471~480
471.
台風一過のおかげで今夜の月はとてもきれいだ。中秋の名月は見逃したけれど、充分過ぎる。鶺鴒が虫の音を楽しみつつ夜空を見上げていると、頭上から声がした。「いい月夜だ」「人でも取って喰おうか」「それより月の兎から団子ぶんどってこよう」「そうしよう」月の兎がんばれ。
472.
最近商店街のあたりで衣服を切るという悪質なイタズラをする者がいるらしい。怪我人も出ていた。双子が歩いていると悲鳴が上がった。見ればナイフを持った男が腹から血を流してうつ伏している。「切れ味は私の方が上ね」集まる人々と反対方向へ出ていく和装の女性がくすりと笑った。
473.
朝、新聞を取りに行こうと表に出ると、ポストの上に竹ひごでできた虫かごが乗っていた。中にはなにも入っていない。警戒しながら薔薇は郵便物を取るべく近付いた。よく見れば、格子戸が全開になっている。「もうとっくに秋は来てたんだな」二階の窓から覗いていた兄が眠たげに呟いた。
474.
「火の玉出すのやりすぎだと思う?」「見上げられないように気をつけないとな」「透明になったら意味ないよね…」「ちゃんと人間の目に見えるようにしないとお菓子貰えないよ」「仮装しなかった奴はルール違反ねー」藪の奥の熱心な相談の様子に鶺鴒は31日が少し楽しみになった。
475.
歩道橋を登りきったところで腕を引っ張られた。両足が浮き、隼は落ちた―夢だった。しかし隼の全身は汗まみれで落ちる時の内臓の浮くような感覚が残っている。翌日歩道橋を登りきったところで急に兄が「お前が落ちろ」稀に見る怖い顔で言い放った瞬間、隼の腕を掴んでいた手が離れた。
476.
鶺鴒はバスに乗っていた。時刻は逢魔が刻。物の怪をよく見る鶺鴒も、この時間帯の目撃率が一番高い。ふと窓の外を見ると、人の顔に犬の胴体がついた生き物がバスと並走していた。「危ない!」にやけた笑みを鶺鴒に向けて走っていた人面犬は思いきり道路標識のポールに正面衝突した。
477.
薔薇がいつも利用する格安スーパーに、最近酷いクレーマーが来る。怒鳴りつけられる店員のみならず、周りの客たちも彼が来ると鼻白む。最近彼が来ると決まって自動ドアが開かなくなったり、物が彼めがけて崩れるようになった。「お店にも嫌われてるんだね」未だ彼は店に来る。
478.
最近は24時間番組が流れていて、砂嵐を見ることは稀だ。隼は深夜放送の映画の録画予約をし忘れたので、TVをつけた。ザッという耳障りな音がして画面が黒と白と灰色がゴチャゴチャ混ざったものに埋め尽くされた。「あ、見つかっちゃった」甲高い声がして勝手にTVが消えた。
479.
「レンタルビデオ店の袋落ちてませんでしたか?」薔薇が夜道を歩いていると、青白い顔をした黒コートの男性に訊かれた。暫く一緒に探すが見つからない。「どうしても南国の太陽が見たくて借りたんです」男性は諦めて弁償すると肩を落としつつ、お礼を言って蝙蝠に変身し飛んでいった。
480.
「レンタルビデオ店の袋落ちてませんでしたか?」鶺鴒が夜道を歩いていると、半透明の男性が困っていた。どうやって借りたとかは優しくスルーして暫く一緒に探すが見つからない。「最近は刺激に慣れてて王道パターンだと怖がらないんですよ」斬新な脅かし方を研究中だそうだ。やめて。




