とある鴉の行末と少女の行末(男視点)
「それじゃあ、フィナーレを始めよう」
人魚はそう言って再び海の方を見ました。海は穏やかにさざ波を打ち、カモメは声を上げて飛んでいる光景に思わず笑うと、王女が近づいてきました。それに気付いた人魚は、王女を見れば、王女はどこか険しい顔つきで人魚を見ていました。
「死ぬ気?」
諭すように言う王女に、人魚は堪え切れず笑い声を零しました。しかし、なんとか自分を落ち着かせた人魚は、笑いで出てきた涙を拭った。
「……ああ、勿論さ。
そうじゃなきゃ、”この物語”は終らない。
君も知っているだろう?」
「ええ、アンデルセンの童話”人魚姫”。
外に憧れを抱く人魚が、偶然にも王子を助け、恋をするも結ばれず、唯一の術である短剣で王子を刺そうにも刺せず、彼の幸福を祈って死を選ぶ物語」
「お見事。
そう、あの話は代表的な悲恋物語さ」
「だけど、パロディでなら幸せな終り方はあるわよ?」
「でも、君は俺と結婚なんて真っ平だろう?」
そう言いきりカラカラと笑い出す人魚に、王女は目を丸くし驚くも、すぐに目を固く閉じました。そして、先ほどの人魚と同じように海の方を見れば、穏やかな海の情景が飛び込み、遠くなっていくヒュースマン王国を見つめながら、徐に口を開きました。
「……確かに結婚は嫌だけど、少しは見直したのよ」
「え?」
「惚れてはいないけどね」
そう言い、王女は人魚の手を取りました。人魚は突然の事に目を白黒させる中、王女は無言で人魚の手を引き、甲板へ躍り出ました。
「どうしたんだい?」
人魚が王女の行動に不思議がり、意を決して話しかけた。すると、王女は真っ直ぐ柵の方まで行くと、そこでやっと人魚の方を見ました。
「わたし、嫌いなのよね。
フェアじゃないの」
「フェアじゃないって……」
王女の言葉に、人魚はどこか呆れながら見つめました。しかし、王女はそんな人魚の眼差しに何も言う事なくただ真っ直ぐに人魚を見つめ返すので、人魚も茶化す事を止めました。王女は続けます。
「そもそも、この物語って、個人的に好きじゃないの」
「どうして?」
「人魚の寛容さが見てて腹立たしいから。
あの姿を見て、自分が如何に醜いかよく分かる」
「……前から思ってたけど、君って少し年相応じゃないよね」
皮肉っぽく人魚が言うも、それさえも予想していたのか王女は涼しい顔で受け止め、さらには冷たくあしらいました。
「否定しないわ、よく言われる」
「それで?
フェアじゃないから、”君”はどうする?」
そう尋ねれば、王女はようやく待ちに待ったかのように不敵な笑みを浮かべながら、人魚に手を差し伸べて言いました。
「一緒に死んであげる」
その姿があまりにも凛々しく、あまりにも大人びており、そして何より覚悟の決まった目を見てしまい、人魚は思わず息を飲んで見つめていました。しかし、王女の言葉を徐々に飲みこんだ人魚は伸ばされた手をそっと握りかえすと、泣きそうな顔で王女を見つめました。
「いい殺し文句だ」
精一杯の虚勢を張り、返すも王女は鼻で笑い飛ばされて終りました。
――船の汽笛が大きく鳴り響く中、大きな水音が鳴りました。しかし、あまりにも大きな汽笛の音により船に居る乗客たちは誰もその音に気付く事などありませんでした。
王女は沈む海の中、水底から見える太陽の光を見て、”人魚姫”の気持ちがなんとなく分かったようです。
(……確かに、こんな綺麗な光景を見れば、外に憧れを抱くのも無理からぬ話…………かな)
ゴポゴポと空気の泡が海上を目指して昇る中、王女はそれを静かに見守りながら目を閉じるのでした。




