灰かぶり
……何が嬉しく楽しくて自分の父親が主役でドレスのヒラヒラを靡かせて野球拳に似た脱衣ゲームをやっている男の惨めな姿を見なくてはいけないのだ。しかもよりによって作品のチョイスが「灰かぶり」かよ。灰かぶりってつまりこき使われていた娘が魔法使いの手により結婚を勝ち取るという王道ハッピーエンドだ、もう落ちも分かったので帰りたい。帰らせてくれ。頼む。
わたしは両手で目の前の光景から逃げようと必死に抵抗した。しかし肝心な耳が無防備だった為に内容が筒抜けでその内容によりさらにわたしの心は深く傷を負った。一体わたしが何をしたのだろうか! 何もしていないだろう!!
もはや腕を上げるだけの気力も活力も湧かず、わたしは両腕をブランッと遊ばせ、呆然と目の前の光景を見つめていた。その目は他から見たら死んだ魚のように見えるだろう。光が無い。
「死にたい」
何の感情も無く、そうポツリと呟けば隣ではまるで団子虫のように丸くなり、さめざめと泣く姿の鴉男が居た。あまりにも情けなく、むしろ見ていて悲しくなってきた。なんだか冷静になってくる。静かに男の哀れで惨めな姿を一瞥していると男は何の合図も無くガバッとわたしの腰に抱きついた。いきなりの出来ごとに目を白黒させるも、すぐに両腕に力を入れて引きはがそうと試みる。しかしやはり男と女。それに大人と子供の力では差が大き過ぎる。梃子でも離れない男に呆れ、わたしは抵抗を止めることにした。疲れることを長続きさせるなど愚の骨頂だろう。馬鹿の所業だ。諦めが肝心だ。そう、諦めよう。目の前の光景が最悪な絵図であろうと。
「「死にたい」」
二度目の発言は何故か男と被ってしまう。それが何だか無性に悲しくなり、わたしは目の前の光景をただ見ている事しか出来なかった。




