表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツイノベ作品集  作者: 黒目ソイソース
44/137

431~440

431.

突然「石焼き芋食べない?」と優しく鶺鴒が微笑んだ。促されて外に出ると風が凍えるほど冷たい。玄関に石焼き芋のお爺さんが立っていた。「今年来れなくなってな。お嬢ちゃんお得意さんだから」新聞紙に包んだほかほかの芋を薔薇が受け取った瞬間、世界は夏に戻っていた。


432.

居間にねじまき式の大きな時計がある。十人中八人が「おじいさんの古時計」を連想しそうな木製の大時計だ。ねじまき式ゆえ定期的に巻かないと止まるはずだが、誰も巻いたことがない。そも、ねじまわしを見た者すらいないのだ。「俺達がいなくなっても動いてんのかなあ」「きっとな」


433.

あさがおの鉢植えを抱えた女の子が庭に立っていた。鶺鴒はしゃがんで視線を合わせた。「みんなでいっしょにいくから、もうおみずやれないの。どうしたらいいかきいたらお兄ちゃんにたのんでみてって。おねがい。あさがおはまだ生きてるから」鉢植えは緑のカーテンの横で花開いている。


434.

カナカナカナカナ…「これなんだっけ?蝉?」「ひぐらしだよ」「涼しいきれいな声だよね」「実際涼しいんだけどね今」「…なんで?」「生きてるひぐらしの声って、けっこう凄まじいんだよ」微笑む兄の背後で、我が家のハンター君影が見えざる筈の眼差しを一心に壁の一隅に注いでいる。


435.

テレビを消したら、真っ黒になった画面に見知らぬ人が映っていた。ぎょっとしてソファを見るが、勿論誰もいない。黒い画面には驚愕している薔薇自身の顔と、とても哀れっぽい表情の見知らぬ人。薔薇はリモコンでテレビをつけた。黒い画面が消える瞬間、見知らぬ人は超笑顔だった。


436.

空が暗くなった。遠くには青空が見えているのに、冷気がさあっと迫ってくる。ゲリラ豪雨とまでは行かずとも通り雨は激しい。薔薇は全力で走るがすぐに追いつかれた。びしょ濡れで玄関に入ると、鶺鴒が靴を脱ぐところだった。降られなかったらしい。「逃げられると追いたくなるからね」


437.

きらっと光るものを見咎めて隼が窓の外を覗くと、庭の池の上を夏空の如く目にしみる金色のトンボが飛んでいた。水面スレスレに近付くトンボ目掛け、水中から柿色のザリガニが鋏を振るう。トンボはひらりと華麗にかわし、飛び去っていった。なんとなく夏はまだ終らないな、と分かった。


438.

鶺鴒はよく赤ちゃんに観察される。鶺鴒と目が合うと停止ボタンを押されたように固まってしまい、微笑みかけても食い入るように凝視する。今も、電車内の赤ちゃんの眼差しは鶺鴒に釘付けだ。しかし暫くすると満足したのか視線をそらし、無人の座席を全く同じ目つきで一心に見始めた。


439.

真夜中、喉が渇いた鶺鴒は台所へ行くことにした。わざと足音を立てるが、今夜は盛り上がっていて話し声が止まない。これ以上音を立てると妹あたりが目を覚ましてしまう。気付かぬフリをして入ろうかとドアの前で悩んでいると、はしゃぎながら出てきた足の生えた湯呑みと目が合った。


440.

金色の月の光が、家路を急ぐ鶺鴒に降り注ぐ。昔は青く見える月のことをそう呼んだのだが、今はひと月に二度目の満月もブルームーンと呼ぶらしい。「ねえいつになったら青い月になるの?」「わかんない。いつだろうね」「わくわくするね」塀の上の二匹の猫に教えるべきなのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ