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逆に気楽に測定できる。
「さて、残りはお前たちだな」
「緊張するなー」
そわそわしながら水晶の前に立ったサイラスは、深呼吸をして心を鎮める。
そっと、水晶に手を翳し、目を閉じて集中する。
水晶は、サイラスの力を感じ、色を変えていく。
綺麗な、蒼の色へと。
「サイラス、属性は水。魔力量は・・・・・・」
ハウザーの目が大きく開かれた。
サイラスは、ハウザーの言葉を待つことなく、目を開けて集中を切る。
ふぅ、と息を吐いた彼は、ハウザーに自分の結果を恐る恐る聞いた。
「先生、どうだった?」
「あ、あぁ・・・属性は水だな」
「そ、水。で、魔力量は?せめて中級はあってほしいんだけど」
「---中級どころか、上級Bだ」
「ほ?」
パチパチとサイラスは瞬きを繰り返す。
ハウザーの言葉を聞き間違えただろうか?
「中級B?」
「否、上級Bだ」
「・・・・なんで?」
サイラスは、首を傾ける。
上級B?それは、学年1と言われていたジンやカイトよりも上ではないか?
自分にはそれほどの能力はない、はず。
「なんでも、なにも水晶は間違わない。お前は、上級だ。それなりに準備しておくように」
これは、学年成績を見直す必要があるな。
心の中でつぶやきながらハウザーは記録を残す。
サイラスは、自分の結果に今だ信じられないまま、水晶から離れた。
「俺が上級?・・・信じられない」
「結果として出ただろう?いいじゃないか、低いよりは」
「そうだけど・・・」
なんだか、実感がないよ。
そう言ってサイラスは、自分の手のひらを見つめて、グーパーと開いてみる。
「次は、ルーク。お前で最後だな」
「はーい」
ルークは、気のない返事をして水晶の前に立つ。
やる気の感じられないルークに、ハウザーは肩を竦める。
「真面目にやれよ?」
「分かってますよー」
ニッと笑いながらルークは水晶に手を翳す。
じわじわと体の中にある魔力が水晶を伝っていく。
(中級・・・それくらいなら・・・)
きっと、パメラスもバジルドも文句を言わないだろう。
サイラスが上級だったことは意外だったが、まぁ、彼は努力家だから、こっそり鍛錬していたのだろう。
そんな彼より自分が上のはずはない。
水晶の色が変わっていく。
透明から赤色へと変わる。
「属性は、火だな。魔力量は・・・・」
ハウザーは、ルークの成績など知っている。
だから、彼がどのくらいの魔力量かは予想は容易い。
良くて中級C、悪くて下級。
そんなレベルの魔力量だと思っていたから、今回もさして伸びていないだろうとそう確信していたが、水晶に現れたルークの魔力量にハウザーは目を疑った。
「?先生、どうしたの?」
「いや、お前・・・その魔力量・・・」
「?」
「------上級、A」
「!!」
やばっとルークは慌てて水晶から手を離した。
それから周りを見渡すと生徒はまばらでルークを見ていない。サイラスも自分の結果に戸惑っていて自分の世界に入っているようだ。
とりあえず誰にも聞かれていないことに安堵して、ルークはハウザーに向き直る。
「----今の測定、間違っていますよ」
「そんなはずはない。水晶は嘘はつかん。根本的なところで測定するからな」
「・・・・・」
ルークは、派手に舌打ちしたい心境に駆られた。
偽りは出来ないということか。
「先生、記録には中級にしといて」
「は?何を言っている?」
「諸事情により、俺はそんなに魔力量を持っていてはいけないの。中級てことで」
「ルーク、お前・・・」
「お願いします」
ジッとハウザーを見つめると、彼はやがて大きなため息をついて頭を掻き乱した。
くそっと小さく呟いてから記録に記入したのは『中級B』。
それを確認してからルークは安堵する。
「ありがとうございます」
「全く・・・」
「ついでに誰にも他言無用ってことで」
にっこりと笑いながらお願いすると、現実に戻ってきたサイラスが顔を覗かせる。
「ルーク、どうだった?」
「中級Bだって」
「お前にしては伸びたんじゃないか?」
「そうだな。それよりサイラス、すごいなあのジンより上だぞ」
「うーん。実感ないなぁ・・・」
二人は、他愛もない会話をしながら教室を出ていく。
その背中を見送ったハウザーは、記録をジッと見つめる。
学年で落ちこぼれと言われていたルーク・ヴィンセント。
授業はほとんど出席はしないし、試験は無記入がほとんど。そんな彼の態度に学園は落ちこぼれと呼ばずにはいられなかった。
しかし、それがたった今覆されてしまった。
(彼は、『落ちこぼれ』であろうとしている?)
魔力量から言えば、彼は落ちこぼれなんかじゃない。
彼が落ちこぼれのルークであろうとする、その理由はなんだろう?
「・・・・ま、いいか。記録で偽っても、根本は偽れない」
パタンと、記録を閉じる。
「ルーク・ヴィンセント。サイラス・ルーズベルト・・・・か」
自分の中の彼らの評価が変わっていく。
「見直してみるか・・・」
ハウザーは、記録を机に置いてから出した水晶の片づけを始めたのだった。