最終話 だれ
怖い、怖い、怖い。怖い。
ピコンッ。通知音が鳴る。
⚪︎⚪︎さんからメッセージが届きました。
まただ。
「不法侵入、しましたか?」
なにを言っているのだろう。
そんなことするはずがない。
⚪︎⚪︎と名乗るアイコンをタップする。
アイコンは初期設定のままだし投稿履歴もない。
恐らく捨てアカだろう。誰だ。
・・・栗林くん。
どうしてそう、思ったのか。
栗林くんは、私がずっと想ってきた子。
栗林くんは私より十歳も若い。なので想っているだけ。
同じ職場で毎日会える子。
通勤経路も途中から一緒。
栗林くんの来る時間に合わせて、同じ時間に同じ場所を走るように家を出る。
休暇もチェックする。
まさか女と遊ぶ? そう思うと気が狂いそうになる。
周りとの会話でさりげなく情報を集める。
今のところ、彼女はいないようだ。
この先彼女候補が出てくるにしても、彼にふさわしい女性であってほしい。
私は栗林くんの幸せを、願えるのだ。だからストーカーではない。
休日に会社まで行ってしまうのも、ついいつもの癖だ。
会社に行くと栗林くんに会えるから。
会社でしか会えない。
栗林くんのことを考えるとセットで会社を思い浮かべてしまう。
それだけだ。
私は栗林くんの自宅も知っている。
怪しまれないように何日か間を空けて少しずつ、後をつけた。
車のナンバーはもちろん暗記している。
休日は栗林くんの住む地域の商業施設に行き、駐車場を見て回ることもある。
栗林くんはSNSをやっていないようなので、現場で探すしかなかった。
この⚪︎⚪︎という奴、私と似たことをしている?
雨雲で場所を特定するなんて気づきもしなかった。
現場で探すことしかできないと思っていた。
それ以外でも特定することはできるのか。
もしこの⚪︎⚪︎が、栗林くんだったとしたら?
栗林くんが、私を?
なぜそう思ったかは分からない。理屈ではないのだ。
変わらない毎日。同じことの繰り返し。
この⚪︎⚪︎が栗林くんじゃなかったとしても。
特定の秘訣を聞けるかもしれない。
返信してみようか。
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「こないだがん検診で引っかかってさ。精密検査したらなんでもなかった、よかったー 」
「体調悪かったあととかさ、普通に過ごしてた日常がすっごく貴重で一番いいものだって分かるよね」
「分かるー! 変わり映えしない毎日に、本当は感謝するべきだなーって思う」
「けど、健康で普通の毎日が続いたらその感謝も忘れちゃうんだよね」
「ねー。私たちってわがままで自分勝手だよねー」
「そういえばあのひと、どうなったんだろ」
「あのおばさん? 栗林くんのこと狙ってたおばさん? まじ痛かったねー」
「ね。朝とか駐車場で栗林くんが車から出るの待ってたりさ、気持ち悪かったよね」
「あのおばさんずっと休んでるけど、この先来るのかな?」
「さぁ。それよりさ、新しくできたカフェ知ってる?」
「あ、あそこでしょ! SNSでも話題になってたよねー気になってた!」




