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狙い球を打ってみた。

 四回表の攻撃は俺からだったが、五球目のストレートを捉えるもサードゴロだった。


 後続も倒れて、結局この回もこちらは無得点。


 裏の攻撃は、立ち直った前川のピッチングで無失点。

 五回は両チーム無得点だった。


 六回の攻撃前、


「各自、絞り球しっかり狙うこと!」


 こちらのチームの円陣から、攻撃は始まった。

 打順は、八番の村田先輩からだった。

 

 柳は、相変わらずスキのないピッチングを展開していた。コースの四隅をつきカウントを整えて、カーブ、フォークで打ち取る。その戦略に、こちらの打線はほぼ歯が立っていなかった。


 ただ、やはり柳はフォークよりはカーブのほうが投じる割合は高い。カウント球としてもカーブを投げているからそう見えるところもあるだろうが、一番はフォークの精度不足が原因だというのが、ここまでの試合を通じて抱いた俺の所感だ。


 まあ、俺の打席でフォークを投げてくれたことはまだないのだが、ベンチから味方打線への投球を見ていても、時々半速球の甘めの球が飛んできていたのだ。




 ……四対ゼロからスコアが膠着したのは、良い傾向だ。


 試合も終盤に差し掛かるこの状況で、次の一点は両チームにとって重要となる。

 どちらが、その一点を奪えるか。


 村田先輩は、粘ったもののフォークに三振。


「よしっ!」

 

 しかし、九番平泉先輩が四球で出塁。


 ワンアウト一塁、吉村先輩の打席だ。


 ネクストバッターズサークルから、俺は吉村先輩が狙うであろう球をおおよそ検討を付けていた。


 それは、フォークだ。


 次の一点が両チームにとって重要になるこの状況で、柳としては躱す球であるフォークかカーブを比較的多めに投げたいと思っているはず。カーブというリスクを孕む変化球よりは、コースに決まりさえすれば空振りをほぼ確実に奪えるフォークを選択したいはずだと思っていた。

 ただ端から考えれば、その両変化球を天秤にかけた時、変化球の精度から見て長打になりやすいのは、ここまでくると明白だった。



 カキィン!


 吉村先輩は、半速球になった落ちないフォークを痛打した。打球は右中間に飛び……。


 ガシャン


 フェンスに激突。

 吉村先輩は快足を飛ばして一塁を蹴るが、スタートの遅れた平泉先輩が三塁で止まったおかげで二塁ストップ。


「クソッ」


 吉村先輩は、スタンドまでボールを飛ばせなかったことを悔しがるように天を仰いだ。


 ただ結果的に、ワンアウト二、三塁のチャンスで、打席には俺、という状況を作ってくれたのだ。


 

 打席に入りながら、俺は小さく微笑んでいた。


 先制こそされたものの、その後は無失点に抑えている試合状況。

 スコアリングポジションにランナーを貯めてしまった展開。


 そして、直前にフォークが抜けて、落ちない球を痛打されたイメージ。



 柳にとって、空振り球は二つある。カーブとフォークだ。

 この俺の打席で、奴が再びフォークを投げる。つまりリスクを犯す必要は可能性は極めて低い。





 つまり、決め球には必ずカーブが来る!



 振りかぶった柳の初球は……。


「うぐっ」


 まさかの、ど真ん中カーブだった。

 打ち気を逸らされ、絶好球にも関わらず、俺はその球を見送ってしまった。


 キャッチャーが投手に返球する球が、いつにもまして速い。これは多分、この場面でカーブを初球に投げるのは予め決められた行為だったことを意味している。だけど、打ち合わせではなるべく際どいコースに投げろ、と言ったのに、投手がど真ん中なんて絶好球を投じてきたから、無言の怒りを込めたのだろう。


 まずいことになった。


 何がまずいって、今のカーブ、腕の振りがまったく緩まっていなかったのだ。


 スコアリングポジション。ワンアウトで俊足ランナーが二塁にいることからヒットでも二点取られるこの状況。二点取られれば、途端に試合がわからなくなる展開。


 その展開を作ってもなお、柳は一切臆した様子はないのだ。


 二球目はストレート、アウトコース一杯だった。やはり今日の審判は、外のストライクゾーンが広めだ。




 追い込んでからの、三球目は……。


 カキィン!


 外のストレートだった。俺はなんとかカットした。




 俺は大きなため息を吐いた。なんとかカット出来た。

 ふと、柳をチラリと覗いてみた。



 柳は、微笑んでいた。

 まるで、この勝負を楽しむかのように、微笑んでいたのだ。


 身震いして、俺は柳の四球目を待った。


 四球目は、インコース高めのストレートだった。再び、俺はなんとかカットした。


 五球目は、再びインコースのストレート。俺は、サードライナー性のファールを放った。


 六球目は……。


 ズドン!


 アウトコースのカットボール。

 判定は、


「ボール」


 ボール。これでカウントは、ワンボールツーストライク。


 そして、七球目のボールを投じるその最中……。


 俺は柳の腕の緩まりに気付いて、いつもより長めに足を上げていた。



 ……俺の作戦は、あくまで一貫していた。

 シングルヒットでも二点取れる状況から、カーブを狙い打ってヒットになれば万事オッケーというスタンスだった。


 そのために、カーブが来るまではどんな球でもカットする気でいた。


 カットを続ければ、投手としては投げられる球が絞られていくし、コースをキッチリ決めきらないといけないとプレッシャーも覚えるはずだから。


 六球目のカットボールは、我ながらよく見定められたと思った。コースは二球目のストレートと変わらなかったが、球速がわずかに遅く見えて、変化球だと判断して見送った。


 そして、その結果がより、柳にカーブを、そしてそのカーブをコントロールさせなければならないというプレッシャーを生んで、七球目の腕の緩みに繋がったと思えた。



 ……だけど。


「ちょおいっ!」


 俺は叫んだ。


 山なりに浮いて沈んでいくカーブにバットを出しながら、俺はカーブの軌道がベース手前でワンバウンドするほどコントロールミスした球になると気付いた。


 この場面で腕の振りを緩ませてなおコントロールミスしやがって、と柳に怒りを覚えたが、体は意外とスムーズにボールへのアプローチを進めていた。




 膝を曲げて、上半身を沈ませて、地面スレスレを通ったバットは、ワンバウンドしたボールを上手く乗せた。ボールは三塁手の頭を越える小フライとなって、グラウンドに転々と転がった。


 ポテンヒットを掴んだレフトは、バックホームした。


 間一髪、吉村先輩の足が速くホームベースに滑り込んで、二点加点。


 ついでに、バックホームの間に、俺は二塁を陥れた。




 ワンプレーが収まる頃、曲芸打ちをした俺に対してか、もしくは俊足を飛ばした吉村先輩に対してか。


 ……ようやく盛り上がってきた試合展開にか、球場が割れんばかりの歓声に包まれた。

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