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この世界は、4つに分けられている。
人間界、獣人界、天界、魔界。
天界と魔界は目に見えるところにはなく、実質人々が認識しているのは、人間界と獣人界の二つである。
その中の一つ、人間界『王都ディルベニア』。
巨大な領土を持つこの国には、たくさんの人が住み、栄えていた。
人々は、魔力という特殊な力を持ち、日々の生活にだったり、武器として使用したり、守りに使うなど様々な用途に利用している。
そして、王都の傍、まるで取り囲むように存在しているのが獣人界である。
その名の通り、獣と人が混じったような体躯をしている。個々の有する力は未知数で人間に脅威を成す。
だが、人間界と獣人界は互いに不可侵の条約が結ばれている。互いに決して侵略はせず、戦はしない。しかし、稀ではあるが、獣人が人間界に現れることがある。自我のない、飢えている獣人は、人間界に害を為す。
獣人からの脅威から身を守るために結成されたのが、騎士団である。
騎士団は、魔力を持つ者だけが入団する権利を持ち、専門の学校にて学んでから正式に入団が可能である。
王宮騎士団、自衛騎士団、戦闘騎士団、神聖騎士団。騎士団も4つの組織に分類され、それぞれ任務にあたっている。
ディルベニアの大半は騎士団に入ることを夢見ている。しかし、誰でも入団出来るわけではない。
魔力を持ち、騎士団の養成学校に入学し卒業出来た者。
高位の召喚獣を召喚し、使役することが出来た者。
この二つの条件が満たされなければ、騎士団には入団することは出来ない。
また召喚獣とは、天界、魔界の両界に住む神獣、魔獣のことである。
人間の魔力を糧にし、その代償に配下に下り、主の意のままに従う。
その力は、魔力が強ければ強いほど比例していく。
強い召喚獣を手に入れた者は、すなわち将来は約束されたと言っても過言ではないのだ。
だが、召喚獣を喚ぶことは容易ではない。
養成学校での訓練をした者でなければ、決して召喚の儀を執り行ってはいけないのだ。
もし、訓練を行っていない者が、召喚の儀を行ってしまった場合は――――――・・・。
「――――いつまで眠っているのだ。馬鹿弟子」
「っ!?」
一瞬殺気を感じたルークは、眠りの海に沈んでいたにもかかわらず、反射的に飛び起き、ベットから飛び降りた。額にうっすらと汗を滲ませながら、ベットの傍らに立っている男を認める。
年のころは、30代半ば頃に見える。肩まである金髪を後ろで一つに結い、右だけ一房垂らしている。ルークより頭一つぶんほど身長は高く、その身に纏っているのは紺色より少し明るめの団服である。左胸に飾られているのは、星の形をした銀バッチが5つ。彫が深く、威圧的な鋭い目を持った男は、ベットから逃げたルークを見て、さらに目を細める。
「・・・20点。これが、獣人であれば、今頃あの世行きだ」
厳しい評価に、ルークは肩を竦める。
「・・・師匠、心臓に悪いんですけど・・・」
折角寝ていたのに・・・と愚痴るルークに、師匠と呼ばれた男は、鼻で笑う。
「敵は、お前が自然に目を覚ますことを待ってはくれないぞ。どんなに気配を隠していようとも察知出来るようにならなければ」
「そんな芸当、師匠にしかできませんよ・・・・」
小さくため息を吐いたルークは、前髪を掻き上げるとのそのそと近くのソファに移動して座った。
今まで寝ていたので体力は回復しているはずだのに、激しい運動をした後のように体は怠い。
きっと緩んでいる時に殺気を受けたから筋肉が緊張したのだろうと、ルークは迷惑そうに己の師匠を忌々しげに見る。
戦闘騎士団、団長バジルド・ヴィンセント。齢24という若さで団長にまで上り詰めた凄腕の騎士であり、ルークの師匠であり、養い親でもある。孤児であったルークは、10年前彼に拾われ彼の子どもとして、弟子として共に暮らしている。
「なんだ、その目は」
呆れたようにバジルドは、団服を脱ぎながら言う。
「別に。珍しいですね、こっちに帰ってくるの」
団長という立場にあるバジルドは、それはそれは多忙な毎日を過ごしている。
週のほとんどを騎士団で過ごし、寝泊りも騎士団内にある団長室である。なので、ルークはバジルドに会うのは実は2週間ぶりくらいである。
「まあな。休暇をもぎ取ってきた」
過ごしやすい服装に着替えたバジルドは、ルークの向かい側のソファに座ると、どっかりと全体重を預けた。疲れが見える彼に、ルークは飲み物でも準備したほうがよさそうだと腰を浮かせる。
「何か、甘いものでも準備しましょうか」
「あぁ。久しぶりにミルクティーが飲みたい。」
この師匠、見かけによらず大の甘党である。普段は、プライドからなのか、甘党と言うことは隠しているようだが、極度に疲れている時や自宅にいるときは甘いものを摂取している。
希望通りミルクティーとクッキーを準備すると、バジルドは端正な顔を少しだけ緩める。