ペロッ、これはラブコメ
「入江さん、あんたもそれが良いか悪いかなんて、わかってるんだろ?」
少しだけ呆れたように俺は言った。
入江さんはしばらく俯いて、頷いた。
「そんなのもう恋仲関係でもなんでもないぞ。そんな都合の良い関係、あんただって望んじゃいないだろ」
なんて文句を言いながら、彼女を振っておいて偉そうなことを言っていると気付いた。
「ああと、つまりさ……。俺、ルーティーンがあるんだよ」
「ルーティーン?」
「そうそう。俺、部屋の掃除や洗濯とかさ、自分でしなきゃ気が済まないたちなんだよ。だから、それを他人にやられるの、少しだけ嫌なんだ」
「そ、そうなんですか」
「ああ、だからさ。そんなことを他人にされたら、むしろ俺の邪魔をしやがって、と少し苛立つ」
だからこそ、あの料理以外非協力的な同居人に対して、俺は一度も文句を抱いたことがないのだろう。文句はない。愚痴はある。
例えば、寝相の悪さとかな。
「じゃあ、掃除とかはしません。ご飯を作るのはどうですか?」
「ああ、それも大丈夫」
だって、料理は同居人が得意だからな。本当、互いの駄目なところを補い合ってるよ、俺達。
「武田君。料理まで出来るんですか? それは少し、気になります」
「いや、俺は出来ないぞ?」
「え、じゃあどうして大丈夫なんです?」
おっと、墓穴を掘ってしまった。
「……えぇと、親が得意なんだ」
「あれ、武田君一人暮らしをしているんじゃないんですか?」
「えっ」
な、なんで知っているの? 怖いんだけど……。
「あっ、違います。違うんです」
入江さんは慌てて弁明した。
「えぇと、今日の朝礼で、担任の平田先生が教えてくれたんです。昨日活躍した隣のクラスの武田は、一人暮らしをしているような苦労人だからな。皆もあいつのことを見習うようにって」
俺にプライベートはないのか?
平田先生とやらは知らないが、ナチュラルに俺の所帯をばらすな。
「それで……どうして大丈夫なんですか、武田君?」
……あれ、これやばくない?
「……俺にはコンビニ弁当があるからな」
「そんなの駄目ですよ、武田君っ!」
今日一番の形相で、俺は入江さんに怒られた。俺の身を案じてくれているからこその剣幕に、俺の良心は痛んだ。
「そんなの栄養が偏ってしまいます! スポーツ選手の資本は健康な体でしょ!? それなのに、体をないがしろにするそんな考えは駄目です!」
仰る通り。
「武田君。武田君の気持ちはよくわかりました。今、恋仲関係を必要としていないという本心も。やっぱり君は君で、いつも通り自惚れないストイックな君ということも。よくわかりました。
正直な胸中を吐露してくれて、あたし、とても嬉しかったです」
「あ、どうも」
「でも、こればかりは妥協できません! 別に、武田君に借りを作りたいわけとかではないんです。ただ、好いた男の子が今からそんな生活をしていることが、不安なだけなんです」
「は、はい……」
「あたしに、武田君のご飯を作らせてください」
必死の形相で、入江さんは俺に迫った。
「……えぇと」
俺は少しだけ困っていた。
困って、困り果てて……。
「冗談だよ、冗談!」
全てを誤魔化すことにした。




