表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
4章:君にハグ&キス
39/42

3

「夏樹……、手を痛める」


 どれだけ叩いても、シュナイゼルはびくともしなかった。乱暴に殴りつける夏樹の手をそっと掴まえると、少し赤くなった拳を、ひんやりとした口元に運んだ。


「……っ」


 シュナイゼルにそんな風に触れられるのは初めてで、夏樹は暴れるのも忘れて、自分の手と、そこに触れるシュナイゼルの口元を凝視した。

 口唇のない機械めいた口元から、微かな吐息を感じる。


「夏樹……、君を苦しめたりはしない。必ず幸せな日々に戻れると約束する」


 その言葉の裏に隠された真実を読み取り、夏樹は目を見開いた。吐息を感じた指先が、一瞬で冷えていく。


「そんな……、私の、記憶を消すの……?」


「――苦しむだけだ」


「嫌だよっ!」


「夏樹……」


「シュナイゼル、私の気持ち、全然分かってないよ! 忘れたいわけじゃない……っ、一緒にいたいんだって……ふ……っ、うぅー……っ!!」


 涙がぼろぼろと零れた。

 嗚咽が止まらなくなり、喋ることも出来なくなった。瞼に吐息が触れる。

 シュナイゼルは、夏樹の瞳から零れる涙を吸い上げた。優しく慰められても、ちっとも嬉しくない。全てが、お別れの挨拶のように思えてしまう。


「お願い、記憶を消さないで……っ」


「夏樹」


「お願い、お願いっ!」


「夏樹……」


「忘れたくないよぉ……っ」


「私も苦しい。夏樹と、離れたくない! けど、ここに残れば、君は必ず泣く」


「い、今だって……っ」


「これが最後だ。地球へ帰れば、必ず笑顔になれる。約束する」


 ――今、私を笑顔にできるのは、シュナイゼルだけだよ……。何もかも忘れて、地球に還ることが、本当に私の幸せなの? 本当にそう思うの?


 涙にぼやけた視界でシュナイゼルを見つめ、想いを伝える額の信号に触れた。指先に仄かな温もりを感じる……。


「――夏樹」


 信号に触れていた手を取られた。長いしっぽが腰に絡んで、隙間なく引き寄せられる。後頭部を大きな手で支えられて、上向かされた。

 シュナイゼルの顔が近づいてくる……、張り裂けそうな胸を抑えながら、ゆっくり瞳を閉じた。

 涙に濡れたキス。

 生まれも、姿もまるで違うけれど。この強くて、優しいラージアンのことが、誰よりも――……。


「ずっと、触れてみたいと思っていた……」


 触れるだけの口づけを交わした後、シュナイゼルはすごく優しい声で囁いた。

 硬い指で唇をかたどるようになぞられる。ドキドキし過ぎて、何も言えない……。しばらくそうした後、シュナイゼルの方から顔を寄せて、もう一度キスをした。

 ひんやりした硬質な薄い口が、夏樹の柔らかな唇を優しくむ。止まっていた涙が、またしてもポロリと零れた。


「――こ、こんなことをしておいて、記憶を消すっていうの?」


 ゆっくり顔が離れると、シュナイゼルを睨んで悪態をついた。照れ隠しだと、ばれたのかもしれない。シュナイゼルはくすりと笑った。


「私は、百年経っても忘れない」


「自分だけ、ずるいっ!!」


「夏樹は、可愛いな」


「な、何を、いきなり……」


 ふいうち過ぎて、思いっきり狼狽えてしまった。顔が熱い。真っ赤になっている自覚がある。

 身体を離そうと思ったけれど、腰を硬いしっぽに押さえつけられて逃げられなかった。両手も片手で掴まれているせいで、手で顔を隠せない……。仕方なく顔を背けた。

 背けた横顔に、吐息がかる。

 身構えていると、目元に優しくキスされた。


「夏樹。私だけの女王……、もうお休み」


 触れられた瞬間に、おかしいと感じた。どうしようもないほど、強力な眠気が襲ってくる……。


「どうか幸せに……」


 ――そんな、シュナイゼル……待ってよ、待って……、こんな風にお別れなの? 待ってよ……酷いよ……。


 声に出して、必死に、呼び止めているつもりだった。





 返事はなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=474030588&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ