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大鴉の恩返しは傍迷惑  作者: noll
日常編
11/84

呼び鈴


 こう言っては何だが、小難しい話は好きではない。わくわくもドキドキもないこの作品。ケチをつけるなど愚の骨頂と言われるだろうが、致し方が無いだろう。わたしはまだ子供だ。子供に難しい論文など説いても分からないのと一緒だ。才女であろうと年中通して小難しい話を聞きたくは無いだろう。知らないが。

 あれから読み進めているうちに母が何食わぬ顔で帰ってきた。そして素早くそして美味い昼食を食べ、父が帰るまで本を読み風呂へと入る。そして父が帰ってくれば夕食になり本を読む。そして歯を磨いて寝に入れば次の日の朝へと変貌を遂げる。そもそも話す話題など無いのにわざわざ作るなどアホの極み。わたしは面倒なので一切やらない。だが母がスーパーでの笑い話を出し家族の団欒を演出したが笑ったのは父であった。私はほとんど聞き流してしまったので、うすら笑いを浮かべるだけである。酷い子供だと思うだろうが、これが我が家である。

 さて、朝日が眩しく美しい翌日。わたしは大きく伸びをして朝食を食べる。うん、今日は珍しくご飯である。美味い。なんと美味しい物だろうか。白飯万歳。


「……そういえば、春休みっていつまで?」


 母が思い出したかのようにわたしに尋ねてきた。わたしはご飯をガツガツ口に放り込んでいた為に直ぐには答えられなかった。慌てて牛乳で流し込み口を綺麗にすると母とカレンダーを交互に見た。


「確か……、4月2日まで」


「そう。

そしたら今度は中学生ね」


 わたしの返答に母は嬉しそうにそう返す。しかしわたしの顔は不満だらけだった。ああそうである。始まるのである。あの忌まわしい学業とかいう意味不明な連帯行動。個人の意見を尊重するならば学校など行きたくないという子供の意見も一つは取り入れて欲しい。いっそ登校拒否をやりたい。けれど時たま学校では話の分かる奴もいるのでそう無礙にも出来ない。難しいところだ。本当に難しい。好きな科目とか人を選んで授業したい。というか本を読んでいたい。最悪、国語の時間だけ設けてくれればいいや。それ以外はいらない。論外だ。

 そんな話をしながら母と父は二人揃って「お前もとうとう中学生か」とまるで年金生活をして暮らす爺婆のような発言をし始める。きっと両親の頭の中ではヨチヨチ歩きのわたしから今のわたしになるまでの過程が流れているのであろう。出演料取りたいところである。

 そしていつものように母も父も出かけ静かになったところ聞こえたのは一つのチャイム音である。


《ピンポーン》


 ……嫌な予感がしてならない。もの凄く関り合いたくない。よし、此処は無視を決め込もうではないか! そう誓いを胸にわたしは再び本へと向かう。


《ピンポーン》


 再び聞こえてくる合図音。本に皺が寄る。


《ピンポーンピンポーン》


 なんだか脳裏に定番のホラー映画の演出を思い出す。こういう展開の絵図はよく本でもテレビでも見る。わたしは溜息を零してリビングを出た。温かなリビングとは違う冷たい空気がわたしを襲う。目の先には玄関である。しかし目を凝らして見ると、玄関の曇りガラスにはあの黒い物体はどこにも無かった。きっと諦めて帰ったのであろう。ホッとする。


《ピンポーン》


 ……え? そこでわたしは目を見張った。思わず呼び鈴がある場所を見つめる。するとどうだろうか。なんだか黒い影がユラユラと揺れている。わたしは瞬時に悟った。

(奴だ、奴が来た!)それと同時に本当にあの男が本当に鴉だということが分かった。しかしどうすれば良いだろうか。また面倒な演説を聞き、最後には猫を見て逃げる。永遠に続きそうな悪循環。悪夢である。こうなれば腹を括って会って話すぐらいの優しい気持ちで迎えればいいのだろうか。もうなんだか分からなくなってきた。


《ピンピンピンピンポーン》


 段々と向こうも苛立ってきたのか呼び鈴を連打し始める始末である。ああ本当に面倒くさい。しかししょうがない。自分が招いた種が勢いよく成長してしまったせいだ、責任はわたしにもある。わたしは溜息と思い足をなんとか引き摺りながら玄関へと向かう。そして手を伸ばして開ければ耳元で小五月蠅く鳴く鴉の鳴き声が聞こえた。

 ……ああ本当にあの時のわたしは愚かものであった。


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