好意を持たれることは嬉しかった。
親が転勤族という理由もあってか、かつてから俺の交友関係というものは軽薄なものだった。かつてから入る学校入る学校、決まったコミュニティーが既に形成されていて、子供ながらその輪に入ることに躊躇したことは数知れなかった。
だからか、高校生になった今でも交友関係のある友人というのは非常に少ない。多少いることはいるが、それでもやはり、どこか他人行儀なことは否めなかった。
協調性がある、と度々周囲に漏らしてきたが、多分俺と周囲とで俺の感性への乖離があるのは、そういう当時の苦い体験が多少は影響しているのだろうと思っていた。
まあ、当時から俺は野球というものが好きだったし、深い孤独感とかは感じたことはなかった。そんなものを感じるよりも、練習に汗を流して体が自由自在に動かせるようになる快感に浸っている方が、子供の頃から俺は好きだった。
今回、そんな過去を経て、一人の女子に、どうやら俺は好かれたそうだ。
好意という感情を、他人から向けられる経験はあまり多くはなかった。好意という感情は、多分時間をかけて成されていくもので、それを自他共に得られるほどの時間を、俺は他人と共有することが出来ないでいた。
だから、今回一人の女子が俺を好いていてくれていると知った時、照れてしまうこともあったが、正直に言えば、悪い気はしなかった。
というか、嬉しかった。
人に好意を抱かれることが嫌いな人なんて、多分この世にはいないんじゃないだろうか。
「あ、武田君」
放課後、手短に話をしてくれるという少女の前に、俺は赴いた。
少女、というか入江さんは、とても嬉しそうに俺を迎えてくれた。
「どうも」
「ありがとうございます。わざわざ」
「いいや、こっちこそ」
好いてくれて、ありがとう。
とは、恥ずかしくて言えなかった。
「……手紙、読んでくれたんですね」
「ああ」
もじもじする入江さんに、俺は即答して頭を掻いた。
「いやはや、よく観察されていらしたみたいで、とても恥ずかしかった」
「そんな。……そんなことないです。あたし、まだ全然武田君のこと、知らないです」
そうだろうか。
あれだけ俺の犯してきた行為を知っていて、それは無茶苦茶だろう。
「それで、ですね……」
「ああ」
「それで……今日お呼びだてした理由は、あたしの気持ちを伝えたかったからなんです」
「そうか」
「はい。そうなんです」
入江さんは、緊張しているらしく、大きく息を吸って、吐いた。
「武田君。あたしと付き合ってもらえませんか?」
そして、意を決したように俺に尋ねてきた。
……好意を抱かれることは、悪い気はしなかった。
これまで他人に、好意を示される経験がなかったから。
だから、初めての体験に舞い上がった。
本心を吐露する困難さを理解していたから、彼女の躊躇わない姿勢に照れもした。
人生何があるかわからないものだ。
好きなことで道しるべを残し続けた結果、俺の前に俺のことを好いてくれる人が現れた。
対面から口に出されて、それが偽りでも、俺の誤解でもないと知らしめさせられた。
「ありがとう」
だから俺はお礼を言った。
俺みたいな愚直な男を好いてくれて、感謝の気持ちしかなかった。
……でも。
「ごめんな。入江さんの気持ちには応えられない」
俺は彼女の思いを無下にした。
俺みたいな男を好いてくれたからこそ、彼女の気持ちに真正面からぶつからないといけないと思った。
とはいえ、彼女の思いを知った上で無下にするのは、やはり少し胸が痛くて……。
俺は、なんとも言えない顔で苦笑していた。
四話書いた。
次は起きたら垂れ流す。




