とある鴉の努力(男視点)
「お久しぶりです。
また、会えましたね」
そう笑い現れたのは人魚でした。人魚は優しい笑みを浮かべながら王女に近づいていきます。王女もまた笑顔で返すも、どこか暗いもので人魚は不思議に思いました。
「……そう、ですね」
弾まない口調に人魚は困ったような顔を浮かべました。
「どうかしましたか?」
「いえ、特には」
「顔が青い、どこか体調でも?」
「いいえ、ただ船が嫌いなだけです。
それに海も」
王女の言葉に、人魚は目を丸くするも数日前の会話を思い出し「ああ」と声を漏らし納得しました。そしてどこかおかしそうに笑いながら、人魚は王女を見て言葉をかけます。
「一緒ですね」
「え?」
人魚の言葉に、王女は驚きました。思わず顔を上げ、王女は人魚に聞き返しました。すると人魚は海を見つめながら、何事も無く言います。
「実は俺も、海は苦手なんです。
……同じ青でも、空の方がよっぽど綺麗に見える」
そう言い、人魚は海から空を見上げました。空は晴れ渡り雲一つない澄み切った青空でした。海と一つ違うとすれば、輝く太陽が煌々と照らすぐらいでした。やがて首がつかれたのか、それとも太陽で目がやられたのか、人魚は空を見つめるのを止めて、再び王女の方を向きました。
「そういえば、今日はお土産があるんです」
「お土産ですか?」
「はい、探すのに苦労しましたよ。
なにせ”天敵”をとなると、気苦労がね」
「それは、どういう……?」
「見れば分かりますよ。
きっと、君なら直ぐに分かる」
人魚はそう言って手に持っていた革鞄の中からなにかを取り出しました。しかし、王女からは人魚の背中しか見えない為になにが入っているのか見当もつきませんでした。それになにより、人魚の言葉が理解出来なかったからです。
「あの……、私あの時も言いましたけど、記憶が」
意を決して言えば、人魚は首だけ動かし王女を見ました。そして苦笑を小さく零すと「大丈夫」と言い、なにかを抱えて王女の方を向きました。見ればそこにはニーニーと可愛らしく鳴く二匹の子猫の姿でした。
「猫?」
「そう、スコティッシュフォールド二匹さ」
「……スコティッシュ」
「ちなみに、ブルー色の猫は”まんじゅう”って名前だ」
人魚は「ほら」と続け、半ば無理矢理と王女に押し付けるような形で二匹の子猫を手渡しました。するとどうでしょう。王女は手慣れた手つきで二匹の子猫を受け取り、繁々と見つめるではないですか。そして王女は、人魚の言った名前を往復するように口ずさみました。
「”まんじゅう”」
王女がそう呼ぶと、ブルー色をした子猫は鳴きます。まるで自分だと主張しているかのようでした。すると隣に居るオレンジ色の子猫は何も言いません。その様子に、王女は困る中でひとつの名前が浮かびあがりました。
「……”だんご”?」
そう呼べば、オレンジ色の子猫も嬉しそうに鳴き出しました。その光景に、王女はハッとして人魚を見ました。人魚はどこか余裕のある笑みを浮かべながら、しかしやや青い顔をしながら王女を見ていました。
「感謝しろよ、俺に」
鼻を高く鳴らし、そう言いきる人魚に王女は今まで見せた事の無い呆れた顔で人魚を見つめ口を開きました。
「そのようね」
まったく、と零しながら二匹の子猫に笑いかける姿を見て、人魚は笑いました。それに気付いた王女もまた、どこか疲れた笑みを浮かべ笑い合いました。




