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大男目線


おかしい

昼前はまだ魔物がいたのに急にいなくなりやがった


俺はここら辺いったいを狩場として長年住んでいたが

こんなにも静かな日は今まであったことがねぇ


「日が落ちる前には山を下りようと思ったけどなぁ」


換金用の魔物の素材もある程度たまって最後のひと踏ん張りのつもりだったんだが

こんなことならさっさと山をおりるべきだった

朝はいつもと同じように

少し歩けばなにかしらの魔物や動物の気配を感じるのに

今は小動物一匹の気配も感じることができない

最初は珍しいなと思うだけだったがここまで来るとおかしい


魔物がいない、一見喜ばしいことに見えるが

普段のこの森を知ってる身からすればこの静かさがなにより恐ろしい

魔物や野生動物は知性が発達していない代わりに野生の感が働く

これがなにか悪いことを察知して逃げだしたということになれば

俺もいつまでもこの山にいるわけにはいかない


「どっちみち今から降りるのは明日だな」


このまま山を下りればなんとか夜になる前に

ふもとの集落にはつくが素材も貴重品もなにも持っていない

今から家に戻ったとしても荷物やらなにもまとめていない

こんなことなら昨日のうちに荷物を準備しておけばよかった

日頃のだらしなさがこんなことになろうとは恨めしい


「しゃーねえな、さっさと家に帰ろう」


魔物がいなくなった原因を知りたくてこの時間まで粘ったが

日が暮れてきたからそれもここまでだ

ここで判断を誤って死んでしまったら元も子もない


俺は愛用の斧に手をかけて警戒を解かないまま家に向かった




(子供がいる…)


最初に気が付いたのは甘い匂いだ

この森にも果物が生ることは生るが

せいぜい木苺やベリーみたいな小粒なのが主だ

しかし今香ってきたのはそういった果物とは違う甘い匂い

この森ではとんと嗅いだ覚えのない匂いが香ってくるのだ

魔物がいなくなったことと関係あるのかわからないが

手がかりが全くないよりいいだろうとその匂いのほうへ向かってみれば


(エルフ…人間…どれだ、獣人じゃなさそうだが…)


そこにいたのは人の形をしたものだった

遠くからだと種族までわからないが顔つきは幼そうだ

しかしなんだっていきなり子供がいるんだ

近くにリンゴの芯が転がっている、甘い匂いの正体はあれだろう


(何かが擬態して罠を仕掛けているとか…か?)


子供のふりをして襲う魔物もいないことはないがそんな風にも見えない

大体そういうのは弱った演技をするものだ

しかしあの子供はそんな風に見えない

なにかぶつぶつ言いながら手元でなにかしているみたいだが…

あの子供が魔物がいなくなった原因とはとても考えられない


(しかし見なかったというわけにはいかねえよな)


本当にただの子供であれば見過ごすことはできない

もし敵だとしてもいざとなれば武器だってある

最初の反応次第で逃げたっていい

腰にさげてある斧を握りしめて立ち上がる


(よし行くか)




「なんだぁ?なんでこんなところにガキがいるんだよ」


さも今気づきましたなんて臭い演技をしながら出ていく

さぁどんな反応を返すかと一瞬緊張したが

子供は驚いてこっちを見たかと思うとそのままぽかんとしていた

間抜け面とはこういうのを言うのだろう


「おい、坊主お前何してんだ?」


さらに声をかけるが相変わらずまともな反応が返ってこない

なんだこのガキ、壊れちまってるのか?

襲ってくることはないから魔物の変化でもなさそうだが


「もうじき日が暮れるぞ、親はどうした」


何度話しかけても口をあけて見つめてくるだけ

こんな山の中に突然の子供なんて

まともなヤツじゃねぇと思ってたけどどうも様子がおかしい


「お前大丈夫か?というか喋れないのか?」


「ぃ・・・あ、っだぃじょ・・っぶ、しゃべれ・・だすっ」


どうやら意思疎通はできるみたいだ

言葉が通じない相手というのはそれだけでやっかいだからな


「本当に大丈夫かよ、とって食ったりしねぇから落ち着けよ」


相変わらず敵意は見えない

近くで見てみれば子供はそれほど子供でもなかった

しかし労働なんてしたことなさそうな体つきが幼さを強調する


「スー・・ハー・・・もう、大丈夫です」


「それならいいけどよ、それで?」


「それで?」


「何してるんだ?親はどうした?日が暮れるぞ」


改めて見てもこのガキ、この森に似つかわしくない

着ているものも見たことはないが上物そうだ

喋り方もそこらへんのガキとは違ってかしこまってる

もしかして貴族の出かなんかか?そうなるとやっかいだ

なんでこんな森にいるか知らないが変に手を貸して難癖つけられても困る

どうしたもんか


「親はえっと・・・、ここ・・・どこですか」


「なに寝ぼけたこと言って・・・あーお前」


「いたっ!?やめっ!!!」


あー・・・

わかった、わかっちまった

そこでようやく気づくことができた

こいつがなんでこんな森に一人でいるのかを

それだったら納得がいく


思わずつかんだ子供の髪が数本抜けた


「おぉわりぃ、真っ黒だな。お前生まれつきかそれ」


「うぅ・・・いてぇ。はい・・・」


「じゃああれか、お前『黒の流れもの』で追い出されたんだろ」



このあたりは関係ないからすぐに思いつかなかったが・・・

『黒の流れもの』なんて大層な名前がついているがなんてことはないただの被害者だ

ここよりはるか北西にあるドアセアという国の王様が


『黒の子供が災いを呼ぶ』


なんて世迷言を言ったせいで今その国から黒髪の子供が一斉に逃げたしているのだ

これがそのへんの国の王様が言ったのなら国民も鼻先で笑って終わっていたのだが

何が問題だってその国ががちがちの宗教国家だったってことだ

国王にして教皇、あの国では国王の声は神の声に等しい


「ながれもの・・・?追い出される?」


「しかし過激派が動いているからって、いきなりこんな山奥に捨てるこたぁないだろうに」


100年に一回ぐらいとち狂うことするからな、あの国は

以前はなんだったか・・・

過去には周りの地域が口をはさんだこともあったが

神の声を否定するとは何たることかと戦争になりかけたことがあった

結果的にあの国の奴らは自分たちの土地さえ守られればいいから

周りが手を引けば戦争を避けることができたけど・・・

ただ今回は追い出すだけじゃなくて血なまぐさいこともしているという噂もある

このガキが処分されそうになったから親はそれから逃がすためにこんな遠くに山に捨てたとか

ありえないことはない・・・か?

ならなんで親も一緒に逃げないとか腑に落ちないところもあるが


「過激・・・捨てる・・・」


「あ!いや、まだお前が捨てられたって決まったわけじゃねえって」


しまった!!

とりあえず想像したことを口に出してたらガキがショック受けてやがる


「・・・・」


「ほらっ、もしかしたら親が安全なところに逃がそうとしたとか・・・!」


「・・・・」


苦し紛れの励ましを言っても

ガキはうつむいて黙り込んでしまった

やめろ、泣くんじゃねえぞ!

子守なんて久しくやってねえんだ

いや、こいつがいったい幾つぐらいかわからないが

ここでぐずられたらたまったもんじゃねぇ!

どうする、どうする

焦った俺はつい口に出してしまった


「と、とにかくっ!!!今日は俺の家にこい」


と・・・

言っちまって一瞬後悔したが

ガキが反応してくれたから良しとしよう

わけのわからない存在を家に招くのは不安だが

本当に『黒の流れもの』なら保護しなければならない

それに保護したら国から多少の金も出るしな

と自分に言い聞かせる


腹を決めれば行動は早い

日が落ちるのはまってくれないのだ

捨てられたのをわかっているのかわかっていないのか

いまだぼんやりとしたガキを立たせ家に急ぐ


帰り道はほぼ無言だったが

ガキが自分はタカノと言い名前を訪ねてきたので

ガルロットだと返した




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