痛み
目が痛い。胸も痛い。頭も痛ければ耳も痛い。目がしらに熱い何かが込み上げてくるがグッと堪え、わたしは流れるように杖を振るう母の姿を見ては気持ち悪くなった。見てくれは良いのだが良い年した大人が魔法使いを演じては魔法をかける姿など見たく無かった。それに何より、公私混同している。まあ確かに修羅場を見たく無いと言っていた身であるために、母の言い分は良く分かる。申し分ない。しかしだ。しかし理不尽すぎる。流石のわたしでも父が哀れになってくる。まさに踏んだり蹴ったり。目も当てられないとはまさにこの事ではないだろうか。それに母よ、わたしの心配する声は嬉しいが、肝心の娘であるわたしは父が野球拳もどきの脱衣ゲームの一部始終を見てしまった。これを知ったら父も母もおしまいであろう。知らないのが人の為世の為。なにより我が家庭の為である。
……さて、母の魔法のお陰かやっと肌色が少なくなった父。しかし男がドレスを着るだなんて不気味な上に気色が悪い。魔法をかけた母でさえもしかめっ面を見せる始末。それに父も苦笑いだ。というか半分涙目だ。けれど、恐れていた危機はなんとか脱したように見える。これには一安心だ。しかし、またしても母の顔色が悪い。影のつき方であそこまで怖く見えるのだから人は怖い。なにより女は執念深いと聞く。ならば女の意地がきっと母にはあるのであろう。頑張れ母。わたしは応援している。心でひっそりとエールを送りながら、わたしは二人の行く末を見守る。




