851~860
851.
「いい肉の日」嬉しそうに薔薇が肉を焼いている。じゅうじゅうとステキな音と香りが漂う。普段行儀のよい愛猫たちもそわそわしている。隼はもちろん、鶺鴒もわくわくしながら待っている。ゴミ箱がガタリと鳴った。双子が振り向けば、物の怪が左右に首を振っている。「生が一番なのに」
852.
突然足に抱きつかれて、薔薇は短く悲鳴を上げた。反射的に振り払おうとして、危ないところで手を止める。目に涙を溜めて震えながらしがみついているのは、見覚えのある小さな男の子。何か言おうとして、ベッドから転げ落ちた。足には、小さい頃に捨てた筈の毛布が巻き付いていた。
853.
12月に入り一般家庭でもキラキラ輝くイルミネーションが増え始める。すっかり暗くなった帰路を鶺鴒が歩いていると毎年見事に飾りつける家の前で、小鬼や子狸、ちまい物の怪たちが電飾を見上げている。「今年こそキラキラしたまま収穫だ!」「おー!」君らが去年の盗難事件の犯人か。
854.
薔薇はイヤホンで歌を聴きながら、陽だまりで眠っていた。真夏なら熱中症になるが、寒い季節は丁度いい。日が陰って少し冷え、目を覚ます。イヤホンがない。寝ぼけながらコードを辿ると、朝顔の柄の浴衣が見えた。顔が見える前にコトンとイヤホンが落ちた。夏の華やかな歌が聞こえる。
855.
強い生き物の寝姿というのは、万物に安堵や油断を齎すらしい。妹の薔薇が日向で長々と伸びて寝ていると、いろんなものが傍に寄る。特に夏に愛されているのか、蛍が鶺鴒に「起こさないで」と囁きかけ、眠りについたばかりの朝顔と向日葵の魂が彼女には見えぬと知りながらそっと花開く。
856.
夜食を買いに外出したら、河川敷でクラスメイトの男子が半魚人に襲われていた。相当腹が減ってたようで、薔薇が本気で四、五発殴ったのに逃げない。勢い余って首を捩じり切ってしまった。薔薇も腹が減っていて気が立っていたせいだ。茫然としている男子。どうしよっかなぁ。
857.
寒いので、薔薇は紅茶を淹れることにした。温めたカップにダージリンのティーバッグと熱湯を注ぎ、適当な皿で蓋をして、しっかり時間を計って待つ。皿をとると良い馨りと白い湯気、目の前が真っ白に曇る。えっ?!鶺鴒が目を丸くする。「眼鏡の幽霊なんてどこで拾って来たんだ?」
858.
赤い服を着た白い髭の老人が「きみは良い子かい?」と無差別に聞いて回っていると、警報メールが届いた。薔薇が携帯から顔を上げると赤い服を着た白髭の老人が微笑んでいる。「きみは良い子かい?」「自分で判断できないならその仕事やめたら?」赤い服の不審者は以来現れない。
859.
薔薇の部屋からすごい悲鳴が聞こえた。兄二人は飛び起きて、妹の部屋に飛び込む。ドアを開けた途端、隼の胸に重い塊がぶつかってきた。隼を押し倒したのは―夢を喰うことで有名な獏だ。丸いお腹に歯型がついている。部屋のベッドの上、寝ぼけ眼の妹が呟く。「ステーキどこ?」
860.
道の真ん中に、池の絵が描いてあった。住宅街のアスファルトの道路なんだから絵に違いない。TVやネットで見かけるトリックアートなのだろう、とてもリアルで本当に池のようだ。絵だよな。隼はふと思い立ち、脇に立って手を叩いてみた。パンパン。水底から次々に鯉が泳ぎ寄せてきた。




