第23話~両親と子ども~
女の人の声とともにファルーはその人に駆け寄った。
門番が慌てて止めようとしたのを声をかけて止める。
感動の再会を邪魔してやることはないだろう。
今はファルーとその女性が抱きついている。
その後ろには心底安心したような表情の男性が立っていた。
二人ともファルーと同じ耳と尻尾があることから両親なのだろう。
その二人の表情を見てファルーを助けてよかったと思えた。
『ファルー、お帰り。怖かったよね。ごめんね、ごめんね。』
母親が泣いて抱きつきながら謝っている。
『ママ、パパ、ただいま。』
『お帰り、ファルー。』
『お帰り。』
父親の方もしゃがんでファルーの頭を撫でて笑っていた。
しかし、父親は泣くことはしていない。
それは恐らく俺がいることに気付いているからだろう。
父親の方はファルーの頭から手を離すと立ち上がり俺を見た。
その瞬間、父親の殺気のようなものがフィロスに突き刺さる。
やはりこう来るか。
ファルーと別れる決意をしてからは親のところへ返す時にどう言えばいいかを考えていた。
その中で、自分が奴隷商の仲間だと思われるかもしれないというのも考えてはいた。
予感というものは一番悪い方向に行きがちだ。
今にも殺しにきそうな殺意を出しているにも関わらず襲ってこないのはフィロスの実力がまだわからないからなのか、愛娘に普人種がグチャグチャになるところを見せたくないからか。
後者なら、ファルーが母親に連れられていく前にせめて殺すことだけはやめようとさせなくてはならない。
そこでフィロスは膝をつき、何も隠してないことを示すように腕を軽く広げた。
この世界の戦意がないことを示す方法などわからないから自己流でいく。
「なんのつもりだ。」
『獣人語で大丈夫です。』
『‥‥‥わかった。獣人語で話させてもらおう。』
父親のさっきは収まらず、少しずつ増して行っている気がする。
『まず聞いて欲しいのは、俺は奴隷商の仲間ではないです。』
『それが本当だという証拠は?』
そう、それが無いのだ。
フィロスは少し俯く。
それを父親は証拠は無いのだと受け取ったのだろう、言葉を続けた。
『お前が奴隷商の仲間では無いと証明できないのであれば、即刻立ち去るか私たちに処刑されろ。』
立ち去るという選択を残しているだけありがたいのかもしれない。
『では、処刑される前に立ち去らせていただきます。』
『そうか、事情は知らないが我が娘を』
『フィロス?』
立ち去ろうとした俺の背中に少しばかりの声をかけようとした父親の言葉を遮ってファルーの言葉が響いた。
その瞬間、その場にいた全員が固まる。
気付けば野次馬というか村の人たちが集まっていたようだ。
『フィロス、どこ行くの?』
『じゃあな、ファルー。パパとママの言うことはちゃんと聞くんだぞ。』
フィロスは振り返らずにファルーに答える。
『行っちゃうの?』
『あぁ、俺はこの村には』
『やだ!』
ファルーの涙ぐんだ叫び声に言葉を遮られてしまった。
『パパ、なんでフィロスを睨んでるの?』
振り返るとファルーが父親の足にしがみついて涙を流してくれていた。
『ファルー、あの人はお前やお兄ちゃんをさらった人たちの仲間かもしれないんだ。』
『違う。フィロスは悪い人じゃない。』
『‥‥しかし、』
『フィロスはファルーを助けてくれたの。』
『‥‥‥はぁ、わかったよ。』
父親は足にしがみつくファルーに困ったように微笑むと抱き上げる。
そして、そのままフィロスの方へと歩いて来る。
母親の方が一瞬手を伸ばしかけたが何も言うことはなく腕を戻した。
『まずは立って欲しい。』
『ありがとうございます。』
『いや、こちらこそすまなかった。』
『あなたの言い分もわかっていますから、大丈夫です。』
『そうか、私の名前はカルトだ。あそこにいるのが妻のシーナだ。君の話を聞きたい、家まで来てくれないか?』
『いいのですか?』
『いいじゃろう、ファルーちゃんの恩人をそのまま返すなど無礼だからな。』
見た目からして長老らしき人物が口を挟む。
銀色の狼だと思われる人種だが、少し背が曲がり自分と同じぐらいの長さの杖を持っていた。
そういえば部外者の立ち入りは村長の許可が無いと駄目だったな。
『もう大丈夫じゃ、お前らは戻れ。』
老狼の言葉にファルーの両親と門番以外は帰って行く。
そのほとんどが優しく笑っていたことからファルーの愛されようがうかがえる。
『フィロス、じゃったか。』
老狼がこちらに歩きながら問う。
『はい。』
『ファルーちゃんをありがとう。』
『私からも、ありがとう。』
『フィロスさん、ありがとうございます。』
シーナもカルトの隣に来て感謝を述べた。
『ファルーが無事に届けられて良かったです。』
『カルト、案内してやりなさい。』
『はい。フィロス君、とりあえず家まで案内しよう。』
カルトに連れられて門番に開けられた柵をくぐる。
その時、声を掛けられた。
『俺ら門番も感謝している。ファルーちゃんをありがとう。』
『どういたしまして。』
村の中を歩いて行く。
家は木造がほとんどで地面は舗装はされていなかった。
『ファルーはみんなに愛されているんですね。』
『元々獣人族はそういうものだ。普人種も多かれ少なかれそういうものがあるだろう?』
『確かに、そうですね。』
ファルーと両親の家は門番のいるところからまっすぐ行ったところ、最西端だった。
『さあ、入ってくれ。』
ファルーを抱いたカルトとシーナに続いて家に入る。
ここでも、靴を脱ぐ習慣はないようだ。
カルトに応接間であろう部屋に通される。
シーナはお茶を注いできますとすぐに出て行った。
カルトがソファに座りファルーはその横に座る。
『取り敢えず座ってくれ。話が聞きたい。』
『はい、失礼します。』
カルトに言われてフィロスはカルトの対面へと座った。
『まず、改めて確認がしたい。君は本当にファルーをさらった者達の仲間ではないんだな?』
少しだけ厳しい顔をして聴くカルト。
フィロスはもちろんそんなことはないので真剣な顔で答えた。
『もちろんです。ファルーとは奴隷商のものと思われる馬車から救い出してから一緒になりました。』
『パパ、ほんとうだよ。フィロスが鎖を外してファルーを助け出してくれたの。』
『鎖?』
『手錠のことですね。』
『そうか。』
『それでね、フィロスとルナとね、お魚食べたりお昼寝したり海を見たりしたんだよ!』
『ルナ?』
『いっしょに旅をしていた商人の子のことです。今は別れて東の港町に向かいました。』
『冒険者の護衛任務中だったのか。』
『いえ、冒険者ではないので正式な任務としては受けていません。大丈夫です。』
『そうか、すまなかった。ありがとう。』
カルトが頭を下げたところでシーナがお茶を持って入ってきた。
『えっと、フィロスさん?お茶をどうぞ。村の裏の茶畑で取れた新鮮な茶葉です。』
『ありがとうございます。』
シーナから直接手渡しで受け取るとお茶の暖かさが手に伝わってきた。
カルトが自分のを飲んだのを見届けてからフィロスもお茶を口にした。
その時、ファルーがソファを降りフィロスの元まで歩いてきた。
『フィロス、スライムは?』
『あぁ、いるぞ。』
そう答えてカバンからスライムを出してやると大喜びでそれを受け取りフィロスの横に座った。
それを見てカルトとシーナは驚愕している。
『スライムを遊び道具にさせるとは。君は面白い才能があるかもしれないな。』
『そうね、何もしてこないといえど魔種であるスライムで遊ぼうなんて思わなかったものね。』
シーナがカルトに微笑む。
無害な魔種で遊ぶこと自体はダメではないのか。
二人の驚愕した顔に信仰上の理由とかがあるかもしれないと思い至ったが今回は大丈夫なようだ。
ファルーはフィロスの横でスライムをちぎってはくっつけて、ちぎってはくっつけて遊んでいる。
『あぁ、そんなことはいいんだ。フィロス君、ファルーとの出会いを詳しく教えてくれないか?』
『はい、最初ファルーと会ったのはプリーモの街の北にある森の街道沿いの小道です。僕はある個人的な理由からたまたまそこにいたのですが、男性の悲鳴を聞いてそこに行くと馬車が狼に襲われていたんです。狼はすぐに追い払い、その馬車の荷台を覗くとファルーが捕まっていたんです。』
『‥‥‥そうか。』
そこで、大事なことに気づいたフィロスは普人語で話し始めた。
「カルトさんは、普人語はわかりますよね?」
「ん?大丈夫だ。」
「ファルーも僕が少し教えてしまったので単語なら拾えてしまいます。なので少し早口で。今、ファルーの背中には奴隷紋が刻まれています。」
「っ!」
「嘘っ。」
カルトはスライムを見た時より驚愕の表情を浮かべ、シーナは両手で顔を覆い隠した。
「やはり間に合わなかったか。」
『どうしたのママ?』
『大丈夫よ、フィロス君とお話をしていてちょっと驚いただけだから。』
何かあったのかと首をかしげるファルーにシーナは無理矢理笑顔を作って返す。
「消す方法とかはないんですか?」
フィロスが聞く。
「一応はあると聞く。しかし、それは奴隷商にしか出来ないらしい。この村を襲った者達が喋っていたよ。」
「国、王都にか、にはさらわれたという報告は出したんですか?」
「あぁ、恥を忍んで出したさ。しかし、証拠がないからと保留にされた。」
「恥を忍んで?」
「君はもしやこの国の者ではないのか?」
「まぁ、そんなところです。」
「そうか、他の国はどうか知らないが、獣人族が混ざって住んでいるこの国では自分を、自分の家族を守れない奴は無能と言われるのだ。娘をさらわれたのはお前の責任だ、とな。」
「そうでしたか、すいません。」
「いや、事実だからいいのだ。娘がここにいれば評判などどうでもいい。この村の者達もそうやって差別するような者達ではないからな。」
「それは、よかったです。」
カルトは疲れたようにソファにもたれかかった。
『どうしたものかな。』
話している言葉が獣人語に戻る。
フィロスは自分がなぜ獣人語を話せるのか改めて不思議に思った。
明らかに発音が違うのになんとなくでわかってしまうのだ。
映画で、英語と吹き替えが同時に入ってくる感じだろうか。
ファルーは真剣な会話をしているその横でスライムを投げて遊んでいた。
その時、フィロスにある一つのアイデアが浮かんだ。
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