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パメラスの前に集まった生徒たちは、彼の言葉に耳を傾ける。
「今日の演習は、これまで。皆も見ていたと思うが、ジン、カイトペアを手本として今後もがんばるように。しかし、二人は少し力を押さえてもいいだろうな」
「はい。パメラス先生」
「次の授業は何だったかな?」
「魔術応用学です」
「そうか。遅れないようにね」
「「はーい」」
ありがとうございましたーと生徒たちは一礼する。そして、バラバラと各々片づけを始める。
ルークも何とか授業が終わったので安心してまた、屋上にでも行って一眠りしようか。
そんなことを考えながらルークは、伸びをする。
「お前は、またサボりに行くのか?」
「サイラス。だって無理やり連れてこられただけだし」
「あのなぁ・・・」
呆れるサイラスに、ルークは小さく笑う。
「おや?そこにいるのはルークではないかな?」
「・・・・」
馬鹿にするような声に、ルークはまたか、と息を吐く。
肩ごしに振り返ると、つい先ほど注目を浴びていたジン、カイトの二人だった。
腕を組んで、目を細めたジンは、ルーク、サイラスと交互に見る。
「珍しく、授業を受けに来たんだな?」
「サイラスに連れてこられてね」
「ははっ。しかし大した術は使えないんじゃないのか?」
「・・・・守りで精一杯かな」
肩を竦めて答えると、ジンは大きな声を出して笑う。
あまりの大きさに、まだ近くに残っていた生徒たちが何事かと視線を向けてくる。
「守り?そんなもの何の役にも立たないぞ」
「・・・・」
「そんなことだと、来週の召喚では大したやつ出てこないだろうな~」
「召喚?」
「ま、上級出して魔術団に行けるのは俺たちだな」
ジンは、カイトと顔を見合わせるとルークの肩に手を置く。
「じゃあな。落ちこぼれ」
「・・・・」
ポンッと軽くたたいてから二人は、去って行った。
「俺、ああいう奴大嫌いなんだよな~」
二人の背中を見送りながら、サイラスは不満げに零す。
「興味ないな」
「そんなんだから、あいつらも突っかかってくるんだ」
やれやれ、と肩を竦めるサイラスに、ルークは気になったことを聞いてみることにした。
「ジンが言っていた召喚って?」
すると、サイラスは目を見開く。
「え、マジで言ってるの?」
驚く彼に、ルークは真面目に頷いた。
召喚、て言葉は知っているが、自分が思っていることと一緒とは限らないのだ。
嫌な予感がひしひしとしてきた。
「召喚って、5学年になったら必修だぞ?実際に魔獣を召喚して契約をする。その時に召喚した魔獣のレベルによって、本人の魔力量、質、特性を計り、卒業後の進路はほぼそれで決まると言って良い・・・ってお前、大丈夫?」
「え」
「顔、真っ青だぞ・・・?」
さあっと血の気が引いて真っ青になったルークをサイラスは、心配そうな目を向ける。
ルークは、サイラスに言われて、自分が嫌な汗を掻いていることにも気づく。じっとりと不快感が押し寄せる。恐る恐る自分の手を見てみれば、僅かに震えている。ギュッと握ってルークは頭を振る。
「・・・・なんでもない」
「本当か?」
「あぁ・・・今日はもう帰る!」
務めて明るく笑いながらルークは自分の荷物をまとめると、変わらず心配そうに見てくる友人に手を振る。
「じゃ、後よろしく」
いつもなら、「サボるな!」と大声を出しながら教室に引きずっていくサイラスもルークの様子が少しおかしいことに強制することなく、小さく手を振り返す。
「大丈夫か?」
「ん?家に帰って寝るよ」
「・・・・」
「俺の分まで、勉強よろしく」
ルークは、にかっと笑いながらサイラスに背中を向ける。
その笑顔が愛想笑いに気付いていたことも、背中を向けた瞬間、笑みが消え苦渋の表情になったこともお互い知る由はなかった。
ーーーーー夢を、見た。
誰もいない古びた教会。周りは木に覆われて、この場所を知る人間はほとんどいないだろう。
入口の両開きの扉は、片方の蝶番が壊れて誰でも中に入れるようになっている。
中は、埃だらけで、ステンドグラスは輝きを失い、ヒビが入っているものもある。
その中央の開けた場所に、数人の子どもの姿が見える。
一人は分厚い書物を捲り、一人は床に白いチョークで何かを描き、もう一人は、怯えるように周りを見渡している。
『-----よしっ!出来たぞ!!』
床にチョークで描いていた子どもが満足気に顔を上げた。
『俺も、見つけた!』
書物を捲っていた子どもも、目的の箇所を見つけて顔を上げる。
『ねぇ・・・本当にするの?』
喜ぶ二人の傍らで、怯えている子どもが恐る恐る二人に話しかける。
『当たり前だろっ』
『でもさ、これって本当はいけないことなんでしょう?』
『魔力がない奴がしたら、ダメなんだよ!』
俺たちは、魔力を持っている。だから、これは悪いことじゃない。
自信満々に言うが、『でも・・・』と躊躇う。
『なんだよっお前はこのままのたれ死んでも良いって言うのかよっ』
そんなのは嫌だ。
子どもたちの身なりはとても良いとは言えなかった。
ボロボロの服は、所々継ぎ接ぎで補正されている。
それだけで、彼らがどれほどの生活をしているか見てわかる。
『俺は、強い獣を喚んで、騎士団に入るんだ』
『俺も』
二人の子どもは、立ち竦む一人をそのままに、チョークで描いた物に手を翳す。刹那、パアッと紫の光を発し始めたそれは、大きな円をなぞり、文字をなぞる。
それは召喚の陣、だった。




