表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラージアンの君とキス  作者: 月宮永遠
3章:宇宙戦争
30/42

9

 ラージアンカップが終わり、手持無沙汰になった夏樹は夕涼みしようと、家の前にあるベンチで夜空を見上げていた。

 頭上には落っこちてきそうな、美しい満点の星空が見える。CGではなく本物の宇宙だ。コロニーでは夜になると天井部を覆う巨大なホログラフィーが消えて、宇宙そのものを見ることが出来るのだ。

 夜空には、信じられない大きさの土星が浮いて見える。迫力満点だ。

 くっきりとした土星の輪を眺めていると、シドが様子を見にやってきた。


「ナツキ。元気がないな?」


「そんなことないよ」


「いいや。気落ちしている周波を感じる」


「……気付かないふりをするのも、時には優しさなんだよ」


「何故だ。力になりたい」


 偽りのない真っ直ぐな言葉に、思わず笑みを浮かべた。シドは優しい。リリアンは別として、シュナイゼルといい、ラージアンは紳士のように優しい者が多い気がする。

 隣に座る大きなシドに、甘えるようにもたれかかった。


「シドは真っ直ぐだね。私も、そんな風に言えたらいいのに」


「何をだ?」


「教えてもいいけど……、シュナイゼルには、言わないでくれる? ラージアン達に共有もなしで……」


「判った」


「最初はすごく恐かったけど、今はシドのことも、ディーヴァのことも、シュナイゼルのことも……、好きなんだ。もちろん、地球に帰りたいんだけど、最近、皆とお別れすることを考えると寂しくて……」


「俺も、夏樹がいなくなると寂しい」


 シドの言葉が、胸に刺さった。


「寂しいって、思ってくれる?」


「思うさ。皆、そう思ってる」


「でも、シュナイゼルは……」


 平然と、記憶は消去される……なんて言ったのだ。視界が潤みかけると、大きな手が頭の上に乗せられた。


「泣くな」


「泣いてないよ」


「寂しいなら、ここに残ればいい。女王も喜ぶ」


 夏樹は力ない笑みを浮かべた。


「皆と離れるのは寂しいけど……、地球が恋しいんだ」


「地球がいいのか」


「うん……」


「地球のどんなところが、好きなんだ?」


「全部だよ。家族も友達もいるし……、ここに比べたら不便だけど、コンビニあるし、青空も、家の前の公園も、自分の散らかった部屋も……、全部懐かしい。大切なんだよ」


「たくさんあるんだな」


「うん……」


「故郷を想う気持ちは判る」


「ラージアンはここが故郷だって、前にシュナイゼルは言ってた。宇宙じゃなくて、大地で暮らそうとは思わないの?」


「我々は元々、戦う為に造られた生物兵器だからな。遺伝子改良と世代交代を繰り返した今も、その本質は変わらない。安らぎよりも闘いを求めている。だから女王も、どれほど銀河を制圧しても、満足しないんだ」


「皆強いもんね……」


 彼等がとても強くて、素晴らしい科学を手にしていることは知っている。それから、勝負ごとや戦いが大好きなことも。


「ナツキ、帰ってしまうのか」


「……っ」


 ぐっと言葉につまった。……ここに残りたい。いや、地球に帰りたい。合反する気持ちが苦しい。


「泣くな」


「泣いてないよ」


 ふっと力ない笑みが零れた。いつから、彼等の傍がこんなに居心地よくなってしまったのだろう。こんな風に、迷ったりするはずじゃなかったのに……。


「夏樹」


「――っ」


 シュナイゼルの声だ。

 シドに寄り掛かっていた身体をパッと起こして、慌てて振り向くと、シュナイゼルがこちらをじっと見つめた。


「――シド。何故、知らせない」


 いつもよりも低い、シュナイゼルの声に不安を覚えた。

 よく判らないが……、もしかして、さっき夏樹が共有しないで、とお願いしたせいだろうか。シドにとって不味いことが起きているのだろうか。


「相談に乗っていただけだ。俺も心配している」


 シドは夏樹の肩を引き寄せた。シュナイゼルの額の信号が、濃い紫に変色した。何だか怒っているみたいで怖い……。


「あの……」


「夏樹」


 シュナイゼルに呼ばれて、夏樹はおずおずと近づいた。シドの手が肩から滑り落ちる。優しい友達を見上げて、ありがとうと視線で伝えると、どういたしまして、というように頷いてくれた。


「夏樹」


 急かすようにもう一度呼ばれて、シュナイゼルの傍へ駆け寄ると、腕を取られて引き寄せられた。いつものように、片腕に抱きかかえられて、宙を滑るように飛行を始める。

 家までの短い距離だったが、沈黙をやけに重苦しく感じた。

 お休みと告げて、家に入ろうとする夏樹を、シュナイゼルは珍しく引き留めた。


「夏樹。ここ最近……、気落ちしていることは知っている。皆、心配している。もちろん、私もだ」


「ごめん……」


「謝ることはない。無理に聞き出すつもりはないが……、シドにどんな相談を?」


「え……」


「私は夏樹を守れなかった。こんなことを聞く資格は、もうないのかもしれないが……」


「そんなことない! その……、シュナイゼルは、いつだって私を守ってくれたよ」


「シドに話すことで、夏樹の気が休まるならいい……。だが、どうしても気になる。私には、話せないことなのだろうか?」


 ――だって、シュナイゼルのことなんだもん……。


 けれど、こうして心配してくれるということは、夏樹のことを一時の関係ではあれ、少しは大切に想ってくれているのだろうか。


「地球に帰ること考えたら……、少し寂しくなっただけだよ」


 誤魔化すように笑みを浮かべたが、嘘を言っているわけではない。シュナイゼルは夏樹の心を推し量るように沈黙した。


「それで……、シドは何て?」


「え?」


「夏樹は、シドと離れるのが寂しいのか?」


 どうしてそうなるのだろう。もちろんシドと会えなくなることは寂しいが……。


「どうなんだ?」


「シドだけじゃないよ、ディーヴァも、シュナイゼルも……、会えなくなるって考えたら、寂しいよ」


 今度はシュナイゼルが沈黙した。どう思っているのか、すごく気になる。


「シュナイゼルは……?」


「――私も寂しい、夏樹」


 心臓がドクンと音を立てた。

 嬉しい。寂しい。そして……。急速に膨れ上がる気持ちに、蓋をしなければならなかった。


 ――自覚しちゃだめ、後で絶対苦しむ……。言葉にしてもだめ。


 それでも目頭は勝手に熱くなり、感情が溢れて唇は戦慄わなないた。ぽろりと涙が零れる寸前、シュナイゼルに腕を引かれた。

 切なさを噛みしめながら、硬い胸に頬を寄せる。


 ――やっぱり、少しずつ距離を置こう……。これ以上、彼に依存したら、離れた時のダメージが、救いようのないほど大きくなってしまう……。


 そう思った傍から、離れ難くておずおずと硬い背中に腕を回した。


 ――もう、手遅れかもしれないけど……。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=474030588&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ