憂鬱な御茶会
徐に喋り出したのは三月ウサギ。その目の先には帽子屋の男。二人は目でなにかを訴えていたが、やがて三月ウサギである女が痺れを切らし口を開いたのが始まりだった。
「……それよりも帽子屋さん、”ようやく”お会いする事が出来ましたわね。
この私、三月ウサギはとても嬉しく思います」
上品そうに笑いを手で隠す姿はこの茶会にはどこか不自然であった。違和感を感じるものの、わたしに入る隙間など一切ないので静かに見守るだけだ。そもそも関係ない。
しかし、男の場合は話が違うようで、カラカラと笑うもののその表情は険しいものだった。
「何を言っているんだ、三月。
俺たちは御茶会をずっとやっているじゃないか。
”ようやく”という言葉には語弊がある」
「いいえ、語弊だなんてそんな事はありません。
それが”事実”ですわ」
「なにを言っているのか、俺には」
「ならば単刀直入に仰いますわ」
女の鋭い声に、男のようすが一変した。型にはまらないふざけた帽子屋を演じていた男がいつもの調子に戻っていく。目が静かに細まり、女を睨みつける。口元を歪め、飛び出す言葉はどうみても男の本音であり、本性であった。
「てめぇ」
「あら、役はどうなさったんですか帽子屋さん」
そのようすに、女がクスクスと嘲笑う。その姿に、男はますます苛立ちを募らせた。イライラとし始めたのか、机の上に置かれた手の指がトントンと小刻みに音を出す。
「そのフザケタ演技を今すぐ辞めろ」
「あらあら、演技も何も”コレ”が私ですわ」
女はそれきり口を閉ざし、冷めてしまった紅茶に口をつけた。男は耐えるように肩を震えつつも、やや荒っぽく紅茶を呷るだけだった。ギスギスとした嫌な空気が立ち込める。そのあまりにも殺伐とした空気に溜息をつくわたし。居心地が悪過ぎて、逃げられる事なら今すぐにでも逃げ出したい気分。しかし、並々と注がれた紅茶に映し出されたアリスの光景に目を放す事が出来ない。ならば必然的にこの茶会には残る選択しか残されていないのである。
憂鬱だ。それに加えて不運だ。そう心で悪態を吐く中、口を閉ざしていた女が再び話し始めたのである。




