アンチ武田
素直に尊敬してしまった。
プロになるには中々に厳しい身長。身長がどうしてプロになることへの条件になるかといえば、それは低身長の人間の方が高身長の人間より運動能力が劣る可能性があるからだ。
高身長の人間より低身長の人間の方が足が短いかもしれない。
もし足が短ければ、短距離をする時に足の長さで速さの順列が決するかもしれない。体に蓄積できる筋肉量も劣ることになるかもしれない。
だから、一部例外こそいるものの、プロになる可能性が極めて高い選手は、決まって高身長の選手だ。
ただ彼は恐らく、その例外中の例外の存在だろう。
背が低くても鍛えぬけば諦めなければ、高身長の選手をも凌駕する選手になれる。
赤羽根という選手は、その体を以てそれを体現しようとしているように見えた。
俺は、心打たれた。
入学当初思った。
俺は、部内でも身長は高い部類に入らない。むしろ、低い部類に入るだろう。
低身長、かつ普通科ということもあって、当初は監督にさえ冷やかしと思われたくらいだ。
そんな俺から見て、人一倍努力しただろうことがわかるこの赤羽根という男は、尊敬以外の念は浮かんでこなかった。
「えぇと……」
「馬鹿武田。何相手校の選手に絡んでいるんだ」
吉村先輩が仲裁に入ってきた。
「すいません。こいつ野球のことしか頭にないので、あまり気にしないでください」
「ちょ、ちょっと。それは困ります。もっと俺、赤羽根さんと話したいです」
「お前それ、試合中にすることじゃないだろ」
確かに。
ぐうの音も出ない。
「それにほら、あそこの入江さんを見てみろ」
「ん?」
なんでここで入江さんが?
よくわからなかったが、俺は吉村先輩に言われるがまま、入江さんを見た。入江さんは何やら、悲しそうな顔をしていた。
「え、武田君そっち趣味だったの? って顔しているだろう」
「そんな顔していますか?」
あ、入江さん逃走した。
「ほら、惚れさせた女の子を何悲しませてんだ」
「……えぇ? そんな顔していますか?」
「間違いなくしていた」
「どうしてそう言い切れるんです?」
「こんなに嬉々としたお前の顔、俺は見るの初めてだから」
「なんだそりゃ」
……ん?
「っていうか、惚れられたって?」
まあ入江さんに先日告白されたことは事実。何が不思議かって、なんでそれを吉村先輩が知っているのか、ということだった。
「あんな可愛い子に、野球部の他の連中が惚れないわけがないだろ」
「そうなんですか?」
なんと浅はかな。
「そうなんだよ。それで、つくづく野球部の連中、入江さんに玉砕して回ったそうだ」
「ほう」
「その中に、どうしても諦めきれない奴がいたそうでな。その時、入江さんが渋々語ったのがお前についての想いだったらしい」
「ほうほう」
「今では野球部に入江さんの想い人の相手は共通認識されている。その結果、武田アンチとなった部員も数多い」
「え、なんですかそれ?」
俺、そんなの初耳なんだけど。
「あの、そろそろ」
海浜本郷高校の審判が、俺達を注意しにやってきた。
……そういえば、俺どうして二塁ベール付近で声を出したんだっけ?
はて?
ボールを返球して、定位置に戻った。
……あ、赤羽根さんに声をかけたんだった。
もう一度赤羽根さんに声をかけに行こうと思ったが、試合が再会されそれも叶うことはなかった。悶々とした気持ちを抱えたまま、俺は試合を続行した。




