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大鴉の恩返しは傍迷惑  作者: noll
紅茶編
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ハートの女王


 さて、一体全体どうしてこうなってしまったのか。事の発端は全てあの戯言を言った男が切っ掛けであろう。なぜわたしが男を賭けて三月ウサギの女と対立せねばらないのか。意味が分からない。全くもって。

 しかし、こうなってしまった最大の理由は、轟々と燃え盛る劫火に並々と油を注ぎにやって来た、来訪者のせいであろう。その来訪者こそ、今まさにわたしの隣で、ニコニコと絶え間なく笑顔を浮かべ現状をあざ笑う狸のような老人、寝ぼけ爺さんであった。しかし寝ぼけ爺さんの格好は年齢には似つかわしくないほどファンタジックなものであった。赤を基調とした黒と金の装飾、そして頭上には王冠が堂々と乗っていた。見れば見るほど気持ち悪い光景であった。まあ老人だからと言って地味な色を選べとかそういう事を言いたい訳ではない。けれど、ものには限度というか制限というか限りがある。それになにより、寝ぼけ爺さんの格好は本来の性質とは異なっていた。思わずわたしは視線を下へと向ける。本来ならば寝ぼけ爺さんはズボンを履くところを、どう見てもスカートを履いていた。というかドレスを着ていた。それもヒラヒラの。

 寝ぼけ爺さんも何かしらの役に当て嵌められていると分かっているのだが、なぜこうも知人のドレス姿(しかも男の)を見なくてはいけないのであろうかと頭を悩ませられた。心の中でさめざめと泣きながら、わたしはニコニコと笑う寝ぼけ爺さんを見て深い溜息を吐いた。

 ……全ては数分前に遡る。あの男の口からふざけた戯言が飛び出て驚愕する女を尻目に、わたしは男を睨みつけていた時。聞き覚えのある声が聞こえてきたのが始まりであった。


「おやおや、何やら面白い話をしているのぅ」


 ホケホケと呑気な声で現れたのがそう、寝ぼけ爺さんである。しかも赤と黒の配色のドレス姿で登場され、わたしは絶句した。脳裏に過る役名が飛び出てきた。『ハートの女王』ドレスを着てしまいには赤という配色ならば与えられた役はそれしか思いつかないであろう。あくまで憶測であるが外れでないと思う。しかし、やはり原作アリスの中にこのような場面などある筈も無い。ああ、いったいどうしてこうなるのであろうか。訳が分からない。そう思い意味も無く頭を振っていると、寝ぼけ爺さんが屈託の無い笑みでわたし達を見つめていた。誰もが突如現れた人物に目を丸くする中、寝ぼけ爺さんはお構い無しに話し始める。


「若いと云うものは良いものじゃ」


 そう言い、またホケホケと笑う始末。けれど、ふいに寝ぼけ爺さんが目線を寄越した先は、あの三月ウサギの女であった。爺さんは笑みを深くして女に問いかけた。


「…………しかし、そちらのお穣さんは、どうやら納得していないご様子じゃな」


「あ、当り前ですわ!!」


 寝ぼけ爺さんの言葉に賛同すように、女が力強く頷く。それを見届け、静かに頷くと、今度はわたしの方へ視線を寄越し笑みを浮かべた。


「そして、その子も」


「当然」


 一秒も無く即座に言いきる。すると寝ぼけ爺さんは何も言わずニコニコと笑いうんうんと何度も頷く。そして、女とわたしの意見を聞き、寝ぼけ爺さんがとった行動は、歩行杖のように使っていたハート模様の柄が異様に長い杖を強く地面に叩きつけることだった。これにより御茶会だった会場が、まるで粒子のように崩れていく。漆黒に包まれ、支えも無くしたわたし達は当てもなく宙へ投げ出された。あまりの出来事に目を白黒させていると、寝ぼけ爺さんが一人。重力に抗うようにしてわたしに近づき、手を取った。わたしを筆頭に、また女の側により、女の手と取る。間抜け面をする女と呆気にとられるわたしをそれぞれ交互に見比べながら、寝ぼけ爺さんはどこか意地の悪い笑みを浮かべた。


「ならば、双方の意見を取り入れて、一つ”ゲームをする”というのはどうかのぅ?」


 言いきると同時に、寝ぼけ爺さんの手が離れわたしと女は再び宙に投げ出された。しかし、思わず目を瞑れば最後、目を開ければ、そこはトランプ模様で彩られたお城をバックに広がる大きな庭であった。


「さあ、ゲームを始めようかのぅ?」


 寝ぼけ爺さんはどこか嬉しそうに言い放った。対するわたしは頭痛がするほどの痛みが襲ってきた。


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