね」
言葉までが僕を優しく迎え入れてくれる。僕は女神とともにホールへと歩き出した。
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クララと2曲踊り、手をとったまま飲み物のテーブルへ行くと、マーシャとコンラッドも休憩をしていた。二人とも笑顔なので、コンラッドとパティリアーナ嬢の間には何もなかったのかもしれない。それを今は確認できないが。
そこへ、女子生徒が数名やってきた。
「あ、あのぉ、マーシャ様………」
「ええ、お待たせしましたね。次の曲からは大丈夫ですわよ。
セオドア、ウォルはどこかしら?」
セオドアはすぐにウォルを連れてきた。
「去年とは違う方と踊ってくださいませね。1年生は最初で最後ですもの。お選びになった方と楽しんでね」
マーシャの笑顔が悪魔に見えたのは、きっと僕だけではない。ウォルの機転で、1年生のウォルの弟が呼び出され、今年もまた、4人でダンスのお相手をすることになった。3人だと、確実に誰かが倒れる。
クララは笑顔で僕に手を振る。きっとこの話を知っていたのだろう。確かに先程、クララの相手は僕だけにしてほしいと乞うたが、僕の相手がクララだけとは言わなかった。
………まあ、言っていたとしても、逃げることができていたとは思わないけど。
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