カッコイイと可愛い
だいぶ遅くなってしまいましたが、新年明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。
今年最初の大仕事が目前に控えているせいでなかなか更新できずにいたのですが、隙を見つけたので投稿します。楽しんでいただけたら嬉しいです。
それではどうぞお楽しみください!
体育館に入ると中は人で一杯だった。この人達全員がミスコンを見るために集まったのかと思うとさすがの桜も若干及び腰になる。
「今すぐ即行で出場取り消しに行くわ」
本気の願望を口にする。いくらなんでもこんな大勢の目に晒されるなんて嫌だ。昔から人前に出るのが大の苦手なのだ。大勢に注目されるとなにを言おうとしていたのかも何をしようとしていたのかも忘れるし、緊張で体は萎縮するし、声は出ないしで散々なのだ。
「まぁまぁ、そう言わずにさ。やってみようぜ」
有言実行の桜が本部へ向かおうとするのを肩に腕を回すことで阻止し、とても楽しそうな恭哉が微笑みかける。何とか引き剥がそうと苦戦しながら若干以上に引き攣った笑みを返す桜はすでに緊張で体も顔もガチガチだ。隣の千夏と一夜も同様にガチガチになっている。これはちょっとマズイかな。
「お三方。お茶でも飲んで一先ず落ち着きましょう」
いつものようにのんびりとしている美優がガチガチの三人にお茶を差し出す。緊張で喉がカラカラだった三人は礼を言ってお茶を受け取り、一気に飲み干す。それでもまだ体の動きが固い。どんだけ緊張してるんだか。
「ったく。しゃーねーな。ちょっと来い」
大きくため息をついた恭哉が見てらんないという雰囲気丸出しでガチガチの桜を隅っこに連れて行く。桜はギシギシと音がしそうなほどぎこちない動きで恭哉に連れられるまま足を動かす。隅に着くと恭哉は桜を隅に押し付け、軽く頭を叩く。
「緊張し過ぎだって。こんな観客袋詰めのジャガイモとでも思っときゃいいんだ」
無責任な励ましにいつもは反抗するだろう桜だが、今日は違った。
「う・・・ウン。・・・ソダネ」
返す声が裏返ってる。おまけに視線が忙しなく動き、挙動もおかしい。これが普通の道路だったら絶対「挙動不審な人がいます」と警察に通報されていたことだろう。
恭哉は内心で深いため息をつく。ホント。昔っから人前に出んのが嫌いだよな、桜は。見知った人たちの前なら平気なのに。
そっと肩にそっと触れると微かに震えていた。それを感じ取り、目を細める。素早く左右に視線を走らせ、誰も見ていないことを確認すると片手で桜の頭を支え、もう片方の手を彼女の背に回す。
「目、閉じろ」
耳元で囁かれ、反射的にビクッと跳ね上がる肩。言われたとおり目を閉じると、唇に優しく何かが触れる。それは数秒間続いた。
「・・・緊張、解けたか?」
「こんなんで解けたら世話ないわ!」
人が見ているかもしれない、という恥ずかしさから恭哉の腹を力一杯ぶん殴る。拳に合わせてお腹を動かし、受け流すと苦笑する。ちょっと痛かったが、クリーンヒットしたらちょと痛かったでは済まなかった気がする威力だった。
「よし。いつもどおりの桜に戻ったな」
「戻してくれて、ドーモアリガトウ」
棒読み口調で彼を睨み上げるその顔は真っ赤だ。くっと喉の奥で笑った恭哉の大きな手が桜の頭を宥めるように叩く。
「あぁ。戻ってきましたね。桜さん!恭哉君。こちらです」
ざわめきの中なのに不思議とはっきり聞こえる悠紀の声を頼りに皆の元へ戻ると、琉璃と優がいた。不思議そうな顔をしてると優が困ったように笑う。
「すみません。琉璃がどうしてもあなた方と話したいと言って聞かなくて・・・」
「いや、別にいいんだけど・・・。二人も出るの?」
「もっちろ~ん。琉璃の可愛さを全校生徒み見せ付ける大チャンスだもん。優勝はもちろん、世界一の美少女の琉璃で、き・ま・り♪」
言うと思ったよ。
半ば諦めまじりの桜は「あ、そう」と適当に流してしまう。このナルシストなとこをほんの少しでもいいからなくして欲しい。琉璃に会うたびにそう思う桜だった。
「恭もいるんだ~。ね~ぇ〜、琉璃って世界一可愛いよね」
上目遣いで恭哉を見上げてそう訊ねる琉璃。そんな彼女をじっと見下ろした恭哉はひょいっと躊躇わず桜を抱き寄せ、答える。
「残念だな、藤咲サン。俺にとって一番可愛いのは桜なの」
「ちぇ~。恭が冷たいょ~、優ぅ」
藤紫の瞳をウルウルさせながら優に抱きつつ琉璃。慣れた仕草で腕の中に華奢な身体を抱き入れた優は「はいはい」と微苦笑を浮かべながら彼女の頭を撫でる。実に手馴れた扱いだ。
『ただいまよりミス三珠・ミスター三珠コンテストを開始します。出場者はステージにお集まりください』
その放送で参加者はぞろぞろとステージに向かう。ステージと観客席の間には幕が下りており、観客席からステージは見えなくしてある。そこに約百人近い男女が集まった。
「では今からアピールの順番を決めたいと思います。男女各一列になって私と江川先生の持ってる箱からくじを一枚引いてください。そこに書かれている番号がアピール番号です。くじを引いた人は伊東先生に自分の番号を告げ、くじはそちらに置いてある」
女の教師と江川という教師の間に置かれた箱を差す。
「箱にいれてください。それが終わったら男子は右に、女子は左に分かれ、体育館倉庫に置いてあるアピール用の衣装を選んでください。何か質問は?」
「アピールって異能使っていいんですか?」
生徒の一人が質問を口にする。
「観客と体育館に被害が出ない程度に抑えてなら異能行使は認められてます」
生徒達がざわめきだす。まさか異能が使えるとは思ってもみなかったのだろう。どの顔も嬉しそうだ。一斉に指輪を外す金属音が聞こえだした。
「それでは順番にくじを引いてください」
生徒達は順にくじを引き、ある者は喜びの声をあげ、ある者は落胆の声をあげる。桜は順番なんぞどうでもいい。というかさっさと終わらせたい、と心の中でぼやきながらくじを引く。
「二十七番、か」
結構前の方だな。これならさっさと終わるかも。ふっと口端をあげる。なんだかんだで調子出てきたかも。恭哉に感謝しないとな。
「桜。何番だった?」
駆け寄ってきた千夏にそう訊かれ、桜は紙を見せる。彼女は「いいなぁ」と羨ましそうに言い、紙を見せる。十番だ。
「交換する?私はさっさと終わらせたいから」
「いいの!?ありがとう、桜」
こんなことで喜ばれてもあまり嬉しくないなぁ、と心の中で思いつつ紙を交換し、教師に番号を告げると体育館倉庫に向かう。
「いっぱいあるな。––––こん中から自分の好きな衣装を選ぶのかよ」
最後の方がうんざりした口調になった。どれでもいいじゃん、こんなの。適当に選んで適当に着るか。
とりあえず一周見て回ったところで桜はそう決めた。ちらっと視線を巡らすと琉璃は御伽噺に出てくるお姫様のような清楚だが綺麗な薄ピンクのドレス。千夏は丈が短いが可愛いお嬢様風のキャミソールとスカート。美優は若緑の浴衣。渚は上から下にかけて濃い青になっていくワンピース。真夜はタイトスカートの婦警姿。戒は何故か海賊の格好。本当に何故だ。
「うわぁ・・・。真夜姉カッコいい」
思わず本心の声が口からこぼれた。それぐらい真夜の婦警姿は似合っていた。他の人も何だかんだと言いながらも似合っている。
どんどん少なくなっていく衣装を見つめ、その中の一つを手に取る。もういいや。どうせ似合わないのだから自分の好きにしよう。
素早く着替えると置いてある鏡に自分の姿を映す。仕事に行くときと大して代わり映えがしないな、と内心苦笑をもらす。
「ま、どうでもいいや」
諦め口調でそう呟くと制服を持って目の前の布を横に払う。
「あっ、出てきた。何にした?さく・・・ら・・・」
出て行くとまるで待ち構えていたかのように立っていた渚が顔を輝かせ、声をかけてきたのだが、その語尾が不自然に消えていく。その表情を見た桜は「あぁ、よっぽど似合ってないんだな」と納得する。他の生徒も目を丸くして桜に見入っている。
多方面からの視線に居心地の悪さを感じ始めた時、ようやく渚が口を開いた。
「それって・・・団長服?」
「ん?わかんない。適当に選んだらこれに当たった。ちょっとお腹がすうすうするし胸がきついけど、ちゃんと着れてると思うんだ。似合わないのはわかってるよ」
「いや・・・似合い過ぎ」
「え?」
桜が着ているのは、縫い目の部分に赤いラインが入った黒いズボンに、同じ色の上衣が足首まである服。それはいい。その上衣の前が大きく開いていて、胸の部分にさらしを巻いている以外は丸見えだ。本人が言っていた「お腹がすうすうする」はある意味当然だろう。こんな格好をしているのだから。おまけに腰の部分に紅い腰帯が巻いてあり、そこには彼女のであろう太刀が二本差してある。
「「天空さんカッコいい!」」「「写メっていい!?」」「「きゃ~」」
「・・・?」
当人は何故ここまで騒ぎになっているのかいまいち理解出来ず、きょとんとしている。どこか変だろうか?と顔に書いてある。
「さっすが私の彼氏」
「誰が彼氏だ!私は男かっ!」
あほなことをぬかした渚には間髪入れず噛み付いておく。誰が男だ。私は女だ!心の中で憤然と息巻いていると真夜が乱暴に桜の髪を撫でまくる。桜の細い髪はあっという間にぐしゃぐしゃになってしまう。
「真夜姉!なにすんだよ」
抗議の声を上げると真夜は事もなさげに答える。
「似合ってるよ、桜」
「真夜姉こそ。婦警服、似合ってるよ。誰を逮捕する気?」
照れ隠しに真夜を褒めると、彼女はクスッと悪戯っぽい笑みを浮かべると「どうも。さて、誰を逮捕しちゃおうかな」とおどけたように返す。そこに美優と戒、千夏、琉璃が寄ってくる。
「桜ちゃんカッコいい。写真撮ってもいいかい?」
「こんな変人撮ったら携帯が壊れるからやめな」
袂から携帯を取り出しながら美優が訊くと、真剣な顔でやめるよう諭す。どうやら本心からそう言っているらしく、語調には真しかない。
「戒。眼帯のつけ方間違ってる」
寄ってきた戒を見た真夜が軽く眉をひそめ、肩を落とすように息をつく。
「え?そう。これでいいじゃん」
「ダメに決まってるでしょ。まったく」
軽く呆れながら戒の左目に眼帯をつけ直す。体育館倉庫にいる女子は戒と桜を交互に見つめる。そんな女子達の視線を真っ向から受け止め、苦笑いを浮かべた桜は困ったように頬をかく。戒は相も変わらずチョコを頬張ったまま真夜にされるがままになっている。
「「「二人のイケメンが私に微笑んでくれた~」」」
斜め方向に誤解をした女子生徒数人が至福の表情で旅立っていった。戒はチョコを頬張り知らん顔。桜は倒れてしまった数人の女子生徒を見て、不思議そうに首を傾けている。
「世界一美少女な琉璃には負けるけど似合ってるょ。琉璃と付き合わない?」
「お前には久遠君がいるだろ。そんなこと言ってると他の女に取られちまうぞ。久遠君なかなかカッコいいから」
「美少女な琉璃の彼氏だよ。カッコいいのは当たり前でしょ」
「ハイハイ」
もう言い返すのもめんどくさくなり適当に流す。琉璃に付き合ってたら一日中「琉璃美少女」話を聞かなきゃいけなくなる。渚じゃないんだからそれはごめんだ。
「おっ。始まったみたい」
幕が上がり、エントリー№1番からアピールが始まっている。アピール時間は一分。
「仕方ない。ここまできたら楽しむしかないか」
肩を竦めて腰に佩いた太刀に手をかけ、鞘を鳴らす。その音にそっと耳を澄ませ、目を閉じる。
緊張で固まっていた体が解れていくのがわかった。
ミスコンは順調に進み、大いに沸いた。男性陣の衣装は久遠が着物、恭哉がどこかの王子様の格好、悠紀が侍の格好、一夜は和服、螢斗が白衣、龍護が警官服、春は御伽噺にでも出てきそうな王様の格好、南弦が騎士の格好だった(本人は物凄く嫌がっていたが)。
優勝は女子が琉璃で男子は恭哉。男子は最後まで接戦だったが、最後は恭哉が一票差で悠紀に競り勝った。
ちなみに女子の二位が桜と永瀬となっている。男子は二位が悠紀、三位が春。
「はぁ・・・。なんかスゲー疲れた」
準優勝の景品としてもらったお菓子が入っている袋を持ちながら深いため息をつく桜。今の今まであっちこっちから「写真とっていいですか?」とか「握手してください」とか更には「付き合ってください」という内容のものまであってその対応に追われていたのだ。疲れるのも当然だろう。
「準優勝、ね。皆見る目が腐ってる」
誰もいないのをいいことに桜は溜まっていた鬱憤を晴らすかのように延々と文句をたれる。彼女が今いるのは特別棟一階の空き教室。ミスコンが終わった途端たくさんの女子に追いかけられ、咄嗟に逃げ込んだのがここだ。廊下では女子があっちでもないこっちでもないとお互い情報交換しながら桜を探している。
「そろそろ出ても大丈夫かな」
廊下から声が聞こえなくなってきたのを見計らい、小さく呟く。いつまでもここに隠れているわけにはいかない。愁に話したいことがあるのだ。
「九条さんにこっち来てもらうってダメかな」
半分以上本音が入ったセリフが口をついて出た。今出てまた追いかけられて無駄に時間を浪費するよりそっちの方が遥かにマシだと思える桜だった。
思い至ったら即行動の桜は、携帯を取り出すとあの場にいた龍護にメールで九条さんを連れてきてくれるように頼む。と、即行で「わかった」という返事が返ってきた。
ヤベッ。緊張してきた。




