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ツイノベ作品集  作者: 黒目ソイソース
41/137

401~410

401.

夜道の奥から、黒い大きな犬が歩いてくる。真っ黒で分かり難いが耳は三角で太い尾、犬が苦手な人は後ずさりするだろう大きさだ。薔薇は気にせず真っすぐ進む。すれ違う。「剛毅なお嬢さんだ」ぞっとする程色気のある男声に思わず振り向くと、犬の真っ赤な口がにやりと笑った。


402.

「風船ってさ、ヘリウムガスで飛ぶんだよな?」「え、そうなの?」固まってしまった兄と妹に隼は飛べると答える。「急にどうしたんだよ?」「彼が風船をたくさん拾ったんで飛んでみたいって」「…彼が「何」なのか聞かないけど降りられないから気をつけろって言っとけよ」「分かった」


403.

エアコンが壊れた。炎天下は50度にもなる季節だ。ヤバイ。久々に家にいた父がすぐに車を出した。三人もついていく。家は超暑いからだ。信号は全て青、電気店でも最新型がセール中で、その日の夕方には工事完了。箪笥の影から親指を立てる小さいおっさんに鶺鴒はありがと、と囁いた。


404.

これ見て、と妹が自分の髪を持ち上げる。数本の髪の毛が、一本ずつ玉結びになっているのだ。他にも何本もあるのだという。妹の髪は肩甲骨に届くぐらいの長さで、父に似てサラサラだ。「…奴らか」「なんでもかんでもあいつらのせいにしちゃダメだよ。…今回は当たりだけど」


405.

最初はカラスかと思った。だがよく見るとハトなのだ。爪の先まで真っ黒なハト。目玉も黒い。首をひょこひょこさせながら歩く、あの独特な動きで真っすぐこっちへ来る。ハトだよな。横目に見ながらすれ違い、振り返る。ハトも振り向いて隼を見ていた。ああこれ人間の目だと気付いた。


406.

「便りがないのは良い便り」という。確かにあまり連絡をくれない相手から「こんなに幸せでこんなに元気です」なんて手紙が来たらぎょっとする。でも、やはり便りはいいものだ。「暑中見舞いなんじゃない?」郵便受けの中に鎮座する小さなゆきだるまに凍りつく弟妹に鶺鴒は微笑んだ。


407.

薔薇がクローゼットや箪笥を開けまくっている。「ナルニアにもモンスターシティーにも繋がってない」にまにましながら肩を竦めると部屋に引っ込んだ。「まあ、つい開けたくなるのが人情だよな」言いながらふざけて箪笥に伸ばした隼の手を鶺鴒が止めた。「今、開けない方がいい」


408.

網戸に蝉の幼虫がくっついている。発見してから早十分。蚊に襲われまくりながら更に見守り続ける。背が割れ、薄緑色の翅を持つ真っ白な蝉の成虫が出てきたとき、双子と妹は無言で拳を握った。同時、彼らの背後で頭上で足元で隼たちには聞こえない拍手喝采の大歓声が上がった。


409.

うだるような暑さの中、大きな水たまりを見つけた。最近雨は降っていないし、道路は渇いている。隼がそのまま進んでいくと、さっきまで水たまりのあった場所には何もなくずっと先に移動している。「ああ、逃げ水か」夏の風物詩の一つ、蜃気楼だ。ぱしゃんっときれいな魚が跳ねた。


410.

ゆったり涼しいルームウェアを着た薔薇は畳の上に寝転がった。エアコンはドライ27度だが、スイカとカルピスと扇風機があれば充分涼しい。更に風鈴まで澄んだ音色を奏でているから死角はない。…風鈴は昨日、猫が猫パンチで割ったのだが。お盆だし風鈴の幽霊でいいやと寝返りを打つ。

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