第十一話 やめろと言われた勇者召喚召喚をした結果
『勇者召喚はやめなさい』
5度目の神託は、イシスには到底受け入れることができないものだった。
準備していた勇者召喚の儀式の当日のことだったし、魔王復活は世界の最大の悩みだった。
魔王復活は嘘だったとしても、今、誰がそうだと言い切れるのだろうか。
神託があるたびに、イシスの世間での評価は変わる。魔王復活が、もし間違っていたら――イシスは真の聖女としての価値を失うだろう。
けれど、世界が滅ぶ可能性があるのなら、それを防ごうと賭けに出るのは間違いじゃないはずだ。
だから――誰にも、神託のことは言わなかった。
どうしても、勇者召喚はしたい。
この世界と異世界とのつながりは、星の運行で知ることができる。今日が一番異世界に近くなる日だそうだ。
今日を逃せば、またいつ儀式を行えるかわからない。
どうしても。
けれど。
召喚された勇者は、『勇者』ではなかった。
城の一番の大きな広間で、術者を100人集め、伝承通りの手順で召喚の儀式は行われた。
イシスの祈りは、手応えがあった。魔力を吸い取られ、干からびそうになった。
そして、青年がひとり、現れた。
魔法陣の上の見慣れない服装の彼は、驚いたように周囲を見回した。
「ようこそおいでくださいました……!」
成功した!
急いでイシスは、よろけながら彼の元へと走った。
彼の足元でひざまずき、祈りのときと同じように手を合わせて、
「突然のことで、さぞや驚きになったでしょう。私達はあなたのお力をお借りしたく、このような方法で――」
イシスをぼうぜんと見下ろした青年の、その顔を見て、ぎくりとした。
彼は体の線が細く、ぴったりとした短めの紺色のコートと同じ色のズボン、タイは広がらず細い紐のようなもので首元をゆるく締めている。
顔はとても整っている。黒髪をきれいに切りそろえ、清潔感がある。
そして、瞳は黒い。
「……誰?」
ハスキーな魅惑のボイス。
けれど、イシスの耳を素通りした。
勇者の目は、伝承によれば――金色に美しく輝いているはずだ。
イズル・ショウジと名乗った彼は、とくべつこちらに協力的でもなく、けれど癇癪をおこすような人間でもなかった。
冷静と言っていい。
ただ、イシスを嫌いなようだった。
聖女で自分を召喚した張本人だと分かると、鋭く睨まれて、それきり無愛想だった。
応接間でイシスと、王太子、宮廷魔道士長と大司教が彼に事情を説明すると、なんだか呆れたようだった。
「俺オタクじゃないんだけど、まああれだけ世間で流行ってたら知識はあるっていうか」
「は、はい?」
「こっちの話。で、まじで異世界召喚とかされちゃったわけ、俺が」
「はい……このたび、この世界に来ていただいたのは……」
「セオリーだと、魔王を倒せ、とか、そんなん?」
「良くご存知で」
「でも、俺ステータスとか、不思議な力とか、授かってないけど」
「え」
「ご報告が……!」
突然、応接間に魔道士が入ってきた。
魔道士長へ耳打ちすると、彼は顔をしかめた。
そして、魔道士長はイシスに耳打ちする。
「……聖女。勇者様の能力を鑑定した結果、平均より高く、特に魔力は強いものの、特別な力などは見受けられませんでした」
がん、と頭を殴られたような気がした。
茫然自失したイシスに、召喚されたイズルは、せせら笑う。
「で、元の世界には帰れんの?」




