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祈ればいいってもんじゃない!  作者: 鹿音二号


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第二十一話 ごめんなさい

「お顔色が悪いですよ。大丈夫ですか……?」


翌朝、教会の聖女が気づいて、声をかけてくれた。

結局、彼女にも神託が下ったとはいえず、イシスはごまかして馬車に乗り込む。


今日は山間の道を行くため、馬車だとどうしても遅くなるし、舗装されていない道はガタガタと揺れてかなりつらい。

けれど、聖女は泣き言は言わない。ふたりでじっと耐えて……出発した街から、4時間ほど行っただろうか。

突然、馬車が止まった。


「イシス様、ペトラ様」


ドアを開けて、分団長が深刻そうな顔を出した。


「異変がありました。しばらく前から鳥の声や、動物の気配がないのです」

「……それは、どういうことですか?」


ペトラの不安そうな言葉に分団長は首を振る。


「……周囲を探らせに先に行かせた騎士数名が、時間になっても合流しません。状況を鑑みて、一度、引き返します」

「……判断はおまかせします」


イシスはひやりと背中に伝う汗を感じた。

すぐさま引き返し、やや急ぎ気味に山道を戻って。

1時間も、しなかった。

地響きが、地面を揺らす。


「――魔物だ!」


悲鳴と、怒号が上がる。

イシスは止まりかかった馬車から飛び降りた。遅れてペトラも。

それを手練の騎士たちが自分の馬へと引き上げる。

イシスは馬にまたがりながら、後ろを振り返った――

すでに、後方では魔物との戦いが始まっていた。


「……なんて数……!」


勾配があった山道の上方、黒い洪水のように、魔物は襲いかかってきていた。

生えていた木々はその圧に飲まれて押し倒されて、その引き裂かれた幹の轟音が響き渡る。


「聖女様方を守れ!」

「魔法隊斉射!」

「盾隊構え……!」


つねに戦ってきた騎士たちだ、こんなときでも冷静だ。

けれども……


「イシス様、しっかりお掴まりくだ……イシス様!?」


馬を飛び降りた。

道を外れ、山の斜面に登る。

うわんうわんと、頭の中に響くのは……誰の声ともつかない『今すぐに戻りなさい』。

それは、国へ戻れということではなかった。


(私が!神託を聞けばこんなことには!)


――きっと、この事態への神の警告だった。

激しい後悔と、絶望がイシスを突き動かした。


「神よ……!」


聖力を、祈りにはできなかった。

こんな神を裏切る人間が、祈れなかった。


ただやみくもに力を拡散した、その効果はあった。

すでに近くにいた魔物は、一層こちらの方へ――聖女へと引き寄せられる。

即座にイシスはその場から駆け出した。


ともかく、走った。

勾配がきついところは登れないが、斜めに行けば距離は伸ばせた。

けれど、四つ足の獣型の魔物や、鳥型の魔物は木々の間を縫って素早く移動する。

イシスめがけ、いくつもの影が後ろや横手から追走する。


「……っく!」


飛びかかってきた、2メートル近くある翼のあるオオカミに向かって手を伸ばす。

対魔物の障壁。透明な聖力の壁に阻まれぶつかり、ぐううう、と不満げに吼えるその狼。

別のところから飛んできたトカゲのような魔物には聖力の大きな玉をぶつけて弾き返した。


「……っ!」

「イシス様……!」

「来てはだめ!」


どこかで、呼ぶ声が聞こえた。

けれど、近寄らせてはいけない。

もう、これ以上、イシスのせいで誰かが傷ついてはいけない!


(アフィ……)


イシスはよく彼を傷つけていた。

そのときの顔を思い出して、胸が張り裂けそうだった。

イシスは結局、彼が、どうしてそんな顔をするのか分からなかった。


(もっと……聞けば良かった……)


罪悪感に、泣きながらイシスは走る。

大きな熊のような魔物の爪をかいくぐり、蛇の形をして脚が大量にある細長い魔物に真上から空気の塊を送り出し押さえつけた。

……そうやって、だいぶ離れたところに来たと思う。

木の間から見える山肌に、びっしりと魔物が張り付いていた。

どこかでまだ騎士たちが戦う喧騒は聞こえて、それがイシスに勇気をくれた。


『――我が祈り、神よ、捧げます。その清きお力で、目前の邪悪なるものすべからく滅し給え――』


かろうじて隙ができた、その瞬間に祈りながら跪き、頭を垂れる。

手を組み、地に押しつけ、一心に祈る。

無数の咆哮が上がる。

身体が沸騰しそうな熱が、周囲に伝わって――

空っぽに近い身体を起こすと、周囲が焦げ臭い煙に覆われていた。


「……ふ、う」


もう、限界だ。

周囲すべてを力で薙ぎ払った。焼けた山肌……けれど、その黒ずんだ地面の向こうから、ぞろりと魔物が押し寄せてくる。


「……ごめんなさい」


誰に向けての言葉だったか。口に出すと、もう分からなくなった。

きっと、これが最後の祈りになるだろう。

聖女の血を、魔物に与えてはいけない。

以前身を持って禁忌を再現してしまい、あの日から淡い恐怖と絶望に苛まれていた。

――もしかしたら、自分が世界に仇なす者なのでは。

だからいっそう、聖女として、祈ろうと。

けれど、無駄だった。

どこで、間違えたのだろう。


「ごめんなさい……!」


せめて、この身は神に捧げよう。




突如押し寄せた魔物の大群は、けれどすぐに騎士団からは逸れて山の上の方を目指し始めた。

遅れて届く報告。


聖女イシスが、山に消えた。


混乱しかけた騎士団が彼女と魔物を追おうと態勢を整える矢先、山の中腹で白い光が爆発した。

その光は山と、魔物を半分焼き――さらに何かを天に届けるかのように、先ほどよりも、白い、真白の光が一筋、空に向かって走った。


騎士団は、その光が発生した場所に向かって、ほとんどいなくなった魔物を倒しながら、進軍。

――焼けて黒くなり、すべて消し炭にして何もなくなった地のその中央。


不思議な透明な、岩がそびえていた。

その中に――聖者の像のように美しく祈る聖女イシスがいた。



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