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少年魔術師と契約獣  作者: あさぎ つくも
少年魔術師と契約獣の出会い
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目の前に広がっているのは、視界一杯に広がっている青空だ。わたあめのようにふわふわとした白い雲がゆったりと浮かんでいる。

その下、緑の芝生のベット、一人の少年が鼻歌を唄いながら寝転がっている。

ルーク・ヴィンセント。すらりとした身長に着崩した制服、肩まで届かないざんばらな髪は、漆黒で空を見上げ雲の数を数えている瞳はアメジストだ。目元が柔らかいからか18歳となった今でも実年齢より若く見られがちなのが彼の目下の悩みである。しかし、その整った容貌は、異性には大いに好かれている。

ルークは、腕を頭の下に交差させて枕にしている。

天気も良い。芝生はふかふかしていて気持ちがいい、絶交の昼寝日和である。

瞼が、ゆっくりと閉じようとしている。それに逆らうことなく目を閉じようとしていたルークだったが、自分の名前を呼ぶ声に瞼を起こす。

視線を巡らせると、一人の少年が、こちらに歩いてくる。

見知った相手に、ルークはジッと彼が側に来るのを見ていた。

「ルーク、またこんな所でサボりか?」

「やぁ、サイラス」

彼の質問には答えず、挨拶をする。彼は、呆れた顔で腰を屈め、少しでもルークと視線を合わせようとする。

「やぁ、サイラス、じゃない。サボり魔。迎えに来てやったぞ」

サイラス・ルーズベルト。ルークとは、幼いころから共に過ごしてきた所謂幼馴染みという間柄だ。

背格好は、殆どルークと同じで、違う所は藍色の髪と黒曜石の瞳、黒縁眼鏡をしているサイラスは、爽やか少年というよりは真面目な優等生な雰囲気だ。

似ているようで正反対の色を持つ二人だったが、だからこそ共に過ごせたのではと、ルークは思う。

「あれ?授業始まってる?」

「はぁ~これだから・・・とっくに始まっているぞ」

「サイラスは、出なくて大丈夫なの?」

「先生直々にお前を捕まえてくるように言われたんだよ」

今日は、大事な実技演習だぞ。

サイラスは、ルークの腕を掴むと自分の方に引っ張りルークを起こす。

ルークは、苦虫を潰したような顔で、肩を落とす。

「実技演習?俺、あれ大嫌いなんだけど・・・」

「お前に好き嫌いがあったなんて驚きだ」

「どういう意味?」

ギロリとサイラスを睨みつけると、サイラスはニヒルな笑みを向けている。

完全に馬鹿にしている笑みだ。

「だって、お前ほとんど授業に出ないだろう?好き嫌いなんてわかんないよ」

「・・・・ま、そうだね」

「でも、今日の実技は必ず出ないと単位もらえないぞ」

「いーよ。別に」

「俺が、困るんだ」

ほれ、行くぞ。とサイラスはルークの手を掴んだまま歩き出す。

まるで、逃がさないとでも言っているようで、ルークの頭の中には哀しいメロディーが流れ始めた。






実技演習場に到着すると、すでに授業は進んでいた。

ざっと見て、30人ほどの生徒が、ペアになっている。

「先生、ルーク捕まえた」

「おお、サイラス。おかえり」

にっこりと笑顔で迎えてくれた先生は、サイラスを見て、そしてルークを見る。

「ルーク。久しぶりかな?」

「・・・・こんにちは」

「授業は、とっくに始まっているよ?」

「・・・すみません・・・パメラス先生。」

決して咎めるような口調ではないが、反省を悟らせるパメラスは、20代という若い教師だった。

専門は、魔術訓練。

実技は、彼の担当であった。

すらりとした長身に、割と整った容貌。フレーム無しの眼鏡はよく似合っている。

笑顔の絶えないパメラスは、学園の生徒にも人気であった。

「今日は、大事な実技演習だ。ペアは、サイラスと。準備して」

「はい」

サイラスは、頷くとルークに「行くぞ」と声をかけて準備に入る。

サイラスとルーク。二人が中に入ると先に訓練していた生徒たちがチラチラと彼らを見る。

容姿の整った彼らは、学園でも人気がある。

特に、女子生徒からの視線が二人に注がれる。

「あー・・・面倒」

「そんなこと言うな」

生徒たちからの視線を気にもしないでサイラスは、ルークと距離を取った。

そして、手のひらを空に向け、ジッと凝視する。

『我に火の加護を。ファイア』

ボウッとサイラスの手のひらに火の塊が現れる。

メラメラと燃える炎をルークはジッと見つめた。

「------はぁ、ほんと、面倒」

深いため息をついたルークは、頭をガシガシと掻き乱す。

「ルーク、まだか?」

「いーよ。いつでも」

「・・・準備は」

スッと目を細めたサイラスに、ルークは手のひらを前に差し出す。

『我に守の加護を』

刹那、ルークの前に透明な壁が現れる。

「どーぞ」

「まぁた、守か・・・仕方ないな」

ガッカリを隠すことなくサイラスは、手のひらをルークに向けた。

炎はサイラスの手を離れ、勢いよくルークに向かっていく。

しかし、ルークを的としていた炎は、彼を守る障壁に阻まれ霧散する。

白煙を立ち上らせ、空気に溶けて視界が鮮明になると、怪我一つないルークが立っていた。

「これで、いいか?」

「---よくないっ攻撃しろよ」

不満げにサイラスが、叫ぶ。

ルークは、面倒と答えてその場に座り胡坐をかいた。

すると、隣で派手な爆発音が響き渡る。

そちらに目を向ければ、赤い炎と、青い水がぶつかり合って起きた爆発だった。

「派手だな・・・」

「また、ジンの奴だよ」

「ジン・・・?」

他の生徒がポツリと呟いた言葉から聞きなれない名前が出てきて首を傾ける。

生徒はほとんどが今白熱した演習をしているペアにくぎ付けだ。

ルークが、何もしなくなったのでサイラスは、諦めて彼のところまで歩いてきた。

視線は、演習の方に向いている。

「ジン・ラスポートだよ。学年1位の魔力保持者で攻撃魔法が得意な。ペアを組んでいるのは、カイト・ワークス。こいつも上位の人間だな」

「へぇ・・・」

「今、注目の団員候補」

「・・・」

ドオン、と地響きが轟く。

術と術のぶつかり合い。

五行水とあるように、火は水に相反し、土は水に相反す。

同格の火と水がぶつかり合えば爆発するのは当然だ。

「やりすぎではあるが、及第点だな」

満足そうにパメラスが二人を称賛している。

パメラスは、もの言いたげにルークを見下ろす。

「君にも、彼らみたいなやる気を出してもらいたいものだ」

「・・・・」

その言葉に応えずに顔を背ける。

やれやれと肩を竦めたパメラスは、首に下げていた笛を口に銜え、演習終了の音を鳴らした。




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