第十話 神託〜大失敗〜
勇者召喚の準備に慌ただしい中。
4度目の神託ともなると、もはや真偽の論は出るはずもない。
国境のリリゲイズ平野に強力な魔物が出現するという神託のもと、その平野を領地とするソエヴェルト辺境伯の協力で、討伐軍が結成された。
そうして、一ヶ月、二ヶ月――
「出なかったなんて……」
イシスも、国王も頭を抱えた。
会議室で、いつもの面々が皆厳しい顔になっている。
ただ魔物の出現がないだけなら、それに越したことはない……といえる状況ではなかった。
場所が悪かったのだ。
20年前、先代国王の時にその平野が主な戦場となった、隣国オルティン公国との戦争があった。
辛くも勝利し、リリゲイズ平野は国境の緩衝地帯としての役割は重要になった。国の命令で平野を領地としたソエヴェルト辺境伯は、国からの十分な補償はあったもののその荒野となった旧戦場を持て余していて不満だった。
月日が経ち、けれど不毛の土地はそのまま。
そして、先の偽聖女事件で、さらに辺境伯の不満を募らせる事態になっていた。
聖女イシスが王宮から出て身を寄せたのは、隣のボルボン領だった。
今では力をつけたボルボン領が、今度はお荷物を持たされたままの辺境伯の心証を損ない、トドメに『偽』神託の軍備の出費。
国王は謝罪したくても、イシスの神託が本物であるという暗黙の了解はあって、それを否定することになってしまうのも教会が許さない。
「騒がせてしまったことだけは……謝罪したいのですが」
イシスの願いも、同じ理由で認められなかった。
そもそも、神託は状況も感覚も前回とまるで一緒だった。
それが偽物や、自分の妄想だとは今でも思えない。だから、『偽』神託だとは頷けなかった。
「いや、私の責任だ、イシスよ」
国王はイシスを責めなかった。
「己の王としての力を見誤っていた。リリゲイズと聞いてもっと慎重になるべきであったのだ」
「私も……君の力になれなくて、ごめんよ」
ベアフレートは申し訳なさそうにするけれど、それこそ彼が悪いわけじゃない。
「イシス殿が原因というわけでもありますまい。神託のことは我々には理解が及ばぬところではありますが、リリゲイズのことを深く考慮していなかった、我々の責任です」
宰相が悔しげにしている。
「今はソエヴェルト伯との会談を調整中です。痛みを伴うでしょうが、こちらの身を切らねばなりますまい」
魔王復活のこともある、これから忙しくなるというのに、国内での問題を大きくしたくない。
「だが――いや、ともかく、伯の出方を見るしかあるまい」
国王が憂鬱そうにしていた。
彼の懸念は、おそらく数名の寵臣と、イシスには言わずとも分かっていた。
そして、会談ののち、懸念は一気に現実の問題へと発展した。
『聖女イシスの神託とは、本物だったのか?』
魔王復活は、本当にあるのだろうか?




