841~850
841.
あげる、と鶺鴒に差し出されたのは開封されたポッキーとプリッツの箱。「いいの?」「うん」だが何故か薔薇は不満げだ。一本ずつ抜きとると、鼻の穴を広げて満足げに頷く。ふと見ると隼は三本ずつとったらしい。薔薇の肩に乗った小さな龍が僕も僕もと言っているが、聞こえる筈もない。
842.
たまに謎の白い手が出てくる近所の自販機で、兄と妹は気にせず飲み物を買うことにした。出てきたのは赤い液体で粘つく拉げた缶。「…」「怒らないであげて」「え?」突然自販機の明かりが消えた。スマホで照らすと、錆だらけの古びた自販機が電信柱に寄りかかるように置いてあった。
843.
冷たいと騒ぎながら鶺鴒が居間に入ってきた。「冬の頼りがきたよ」手には大きな板状の氷。厚みは五センチぐらいある。氷の中には雨蛙と満開の桜が一枝、蝉と真っ白なふわもこしたもの、紅葉が一葉とイワシが一匹凍りついている。「この白いの何?」「入道雲でしょ。夏だから」
844.
ペットショップの前を通りかかった隼は、違和感を覚えて立ち止まった。愛らしい子犬と子猫が遊んでいたり眠りこけていたりする中、空のケージがひとつ。買われたのだろうか。毛布や壁が薄汚れている。ふと餌皿を見るとてらてらした肉の塊が、食い千切られたように突然半分になった。
845.
風呂場から隼の悲鳴が轟いた。飛んでいくと、湯船から顔だけだしたホオジロザメが隼の腕を甘噛みしていた。なにしろホオジロザメだ、甘噛みでなければ隼は死んでいる。鶺鴒が鼻先を撫でると鮫はぱちんと弾けて消えた。「なんだったんだよ…」「鮫って、求愛するとき噛むんだって。」
846.
うたた寝していた隼が魘され始めた。見ると、頭を小鬼が齧っている。二匹も。すると獏が現れて、小鬼は慌てて逃げ出した。小さな一匹が転ぶ。獏が大口開けて襲いかかると、一番おおきな小鬼が自ら口へ飛び込んだ。満足して消える獏。鶺鴒は泣きじゃくる小鬼に自分の頭を齧らせてやった。
847.
薔薇は猛スピードで自転車を漕いでいた。理由は特にない。するといつのまにか、右隣に腰の曲がった老婆、左隣に無人の車椅子が並走してた。足だけ乗ったスケボー、顔付きの大車輪等どんどん増えてく。道の先、笑顔で手を振る鶺鴒が見えてきた。「お前に賭けてるからなー!」オイコラ。
848.
少しずつ、けれど確実に薄くなっている。家族に看取られ静かに逝った老人は、生前の穏やかさのまま、もう何年も藤の樹の下にいる。ヒトの域を越え、樹と変わらないモノになりつつあるのが鶺鴒には見えている。隣に並ぶ隼が少し淋しげに言う。「おじいちゃんの幽霊、もう見えないな」
849.
体調不良で早退した隼は真昼の公園を通った。幼児と母は帰り、就学児たちがまだ遊びに来ない刻。暖かな光の中に何人もの子どもがいる。服装は季節や時代なにもかもがばらばらで、けれど仲良く遊び喧嘩をし仲直りして遊びだす。この子らのいない公園は人が集まらないのだという。
850.
「隼、宇宙行かないんだね」「お前そのネタ久し振りだな!」「燃え尽きる姿美しかった」「はいはい」仲睦まじい弟妹は、ニュースから画面を切り替えてゲームを始めた。鶺鴒は窓の結露を拭って空を見上げる。降ってくるのは、彼方より来るモノドモ。この星は拒まず招き入れてくれる。




