15話
帝国はこの大陸のど真ん中に位置している。
元々の周辺国は皇族達が支配している領地がそうであり、その仲は良好であった。
しかし、帝国には何も無かった。人口だけはいっちょ前にあったが、その土地は痩せており全人口分の食糧を賄うことを出来なかった。
祖のため、周辺国から食糧を買っていたのだ。そして、帝国は産業と呼べる物が無いので人を輸出していた。奴隷では無い。帝国が管理し責任を持った人的資源を輸出していた。
例えば何処かの国が大規模な河川工事を行いたいと考える。そこで、帝国はその国に対して帝国国民から公募した人間を出す。
また現在の虫狩組合は帝国が発祥と言われ、帝国に登録した帝国国民が諸外国に向かい、バグを狩る傭兵団として戦う。そして、その報酬は国の管理下にあるギルドから払われるのだ。こうして、帝国は予期せぬ軍備と建設技術等を手に入れていった。
その後、帝国はプレイヤー達を自身の管理下に置くと対外政策に乗り出して各国を併合していった。
「だから帝国はロスタークにお前等を派遣した」
「ええ、まさかこんな事になるとは……」
マーリンは首を振る。それからシマダを見据えた。
「どうぞ、あの子を救って下さい。
あの子は特に次世代の帝宮魔術師を担う才覚を持っています。どうぞ、助けて下さい」
マーリンが深々と頭を下げるが、シマダは頷こうとしない。
シマダはセラスを見た。セラスはまるで他人事の様に話を聞いていたので、シマダはヤレヤレと首を振る。
「そうか、大変そうだな。
俺ちゃん達は今からロスタークを滅ぼしに行くから、途中までは乗せてってやるよ。到着次第、お前はその弟子だか何だかを助けろ。
俺ちゃんはロスタークを滅ぼしてくるから」
シマダはにっかり笑うと、セラスになー?と告げた。セラスは助けないのか?と尋ねるとシマダは何で?と尋ねた。シマダは肩を竦めて俺の受けてる命令はロスタークの殲滅であり帝宮魔術師の救出じゃねぇもんと笑う。
「じゃ、じゃあ!私がその魔術師を助けろって言えば……」
「俺に命令を出来るのはセラスだけだ」
「成る程、私は貴方では無くセラス様に頼むべき処だったのですね、はい。
セラス様、どうぞ助けて下さい。あの子は帝国にとっても宝になります。どうぞ……」
マーリンはセラスに頭を下げる。セラスはマーリンの顔を掴むと自分と目を合わせた。マーリンは最初驚いた顔をしたが、直ぐにセラスと目を合わせた。
暫く二人を見つめ合ってからセラスはマーリンの顔を離す。
「良いわ!
シマダ!さっきの命令は撤回よ!マーリンの弟子を助けに行くわ!」
セラスはそう宣言すると、真っ直ぐGO!と前方を指差した。
シマダ達は一旦セラスの家に戻りロスタークに行く事を告げる。すると、屋敷は俄に騒がしくなった。セラス付きの近衛騎士団は一時間で準備が出来ると報告をするので、シマダは鼻糞を穿りながら先行ってるから現地で会おうとセラスを置いて74式戦車に乗り込もうとした。
それに怒ったのは勿論セラスだ。
「私も連れていきなさいよ!」
シマダは74式戦車に攀じ登ろうとするとサトウがそれを掴んで、下ろす。
「お前まで来たら騎士団は誰が指揮すんだよ?
俺ちゃん達はマーリンの弟子を助けに行くから。お前は騎士団と一緒に来て、その間にどうやってロスターク攻めるか考えておけ。わかんなかったら騎士団長に聞け。俺ちゃんがお前に合流した時に直ぐに合流出来る様に確り作戦考えろ。良いな?」
シマダはセラスの頭をポンポンと撫でると腰の弾帯を外してセラスの首から掛け、ニカリと笑う。
「指揮官の証な。
叛逆する奴はそれで殺せ」
シマダはまた会おうと74式戦車に乗り込んで出発してしまった。セラスはシマダに預かった弾帯を腰に巻こうとし、ブカブカなので叶わなかった。
脇に居た近衛騎士に弾帯を調整させるが、余りに腰回りが短いので弾納やホルスターを外し、再度付け直した。
「さぁ!作戦会議よ!騎士団長を呼びなさい!」
セラスはずり下がる弾帯を手で押さえつつ家に戻った。
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ロスターク重工連合国は複数の族村が寄り集まってできた国だ。その名の通りこの国は重工業、正確に言えば鉄鋼業に精通しているが、全ては異世界より来たプレイヤーと彼等が乗っていた装甲車両、航空機により発展して来た。
最も、エンジンを開発しようにもその精密過ぎる作りから粗悪品すら出来ず、装甲板はその強度から切断すら敵わぬ状況だ。故に唯一再現出来た劣化版の火器や爆弾の製造、また、またまだ主力武器たる剣刀、槍、鏃に防具を生産し全国に販売しているのだ。
連合国の周りには天然の城塞たるロスターク大連山と呼ばれるエベレストかくやと言う山々が囲み、連合国への道は限られてくる。
そして、その道にも堅固な砦が築かれており大砲や戦車壕、機関銃陣地等が設置されている。
ロスタークはその立地から農業は絶望的であり、食糧は全て国外から輸入している。この反逆の為に、ロスタークは長年食料を配給制にし国民全体に非常に厳しい生活を敷いてきた。
唯一の救いはロスタークの名物に温泉と活火山があり、極寒の地でもロスタークには凍死者が出た事はない。
国の中にはどこに行っても無料で入れる年中無休の温泉がある。
「国王達。もう後には引けなくなりましたよ」
そして、ロスタークの王城。最も堅固な要塞に彼女達は居た。
彼女の名前はアナスタシア。T-64Aを乗り回すプレイヤーでシマダが来るまでは世界最強クラスの戦車を乗り回す一人であった。
「今更臆すことは無い」
「この叛逆は先王、先々王より計画されていた物、意志だ」
「我が国は帝国の言いなりに成る程落ちぶれてはいない」
「かの失地王が居なければ帝国なぞ敵ではなかったのだ」
ロスタークの四王達はアナスタシアの言葉に何の恐れも抱いた様子はなかった。
アナスタシアは彼等の台詞に頷くだけで自分の意見は出さなかった。敵は強大だ。
「私は何時でも出れる様に準備しておくわね」
アナスタシアは四王達に一礼をすると部屋を後にした。
そして、そのままロスタークに側に付いた戦闘車輌や航空機のパイロット達のもとに。
彼等が娯楽室として与えられた部屋に入る。部屋には戦車から持って来た無線機を幾つか置いて、あらゆる西暦月日を入れて無線電波を盗聴しようとしたり、実際に戦闘が始まったらどう戦えるかを議論していた。
「アナスタシア!
王様達の様子は?」
一人のプレイヤーが話しかけて来た。この世界には珍しい女性プレイヤーである。
「負ける気は無いわね」
「やっぱり……」
女性プレイヤーは溜息を吐くと首を振った。
「あんた達馬鹿なの?
帝国は交渉なんてしないわよ。私一人の命なんか何とも思ってないわ」
そして、一人の少女と呼ぶに相応しい年齢の魔術師が叫ぶ。
彼女は帝国から派遣された帝宮魔術師であり、操虫術師のヨハンナだ。
「この戦いは勝てはしないが負けはしない。
此方には自走砲もあれば対空戦車も居る。それに護るにしてもこの要塞だ。飯に関しても俺達の戦車から非常食セットを出せば戦えるぜ?」
ヨハンナの言葉にプレイヤー達は笑った。
「それで配置についてだが、中央はアナスタシアとエリザベス。エドモンズ達の自走砲部隊だ。
MBTはアナとエリー二人だけだが大丈夫か?」
計画に関してはゲーム歴が長いプレイヤーと軍人だったプレイヤー達が中心となって立てており、アナスタシアはそれに従うだけだ。
「ええ。
対戦車が多いし、それにエリーはチーフテンよ?それに私のT-64はナナヨンが来るまではチーフテンと同じ世界最強クラスだったわ。
M60や件のナナヨン相手でも負ける気はしないわ」
アナスタシアは肩を竦めるとヨハンナの隣に座った。
ヨハンナは敵意むき出しでアナスタシアを睨む。
「そう邪険にしないでよ。
機会を見て貴女は逃してあげるわ」
アナスタシアの言葉にヨハンナはフンと鼻で笑う。
「帝国から独立出来ると本気で思ってる訳?」
「出来るとも」
アナスタシアは笑顔を浮かべた。
「敵は易くはない。だが、一度刃を交えれば敵も我々の本気さを知るだろう」
「馬鹿ね。大馬鹿ね。
帝国に一度でも反逆すればこの国の王族は勿論側近に至るすべてが晒し首、加担した国民は階級関係なく殺害されるわ」
「なら、この国は誰一人として居なくなるわね」
そこにティーセットを持って来た先程の女性プレイヤー、エリザベスがやって来る。その声はヨハンナの言葉を信じていない。ヨハンナは頭を振った。
今世紀最大の大虐殺が起こるのは間違い無いだろう。
皇帝の方針は君臨すれども統治せず。叛逆さえ起こさなければその国の内部でどの様な統治をしても許される。例え反帝国主義の教育を行い、反乱の準備をしても実際に行動を移さなければ何も言わない。
だからこそここ迄準備が出来たのだ。
一度、叛逆した国はこの世に歴史を残さない。その国の国民全てが根絶やしにされるのだ。帝国が世界を統治して早数百年は過ぎ、その間にいく数もの国が消えていった。
それ程までに強大故にロスタークもまた数十年と食料を貯蔵し、要塞を築き、武器を作った。そして何より、プレイヤー達の“退屈”を突いて戦いに駆り出させたのだ。
来るなら来やがれ、そう誰もが思っていた。
最も彼等が想像するより早く、そして、予想外の人間が彼等の前に現れるのはそれから数日後の事だった。
戦車戦はもうちょっと先だ
T-64とチーフテンは出した
頑張れ74式戦車!




