391~400
391.
ここほれにゃんにゃんとばかりに、伊庭が庭を掘っている。脇に立って見ると白い大きなものが埋まっている。30センチぐらい掘ったのに全容が見えないが隼はそれが何かなんとなく分かった。海賊旗とかで×に描かれてるアレだ。だが人間のサイズじゃない。伊庭を抱きあげて埋め戻した。
392.
鶺鴒の運動神経は、普通よりちょっととろい。珍しく隼と薔薇といっしょにバスケットボールをしていたが、自らの膝裏に膝をぶつけ、頭から転んだ。弟妹は死んだのではないかと血の気が引いたが、本人は無傷だ。兄の手が柔らかいマットに触れているように沈んで見えたのは一瞬だった。
393.
庭で花火をすることにした。スーパーで買ってきた大量の花火、悪い隼と薔薇はまとめて火をつけて喜んでいる。鶺鴒は大人しく一本ずつ蝋燭から火を移す。色とりどりの炎が激しく弾けて、周囲の夜が濃さを増す。だから花火をする手がいくつか増えても、誰も気付かない。
394.
げえっふっ、と変な音がして薔薇は振り向いた。あるのは紙ごみなどで中身が少し盛り上がったゴミ箱。音の原因は分からないが、ゴミを纏めておこうとゴミ箱を手に取り、透明の袋に中身をあけた。ゴミ箱を所定の位置に戻して部屋を出た。きゅうぎゅるるる。悲痛な音が無人の部屋に響く。
395.
鶺鴒は言う。予知能力は持ってない、と。「じゃあたまにいう予知っぽいのはなんなの?」兄はいつもどおりの困ってるのか微笑んでるのか曖昧な顔をしながら「壊れかけてるモノって見れば分かるだろ?」翌日近所の道路が地下空洞に崩落、できたばかりのコンビニが巻きこまれた。
396.
家の電話が鳴っている。真っ暗闇の中で隼は目を覚ました。まだ焦点のあわない目を彷徨わせ、自分が居間のソファで寝てしまったことに気付く。起き上がりかけると誰かが電話を取った。「何がメリーさんだ!うちの子たちは寝てるの!」ガチャンと電話を切ったのは妹のぬいぐるみだった。
397.
サラリーマンふうの男性が「許してくださいごめんなさい」泣きわめきながら土下座していた。道行く人たちは異様なその姿に、恐怖すら浮かべて通り過ぎていく。薔薇も正直怖かったが鶺鴒が平然と歩いていくので隠れてついていった。「あの人許して貰えるの?」「許されない罪もあるよ」
398.
頭に矢が刺さった落ち武者がいる。矢は体にも何本か刺さっている。よろめく彼が乗っているのは自転車。ジョギングコースになっている森林公園の中を、よろよろと血を滴らせながら走っている。流石の鶺鴒も戸惑ったが大事なことに気づいて武者に駆け寄った。「ここ自転車侵入禁止だよ」
399.
気になってることがある、と珍しく暗い顔で薔薇がいうので隼は妹についていった。父親の寝室。滅多に帰らない彼の部屋には灯台と海と砂浜の絵。「ここに人なんていなかったよね?」妹の指差す灯台に小さな人影。隼はいたかどうか覚えがない。「鶺鴒には怖くて聞けない」正論だ。
400.
「折角守ったのに、守った場所で幸せになれないなんて、なんか寂しい…」超大作ファンタジーのDVDを見ていた妹が呟く。珍しくウェットなことを言うので鶺鴒は思わず薔薇を見た。「てか単純にさよならが寂しい」「それで良いんだよ。いつか必ず、永遠に別れる。寂しくていいんだよ」




