第8話「羽虫の艦隊」
モグラ叩きの相手がウイルスな気分だ。キリがない。
「舐めてるのか」
「キャッツの公共放送よ」
「公式の声明と受け取ろう。つまりーー」
「神敵を殺せ。誰のことかしら」
「もち、俺達」
首都星に、対艦ミサイルを一万発くらい撃ち込めば……着弾まで七日は考えをあらためる時間があるな。
「有人惑星への対艦兵器の使用は厳に慎むべきかと」
冗談だよ。
「フォークストン大佐。キャッツ星系のキャスパーシステムについて何か有意義なデータはありますか?」
「今、ニューカーマイン本国のデータバンクを漁っている。概要しかわからないが、思ったよりもずっと厄介だぞ。中枢システムは小型艦に組み込まれているようだ。全長1200m、真理の代行号というらしい」
「普通、1000kmなんてサイズは不要ですからね。外宇宙に出ないなら、1kmでも巨艦でしょう」
そして、多くのシステムは搭載可能だ。
「1kmか。日蝕号の一千分の一の小ささだな」
「発見できれば、一撃で轟沈可能ではあるわね」
「キャッツ最高のステルス技術で隠された高速艦を、さて、どうやって沈めるかな」
恒星キャッツは、このあたりではかなり深い海を作っているな。磁気で封じられたプラズマを貯めた星間物質だらけだ。深い深度に潜れはしないだろう。浅海、あるいは潜ることさえも。
「七篠、特攻機は海からでなく惑星からしか出撃してこないな」
「正確にはガス惑星の衛星から。衛星を撃ち落として、火を点ける?」
「魅力的だが却下だ」
仮に海に潜っても、中継プローブか何かを経由しなければ管制はできない。海が遮断するからだ。
「ドローン艦隊を放出しろ。探すのは海から覗いているだろう通信ユニットだ。しかし海にあるとは限らない、広域に展開して索敵にあたる」
「特攻機との乱戦になったら、防衛火器が使いにくくなるし、PICの単極子弾の誤射の危険が数倍どころじゃないけど」
「やってくれ。日蝕号の索敵システムは広範囲かつ高解像度で処理できるが、障害の多い場所では死角が大きすぎる。海は広い」
皆んな、疲れた顔だ。長い時間を、神経を張り詰めてはいられない。例え戦闘中だろうが、全員を絶えずは使えない。
「半数だけ残す。あとは休憩にはいれ」
「えっ!?」
「戦闘中ですよ!」
「特攻機はまだまだ攻撃してきていますし、余談は許されません。まだできます」
「うるさい。意地で戦えば死ぬだけだ。ましてやお前ら全員が万全から遠のいた。日蝕号は巨艦だ。今日明日で沈みはしない」
指揮所から半数以上の人間を追いだし、フォークストン大佐に任せた。
七篠には残ってもらっている。彼女はなんだかんだで、欠けた穴を柔軟に埋められる万能だ。
「俺が休憩に入ったら、指揮はフォークストン大佐に移す」
特攻機への対抗は完全にAI任せだ。人間が深く操作してはいない。人工知能が判断し、攻撃している。
「機械同士の戦争なんて、人間至上主義者が卒倒するぞ」
「初期加速で散る、ドローン艦隊が予定の陣形を形成するまでは、まだ一〇時間はかかりそう。予定より、遅れてる」
「自律した判断は機械にゆだねてる。ドローン艦隊のそれぞれには、それぞれの意思を尊重するよ」
「慎重も悩みものだけど、無頓着はそれはそれで大問題」
「七篠の言うとおりだ。最短を重視しすぎて、キャスパーシステムの網に絡まったドローンはいるか?」
「私が言ってるのは、山中君のことだよ」
「見てなかったか?」
「はぁ……もっと仲間を人間として心配しなさいって話なんだけど」
「ちゃんと見てる」
「嘘ー。日蝕号の付属品だってこと皆んな気がついてるから。そんな調子だと捨てられるわよ」
「……気をつけます……」
そんな目してたの?俺。
何日かは単調な攻撃と迎撃、それだけの時間だった。
戦っているのに退屈とはいささか不謹慎だろうか?しかしほぼ全てを全自動で、完璧に迎撃される程度の攻撃に士気を維持することはとても難しい。
意味のない攻撃であれば、傘を打つ雨ほどの影響もないからだ。
外部視察映像機に視点を重ねても、そこにあるのは終わりなく突進してくるキャスパーシステム戦闘個体が打ち砕かれる姿しかない。
推進剤の炎を引きながら、誘導弾なのか戦闘艇なのか区別のつかないものが延々と破壊されていくさまはつまらないものだ。
なぜこんな……
俺は『景気良く』撃ち続ける迎撃システムの残弾を調べた。弾薬、E燃料、冷却材諸々だ。
「大量の友軍を犠牲に弾を消費させるつもりなのか」
キャスパーシステムの攻撃を受けてから五〇時間。日蝕号はたった五〇時間の迎撃活動で、継戦に必要な消耗品の四割を失っていた。
「笹葉に任せていた在庫管理が、彼が精神攻撃を受けて止まっていたのか」
日蝕号は巨大だ。だが、内部に無限の保管庫があるわけではない。空間は有限なのだ。それはE兵器だって例外ではない。
「キャスパー、第八九次攻撃を確認。また規模が大きくなってる。推定個体数二〇〇〇万」
空調の効いた艦内で冷や汗が流れた気がした。
「PICCIWS立ち上げ、重質量散弾を撃ち込め」
「単艦の限界か。ドローン艦隊展開までの時間は?」
「ドローン、敵と触接、交戦開始」
「オペレーター、仮想プロゼンスモードで確実に敵を撃破しろ。AIに負けるな、不確定性に持ち込め」
「了解。要員は仮想プロゼンスモードの用意を始めてください。直接操縦で戦闘へ参加お願いします」
キャスパーシステムが、日蝕号を日干しにしたいのは、沈めるだけの有力な兵器をもたないからだろう。1000km級は伊達ではない。だが弾切れで漂流しているところを斬り込んで制圧は可能だ。艦内戦では、数が圧倒的な利になるだろう。こっちの艦内防衛は薄く、またどこから突入するかはキャスパーシステム側に選択権がある。
奇襲と艦内への浸透だ。
もしキャスパーシステムが日蝕号に太刀打ちできる装備があるなら、最初から撃ちあっているか、もっと別の手段をとるはず。
近接兵器の弾薬を消費させる戦術は、つまり何かを送り込むのに邪魔だから排除したいと考えたか?
ならば、その奇襲部隊はどこに潜む?
「ん?なんだこれは……」
「どうした?」
「海の中に反応。質量分布が少しおかしい」
「浅海仕様のキャスパーか」
「いえ、それにしては……」
「1200m?大きいな」
「緊急!緊急!ドローン艦隊がキャスパー本体と思しき戦隊と接触!混戦してる!」
「くそっ!索敵どころじゃ……」
おい、ちょっと待て。
「来やがった!合わせてきた!海より特攻機が射出されてる!待ち伏せか!?」
「慌てるな、高が知れている攻撃だ。近接防御火器を全自動でまわせ。それよりも取り付きに備えて艦内のーー」
「ーー見つけた、いたぞ!データ照合、真理の代行号だ!」
ドローン艦隊を引き剥がされ、わざわざ眼前に現れた格好の餌である真理の代行号。様子見は……ない。
「一撃で沈めるなら、陽電子凝集光砲か」
俺は射撃を指示した。外す距離ではないし、耐えられる一撃ではない。
「障壁強度が落ちてる……」
「海からのプラズマや磁気の影響が強いからな」
ただ、甘かった。
充填完了までの、ほんの十数秒間。障壁強度が落ちたその瞬間。
『本命』の奇襲部隊の牙が、日蝕号に突きたった。
「なにが起きた!?」
「え?あ……」
「海からの魚雷攻撃だ!弾頭は不明。不発……違う、強襲魚雷だ!移乗攻撃用の戦闘個体が展開中!」
「隔壁閉鎖!進行を食い止めろ、迎撃部隊を編成、穴を塞げ」
「訓練よりも敵の展開がずっと速いーー通路を閉鎖、充填剤の集中で沈める」
まいったね……眼前には、真理の代行号がいるのに手一杯だ。
「真理の代行号を沈めるぞ」
「しかし艦内には敵が」
「だからどうした。役割を分割しているぞ。主砲発射用意。人間が手足を噛みつかれた程度で思考が止まることがないと、機械に教えてやれ」
腹を喰われながらも、日蝕号は真理の代行号に牙を突いた。陽電子の奔流が閃光し、威嚇する。
「外れたぞ」
「敵艦が海に逃げる!」
「追え」
「し、しかし……」
「何度も言わせるな。ハラワタがこぼれさえしなければ良い。仲間を信じろ。艦内は忘れ、お前達はアレを沈めることに集中するんだ」
俺は艦内の被害を精査する。大した被害ではない。最前衛は少し地獄だが、封じ込めている。




