481~490
481.
土手一面に彼岸花が咲いていた。赤い花がほとんどだが白もある。思わず隼が見惚れていると赤い花の中から鶺鴒が立ち上がった。兄の手はお椀のかたちになっているが隼の目には何も見得ない。「またきっと逢えるよ。違う姿かもしれないけれど」――翌日すべての花が散華していた。
482.
きれいな黄色の小鳥が一羽、枝にとまっている。ペットの小鳥が逃げたのだろうかと、薔薇は鳥を横目に通り過ぎた。翌日黄色の小鳥と緑のインコが枝にとまっていた。日が経つにつれ小鳥が増える。思い立って鳥が止まる木が生えた庭を覗くと、朽ちた鳥籠がひとつ雑草の中に倒れていた。
483.
くしゅん、と小さなくしゃみが部屋の隅っこから聞こえた。家にはソファに並んで座っている三人しかいない。鶺鴒が背もたれにかかっていた毛布を持っていき、何かをそっと包んだ。「急に寒くなったもんね」そっと振り返って見ると、皸だらけの細い足が毛布の中にすっと隠れた。
484.
「TVで見たんだが肉を酒につけておくと柔らかくなって美味くなるらしい」「じゃ酒と人をいっしょに浚ってこよう」頭上から降ってきたとんでもない相談に流石の鶺鴒もぎょっとして「美味い酒なら飲んだ方がいいよ」「確かにな」「今の人間は色々染み込んでるしな」
485.
夜、土手を歩いていたら河童が川の中からタイヤや冷蔵庫や自転車を岸に放り投げていた。唖然として薔薇が見ていると河童は岸に上がって一休みし始めた。土手を駆け下りキュウリを差し出すと喜んでくれた。「ねえ憎いなあとか思わないの?」「人間と一緒にしてもらっちゃ困るよ」
486.
夕暮れが空を染めている。午前の雨で出来た水たまりも紅く色づいていた。水たまりに、幼稚園くらいの子どもが糸を垂らしていた。隼は釣りのごっこ遊びかなと横目に見ながら通り過ぎる。「よく釣れるのう、バカな亡者どもめ」老人のようなしわがれた嘲笑が背後から絡みついてきた。
487.
薔薇はコンビニで肉まんを買った。ほふほふ食べつつ歩いていると、視線を感じる。ひとつめを全部口にいれて振り返ると、電柱の後ろから小鬼が指を咥えて覗いていた。ふたつめを食べ始めると道の向こうに隼が見えた。小鬼がヨダレを垂らしながら兄を見たので、慌ててみっつめを投げた。
488.
神社からうつむいて出てきた女とぶつかった。隼は謝ったが女はぶつぶつ呟き爪を噛みながら歩き去っていった。女優のように美人でスタイルも抜群だったが、血走った目と言動で台無しだ。「夢が叶ったらなんでもあげるって約束したんだから仕方ないよ」隣にいた鶺鴒が哀れむように呟いた。
489.
鶺鴒が泣いている。隼は海を太古の巨大鮫になって泳ぎ回る夢を見ていたのに、いつのまにか霧深い森で迷子になった兄を探していた。いつも惑わされて迷うのは自分で、迎えにきてくれるのが兄なのに。やっと幼い兄を見つけて目が覚めた。兄を覗くと眠りながらはらはら涙を流していた。
490.
夜道で、突然飛び出してきた相手とぶつかった。薔薇は大丈夫ですかと言いかけて絶句した。なにしろ、その人の頭部がふっとんでゴロゴロ転がってったからだ。「キャー!今年新しくした顔がー!」黒マントを靡かせたその人は、転がっていくカボチャを追って走っていった。




